SSブログ

ICUの毒性学~有毒アルコール、離脱症候群 [critical care]

Toxicology in the ICU Part 2: Specific Toxins

CHEST 2011年10月号より

有毒アルコール

メタノール、エチレングリコールおよびイソプロパノールを有毒アルコールと言う。この三つの有毒アルコールの親化合物にはいずれも浸透圧活性があり、アルコール脱水素酵素によって代謝される。メタノールが代謝されると蟻酸ができ、エチレングリコールはグリコール酸とシュウ酸に代謝される。こうした代謝産物が臨床的毒性の原因である。イソプロパノールは代謝されてアセトンになる。いずれも中枢抑制作用がある。

イソプロパノールは分解されて、アセト酢酸やβヒドロキシ酪酸ではなくアセトンになるので摂取しても代謝性アシドーシスは起こらない。イソプロパノール中毒の臨床所見は、通常は中枢神経抑制のみであるが、時として出血性胃炎が見られることもある。生化学検査の際にアセトンが干渉し、血清クレアチニンが実際の値よりも高く出てしまうことがある。エタノール中毒と同じく、保存的治療を行う。イソプロパノール中毒の治療に際しては、アルコール脱水素酵素を阻害しても効果はない。

エチレングリコールもメタノールも、摂取するとはじめは浸透圧ギャップが増大し、次いで高アニオンギャップの代謝性アシドーシスが生ずる。重症例では昏睡に至る。エチレングリコール中毒ではシュウ酸カルシウム結晶尿と急性腎不全が見られるのが特徴である。メタノールは、網膜出血を伴う視力障害や失明が起こることがある。脳出血の報告例もある。

血清中のエチレングリコール、メタノールおよびイソプロパノール濃度は大半の施設では測定できないが、もし数時間以内に結果が分かれば治療の役に立つ。初期治療方針は、現病歴、理学的所見および検査所見(高アニオンギャップ代謝性アシドーシスか?浸透圧ギャップが増大しているか?など)に基づいて決定する。検査所見については既に本シリーズの第一回で詳細に述べた。

エチレングリコールまたはメタノールの中毒に対する治療法としては、エタノールまたはフォメピゾールを投与してアルコール脱水素酵素を阻害し、毒性のある代謝産物の生成を防ぐという方法がある。フォメピゾールの方がエタノールよりも、投与量調節が用意で副作用が少ない。動物実験のデータに基づき、炭酸水素ナトリウムが推奨されている。炭酸水素ナトリウムは、ヒトの症例報告でも有効性があることが示されている。ガイドラインでは血清中濃度が高ければ透析を行うことが推奨されているが、難治性のアシドーシスがあるか、または末期臓器不全がある場合を除いては、透析は必要ないことが明らかにされている。メタノールを大量摂取したのであれば、フォメピゾールによってメタノールの除去半減期が延長するため透析が有効である可能性がある。また、透析を行うと体内水分量を調節し、浸透圧利尿が起こらないようにすることができる。動物モデルではロイコボリンおよび葉酸がメタノール中毒に有効であることが示されていて、ヒトでもその効果が期待されている。エチレングリコール中毒ではサイアミンおよびピリドキシンを投与すると毒性のない物質に代謝される経路が活性化する。サイアミンやピリドキシンにはたちの悪い副作用はないため、推奨されている。

離脱症候群

ICUに入室した中毒患者の管理においては、離脱症状が発生してそれに関連する合併症を避けるため、離脱症候群を起こす危険性の有無を早い段階で判断することが重要である。ただし、意識障害、併存疾患、不正確な病歴または病歴が不明などの事情により、早期に判断するのは容易ではない。頻度の高い離脱症候群をTable 8にまとめた。

鎮静催眠薬(エタノールを含む)による離脱症候群の最適な治療法に関しては諸説があるが、データによれば、まずベンゾジアゼピンまたはフェノバルビタールを投与するとよい。提唱されている投与法は、計画的投与、要時投与、それに初回ローディング投与(front loading)などである。初回ローディング投与を行うと、症状が速やかに改善する利点がある。また、臨床的な反応を見ながらすぐにベッドサイドでGABAA作動薬の投与を開始/調節し、引き続き計画的投与または要時投与に移行することができる。症状がちゃんと改善されているかどうかを注意深く観察し、医原性過鎮静を維持するよう心がけなければならない。肝機能障害がある患者に関して、肝で代謝される薬剤(ジアゼパムなど)を使用すると合併症発生率が上昇することを示した報告はない。アルコール離脱症候群の治療におけるデクスメデトミジンの有効性を検討した無作為化比較対照試験は、まだ行われていない。

バクロフェンの離脱症候群は治療が困難である。クモ膜下持続投与ポンプの故障によって生じたバクロフェン離脱症候群は、とりわけ難渋する。そのような場合の対処法は、理想としては可及的速やかにクモ膜下にバクロフェンを投与するカテーテルを入れ替えることである。

オピオイドの離脱症候群は、通常は命に関わるようなことはない。意識障害が起こることは滅多にない。例外は、ナロキソン大量投与後の興奮性譫妄である。オピオイド離脱症候群を治療するには、長時間作用性のオピオイドを徐々に減量し、急性痛については別途短時間作用性の薬剤を投与する。コカインやアンフェタミンのような興奮剤は、特有の離脱症候群を生ずることはない。

まとめ

中毒患者は、原因物質の摂取量、全身状態および基礎疾患に応じた個別対応が必要であることが多い。保存療法および二次的合併症の予防が特に重要である。最適な治療を行うには、地域の中毒管理センターまたは医学毒性学の専門家からの助言が不可欠である。

教訓 有毒アルコール(メタノール、エチレングリコールおよびイソプロパノール)は代謝産物に毒性があります。エチレングリコールまたはメタノールの中毒に対する治療法としては、エタノールまたはフォメピゾールを投与してアルコール脱水素酵素を阻害し、毒性のある代謝産物の生成を防ぐという方法があります。フォメピゾールの方が投与量の調節が容易で副作用が少ないのでよさそうです。エチレングリコール中毒ではサイアミンおよびピリドキシンを投与すると毒性のない物質に代謝される経路が活性化します。
コメント(0) 

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。