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ICUの毒性学~抗凝固/抗血栓薬、Caブロッカー、βブロッカー [critical care]

Toxicology in the ICU Part 2: Specific Toxins

CHEST 2011年10月号より

抗凝固薬および抗血小板薬

ワーファリン中毒は、投与量調節の失敗や薬剤相互作用が原因となって起こることが多い。ワーファリンの緊急拮抗の要否は、PT-INRおよび臨床経過から判断する(Table 1)。出血のリスクはINRが上昇するに従って増大する。ワーファリン中毒では、外傷による出血や、原因不明の出血が多い。ワーファリンを過量摂取した場合、数日後にならなければINRは最高値に達しないことがある。そのようなときには、凝固能低下を防ぐにはビタミンKを繰り返し投与しなければならない。スーパーワーファリン(殺鼠剤に含まれるbrodifacoumなど)を摂取した際には、数週間にわたり連日多量のビタミンKを投与しなければならなくなることがある。

チクロピジン、クロピドグレル、プラスグレルはADP受容体阻害薬である。出血時間はADP阻害作用を評価する間接的な指標である。より正確にADP受容体阻害薬の作用を評価するには、血小板凝集能を測定しなければならない。深刻な出血が見られる場合は、血小板輸血が有効である。デスモプレッシンの投与を考慮してもよい。

米国において現時点で認可されている低分子量ヘパリンは、エノキサパリン、ダルテパリンおよびチンザパリンの三剤である。未分画ヘパリンも低分子量ヘパリンもAT-Ⅲに結合するが、低分子量ヘパリンの方が活性化第Ⅹ因子の阻害作用が強い。

ヘパリン過量投与によって起こる可能性のある主な合併症は、出血とヘパリン起因性血小板減少症(HIT)である。ヘパリンを含有するどんな物質によってもHITが発生しうるが、低分子量ヘパリンでHITが起こることは少ない。未分画ヘパリンを投与して出血が見られたら、硫酸プロタミンによってヘパリンを拮抗すればよい。プロタミン1mgでヘパリン100単位を拮抗することができる。しかし、低分子量ヘパリンはプロタミンを投与しても十分に拮抗することはできない。低分子量ヘパリン中毒の治療法を検討した研究は行われていないが、プロタミンを投与しても出血が続く場合は、血液製剤や遺伝子組み換え活性化第Ⅶ因子を使用すべきである。低分子量ヘパリンの使用に際し、凝固能検査は不要である。なぜなら、たとえ過量投与の場合であっても、凝固因子の阻害の程度と出血のリスクとが相関しないからである。

カルシウムチャネル遮断薬

カルシウムチャネル遮断薬は、L型カルシウムチャネルに拮抗し血管を拡張させ、心収縮力、刺激伝導系および心拍数を抑制する。ベラパミルまたはジルチアゼムの中毒では、心収縮力が低下し血管が拡張するが、ジヒドロピリジン(アムロジピンなど)の過量摂取では、心臓に関する基礎疾患がないかまたはβ遮断薬を使用していない患者では、血管拡張作用が前面にあらわれ、時として反射性頻脈が見られる。いずれのカルシウム遮断薬であっても過量摂取すれば生命を脅かす恐れがある。ベラパミル中毒はとりわけ致死的である。

カルシウムチャネル遮断薬は心臓に作用し、徐脈、房室ブロックおよび接合部調律があらわれる。低血圧や低血糖が見られることも珍しくない。血管拡張のため皮膚が温かく乾燥した状態になるため、あたかも心拍出量が適正であるかのような誤った印象を与えることがある。皮膚が温かく乾燥していて血圧が見かけ上正常範囲内であるのに、腎機能低下や代謝性アシドーシスが新たに出現した場合は、心エコーや肺動脈カテーテルを用いて心機能を詳細に評価する必要がある。

速放性製剤を摂取した場合、典型的には6時間以内に作用が発現する。徐放性製剤の場合はもっと長い時間が経過してから毒性が発現し、作用が長期に続く。したがって、過量摂取後、少なくとも18時間は観察を行わなければならない。

治療にあたっては、慎重に輸液療法を行い、直接作用性の昇圧薬を早い段階から投与して血行動態の安定化を図る。カルシウム製剤を静脈内投与すると血圧が上昇するかもしれないので試してみる価値はある。しかし、その効果は症例によってまちまちであり、高カルシウム血症を引き起こすおそれもある。治療抵抗性で臨床的に問題となるレベルの徐脈性不整脈に対しては一時的ペーシングを行う。高インスリン正常血糖療法を考慮してもよい。治療が困難なショックに対し、人工心肺、ECMOおよびIABPが有効であったとする報告がある。

β遮断薬

β受容体を遮断すると、cAMPの濃度が低下する。徐脈、低血圧、様々なブロック、心不全が出現し、時には低血糖が見られる。膜安定化作用のあるβ遮断薬(プロプラノロールなど)はナトリウムチャネルを遮断するので、QRSを延長させ、心収縮力を低下させる。さらに、プロプラノロールは血液脳関門を通過するので、けいれんや昏睡を来しうる。ソタロールはカリウムの流出を阻害し、QTcを延長させる。

過量摂取しても症状がない症例では、速放性製剤なら6時間、徐放性製剤なら8時間観察すれば医学的には問題はない。しかし、ソタロール中毒の場合は、症状発現までに時間がかかるため少なくとも12時間は観察しなければならない。

グルカゴンの早期投与が、β遮断薬中毒に対する治療法の一つである。グルカゴンはβ受容体を介することなくアデニル酸シクラーゼを活性化するからである。初回は、成人では2~5mgを静脈内ボーラス投与する。その後反応を見ながら持続静注(mg/hr)する。症例によっては、初回に最大10mgのグルカゴンを投与しなければならない。グルカゴンを投与すると、吐き気、高血糖、急性耐性などが生ずることがある。直接作用性の昇圧薬を投与する必要が生ずる症例もある。

教訓 低分子量ヘパリンの効果は凝固能検査を行っても分かりません。Caブロッカーの中ではベラパミルが最も深刻な中毒症状を招きます。Caブロッカー中毒には高インスリン正常血糖療法を行うと効果があるかもしれません。β遮断薬中毒ではグルカゴンを早めに投与します。

参考記事
ワーファリンの緊急拮抗~治療の選択肢
ワーファリンの緊急拮抗~PCC vs FFP 
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