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ICUの毒性学~透析 [critical care]

Toxicology in the ICU: Part 1: General Overview and Approach to Treatment

CHEST 2011年9月号より

除去効率を上昇させる方法

外因性化学物質の薬理効果や毒性の発現様式は、標的組織にどれだけ到達するかによって左右される。薬物動態学は吸収、分布、代謝、クリアランスおよび体外への除去などを扱う学問である。体外循環による除去の目的は、標的組織における有害物質の濃度を低下もしくは中毒量に達しないようにすることである。外因性化学物質を体外循環によって除去する場合、当該物質の分子量、タンパク結合率および見かけ上の分布容積によって除去効率が決まる。分布容積が小さい(<1L/kg)物質は組織へ到達しにくく血中濃度が比較的高いまま維持される。分子量が小さく、分布容積が小さく、水溶性が高く、タンパク結合率が低い外因性化学物質については、血液透析による除去が有効である。こういう物質は濾過膜を容易に通過し、透析液に溶けやすいからである。

体外循環による毒物除去の主役は血液透析である。血液透析を行えば、薬物およびその代謝産物の血中濃度を低下させるとともに、体内水分量および電解質の異常も同時に是正することができる。血液透析が有効な外因性化学物質をTable 5にまとめた。血液吸着はタンパク結合率の高い物質の除去効率が高い。カルバマゼピンなどの中毒では血液透析よりも血液吸着の法が有効であるが、米国に所在する医療施設の大半では血液吸着は行われていない。

血液透析の利点は、技術的な難しさがなくどこでも実施が可能であることである。血液透析では循環血液中の外因性化学物質しか除去することができないため、コンパートメント間を移動する物質や吸収に時間がかかる物質の中毒では長時間または繰り返しての透析が必要になることがある。その一例がリチウム中毒の治療である。リチウムは透析後何時間も経ってから再分布して、血中濃度が再上昇する。このように血中濃度の再上昇(リバウンド)が懸念される場合には、血液透析を終了するに先立ちカートリッジに流入する血液を用いて当該物質の濃度を測定しなければならない。血液透析を行うと、治療目的で使用している薬剤まで除去されてしまうことがある。その場合は、薬剤の投与間隔を短くしなければならない。

体外循環による除去には、分子吸着材再循環システム(molecular adsorbent recirculating system)、低効率透析(sustained low-efficiency dialysis)、持続的腎代替療法(continuous renal replacement therapy)などの新しい方法が登場している。中毒患者の治療にこういった方法が有用であることもあるが、一般的には補助的療法として位置づけておくべきである。また、持続的腎代替療法が間欠的透析よりも低血圧患者には安全であるということを示そうとした複数の研究では、思ったような結果は得られずじまいであった。

血液透析で除去できる外因性化学物質

サリチル酸は分子量が小さく、分布容積が比較的小さく、タンパク結合率が高いが、過量摂取した場合にはタンパクに結合していない遊離サリチル酸が増えるため、血液透析が有効である。サリチル酸中毒の治療においてどのタイミングで血液透析を開始すべきかを根拠に基づいて示したガイドラインはない。意識障害、肺水腫、痙攣が認められるか、保存的治療を積極的に行ってもサリチル酸血中濃度が高止まりまたは上昇傾向が認められたり、急性過量摂取で血清中サリチル酸濃度が100mg/dL付近まで上がっていたりする場合には、血液透析を緊急実施するのが一般的である。

リチウムイオンは分子量が小さく、タンパク結合率は非常に低く、分布容積が小さい。サリチル酸中毒と同様に、どのタイミングで血液透析を開始すべきかを根拠に基づいて示したガイドラインはない。その上、リチウム中毒の臨床転帰が血液透析によって改善することは今のところ証明されていないため、診療の実態にはばらつきがあり、最善の治療法については異なる様々な意見が示されている。医学分野の毒性学専門家の多くが、リチウムイオンを透析で除去すべきかどうかを判断するには、血中濃度よりも脳症または神経毒性などの臨床所見を重視すべきだと考えている。急性リチウム中毒では、再分布が終了する以前の段階、つまりリチウム摂取から2~3時間以内の血中リチウムイオン濃度は軽く4mEq/Lを超えるが、臨床症状はほとんど出現しない。しかし、リチウムが中枢神経系に到達しないうちに血液透析を行って除去すべきだと主張する専門家もいる。持続的腎代替療法であれば、リチウムを緩徐に除去することができ、血中濃度の再上昇を防ぐこともできるためリチウム中毒の治療に有用であるとされている。しかし、持続的腎代替療法の有益性を裏付けるエビデンスは限られているため、リチウムイオンを体外循環によって除去する場合に推奨される方法は、今のところはやはり血液透析である。

エチレングリコールおよびメタノールは分子量が小さく、タンパク結合率が低く、分布容積が小さい。血液透析を行えば、親化合物も毒性のある代謝産物も一挙に除去することができる上に、pH、体内水分量および電解質の異常も是正することができる。メタノールまたはエチレングリコール中毒に対し、アルコール脱水素酵素の安全かつ有効な阻害薬であるフォメピゾールが登場し、血液透析の適応が変わった。フォメピゾールが登場する以前は、血漿中のメタノールまたはエチレングリコール濃度が50mg/dLを超えると血液透析を開始していた。現在では、フォメピゾールを投与した場合には血中濃度が高いだけで血液透析を行ってはならないことになっている。しかし、高度の代謝性アシドーシスや腎機能障害が認められる場合は、有毒なアルコール系化合物の血中濃度に関わらず血液透析を行わなければならない。イソプロパノールも血液透析で除去できるが、毒性の極めて少ないアセトンに代謝されるため、大半のイソプロパノール中毒症例では血液透析を行う必要はない。

教訓 分子量が小さく、分布容積が小さく、水溶性が高く、タンパク結合率が低い物質は、血液透析による除去が有効です。
透析で除去できる物質 サリチル酸、フェノバルビタール、テオフィリン、メタノール、エチレングリコール、リチウム、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、イソプロピルアルコール、バルプロ酸、カルバマゼピン
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