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ICUの毒性学~毒蛇① [critical care]

Toxicology in the ICU: Part 3: Natural Toxins

CHEST 2011年11月号より

北米に棲息する蛇

毒蛇に噛まれて救急部へ運び込まれる患者は年間5000人にも迫る勢いであり、そのうち多くがICUに入室する。毒蛇の被害は南部や田園地域に多いものの、どんな都会や州でも起こりうる。毒蛇が愛玩動物として飼われていることがその一因である。

北米における毒蛇咬傷は、ガラガラヘビ、アメリカマムシ(copperhead)やヌママムシ(cottonmouth)などのマムシ科の蛇と偶然遭遇して咬まれる例が大半を占める。マムシ属の蛇による咬傷のおよそ半数および米国に棲息する毒蛇による死亡例の大多数が、ガラガラヘビによるものである。サンゴヘビ(coral snake、コブラ科)および、米国原産ではない毒蛇による咬傷は全体の5%未満を占めるに過ぎない。

マムシ属の蛇による咬傷の約25%では毒は注入されない。残りの75%では毒が注入される。通常は皮下に毒が広がる。臨床所見の程度は軽症から重症まで幅広く、局所症状のみですぐ軽快する場合もあれば、直ちに全身毒性が発現し死亡に至る場合もある。重症度は注入された毒の強さと量によって決まる。蛇毒には、細胞毒性、血液毒性、神経毒性and/or筋毒性のあるタンパクが含まれている。米国に棲息する毒蛇が持つ毒が含む成分のうち組織を破壊したり、血管透過性を亢進させ浮腫を来したり、血小板やフィブリノゲンの機能を阻害したり、アナフィラキシー反応を引き起こしたり、神経毒性を発現したりするものが臨床的に問題になる。

毒蛇に咬まれると、通常数分から二、三時間のうちに浮腫と疼痛が出現する。もっと時間が経ってから症状が出ることもあり、特に下肢を咬まれた場合は症状発現までの時間が長いことがある。咬傷は目で見て確認することができ、数時間以内に出血性の水疱を形成し、数日かけて進行する。蛇毒はリンパ管に吸収されるため、浮腫は拡大し、近位リンパ節の圧痛が生ずる。頻脈、嘔吐、感覚異常、筋線維束攣縮、下痢、低血圧などが見られることもある。こういった症状のなかには不安感のせいで生ずるものもあるが、早い段階で全身症状が出現する場合は重症例であるかもしれないため気を引き締めなければならない。重症例は、アナフィラキシー様反応をいつ起こしてもおかしくない。咬傷直後に起こすこともある。この場合、口腔・咽頭の血管性浮腫があらわれたり、ショックに陥ったりする危険性がある。蛇毒タンパクに対するIgE抗体をもともと持っている患者では、ほんもののアナフィラキシー反応が起こりうる。神経毒性による症状は筋線維束攣縮や感覚異常程度で済む場合が多いが、モハベガラガラヘビに咬まれると眼瞼下垂、筋力低下および呼吸不全が出現することがある。非常に稀ではあるが、致死的な出血を来すこともある。ほんもののDICが起こることはほとんどないが、蛇毒が血管内に直接注入されてDICが発生した例が報告されている。

毒蛇咬傷は全例入院させなければならない。咬まれた部位に腫脹が見られない場合は少なくとも8時間は観察を続ける。時間が経ってから腫脹が出現する例の中にも重症例があるので注意する。腫脹の有無に関わらず下肢を蛇に咬まれた小児は全例を病院に一泊させ観察することにしている専門家もいる。圧迫包帯の使用は推奨されない。もし搬送前に圧迫包帯が巻かれていたら、病院到着後直ちに除去する。予防的抗菌薬投与の適応はない。咬まれた患肢は動かないように、ほぼ完全な伸展位で背側シーネ固定する。こうすることによって、関節が屈曲することによって浮腫や痛みが増強するのを避けることができる。患肢はできる限り高く挙上しておく。重力によって浮腫がひどくなるのを防ぐためである。咬傷部位とその周辺は、こまめに(少なくとも30-60分おきに)観察し腫脹が進行していないかどうかを評価する。

全例で輸液負荷を行い、過去のワクチン接種履歴を確認した上で必要であれば破傷風ワクチンを追加接種する。蛇毒によって血管透過性が亢進するため、血液濃縮および血管内容量低下が見られることが多い。低血圧を是正するのに大量の晶質液を投与しなければならないこともある。輸液負荷を行っても血圧がすぐには上がらない場合は、アドレナリンの持続静注を開始する。アナフィラキシー様反応により血管性浮腫を来していたり、頭頸部咬傷であったりする場合は、顔、舌または気道の腫脹が少しでも認められれば気管挿管を行わなければならない。アレルギー反応に対しては、副腎皮質ステロイド、抗ヒスタミン薬およびアドレナリンを使用する。

教訓 ガラガラヘビはマムシの仲間です。マムシに咬まれた例のうち、25%は毒を注入されないで済みます。マムシ咬傷例は全例入院させます。
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