SSブログ

ICUの毒性学~植物① [critical care]

Toxicology in the ICU Part 3: Natural Toxins

CHEST 2011年11月号より

本稿は中毒患者のICU管理一般についての三回連続特集の最終回である。今回のテーマは自然毒である。

植物


植物を触ったり食べたりするのは我々にとって日常茶飯事であるが、致命的になるようなことは滅多にない。中毒を起こす植物をTable 1にまとめた。通常、植物のどの部分にも毒性があるが、根や種子は他の部分よりも高い濃度の毒性物質を含有している場合がある。

抗コリン作用のある植物
色々な植物に、ヒヨスチアミンやアトロピンなどの抗コリン作用を発揮するアルカロイドが含まれている。たとえば、白花洋種朝鮮朝顔(jimsonweed[datura])、エンジェルズトランペット(木立朝鮮朝顔)、ベラドンナ(deadly nightshade、オオカミナスビ)、マンダラゲ(mandrake、朝鮮朝顔)、黒ヒヨス(black henbane)などである。一般的には摂取から一時間以内に抗コリン作用による症状が発現し、数日間続く。重症中毒になると、興奮、幻覚、高体温、頻脈、横紋筋融解症、腎不全が起こり、死亡することもある。厳重な対症療法を行われない場合、横紋筋融解症による腎不全、DIC、不整脈または痙攣重積が死因となりうる。禁忌がなければ(てんかん、心室内伝導遅延、気管支攣縮または房室結節内伝導障害などがなければ)、フィゾスチグミンを使用する。有毒植物の抗コリン作用はフィゾスチグミンの作用時間よりも長時間発揮されるため、投与を繰り返さなければならないことがある点に注意する。

ニコチンアルカロイド
タバコ属の植物、ビンロウジ(betel nut、檳榔子)、ドクニンジン(poison hemlock)にはニコチンアルカロイドが含まれている。ニコチンアルカロイドには、最初ニコチン性アセチルコリン受容体を活性化し、やがて阻害する作用がある。よく見られる症状は、感覚異常、吐き気、嘔吐である。重症例では、全般てんかん、自律神経失調、流涎、気管支攣縮および多量の気道分泌物が認められる。典型例では、摂取から15~60分で症状があらわれる。てんかんにはベンゾジアゼピンが有効で、徐脈、気管支攣縮または気道分泌物にはアトロピンを投与する。

幻覚作用を持つ物質
西洋アサガオ(モーニンググローリー)や銀葉朝顔(Hawaiian baby woodrose)には、5-HT2受容体を活性化し幻覚を起こすインドール化合物が含まれている。ナツメッグおよびウバタマにはアンフェタミンと構造が似た化合物が含まれているが、これもセロトニン受容体に作用する。中毒症状は嘔吐からはじまり、その後幻覚作用があらわれる。ひときわ目立つ散瞳が見られることが多く、興奮、頻脈、横紋筋融解症が起こることもある。興奮にはベンゾジアゼピンが有効である。この類の植物による中毒の鑑別診断として考えなければならないのは、抗コリン作用のある植物による中毒である。抗コリン剤中毒では腋窩無発汗が見られるのが特徴的である。

毒芹(water hemlock)/芹(dropwort)
ドクゼリ属およびセリ属の植物には、GABA-A受容体に拮抗するアルコール錯体(シクトキシンなど)が含まれる。この類の植物は水辺に生えるため、野生のパセリやニンジンと間違えて摂取されることがある。食べてしまうと死亡率が高く、突然の嘔吐やてんかんで発症する。てんかんにはベンゾジアゼピンまたはバルビツレートが有効である。横紋筋融解症が出現することもある。

ストリキニーネ
ストリキニーネ中毒は、ストリキニーネの木の成分を摂取すると起こる。しかし、北米におけるストリキニーネ中毒の大半は、ストリキニーネを含む殺鼠剤の誤飲やストリキニーネを含むヘロインの使用によるものである。ストリキニーネは中枢神経系のグリシン受容体に拮抗し、反射亢進、固縮、後弓反張を引き起こす。ちょっとした刺激を与えるだけで筋収縮と固縮が出現するが、ほんもののてんかんが起こることはほとんどない。全身性の運動亢進がてんかんと見間違えられることが往々にしてある。この場合、感覚は正常である。長時間の筋収縮のため横紋筋融解、腎不全、呼吸不全、死亡に至ることがある。ベンゾジアゼピンが無効な場合は、非脱分極性の筋弛緩薬を投与し、人工呼吸管理を行わなければならないこともある。(注:ストリキニーネとキニーネは別の物質です。)

教訓 有毒植物の抗コリン作用は長時間発揮されます。そのためフィゾスチグミンを繰り返し投与しなければならないことがあります。幻覚作用をもたらす西洋朝顔などによる中毒は、抗コリン作用のある植物の中毒と間違えやすいので注意が必要です。抗コリン作用物質の中毒では脇の下に汗をかかなくなることが見分けるポイントです。
コメント(0) 

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。