SSブログ

ICUの毒性学~中毒症候群② [critical care]

Toxicology in the ICU: Part 1: General Overview and Approach to Treatment

CHEST 2011年9月号より

交感神経刺激作用による中毒症候群は、コカインやメタンフェタミンが原因薬剤であることが多い。一部の市販薬や処方薬に含まれるシュードエフェドリン、カフェインおよび注意欠陥障害治療薬(メチルフェニデートなど)も同様の中毒症候群を引き起こす。その徴候は頻脈、高血圧、高体温、頻呼吸、興奮および発汗である。瞳孔は開くが対光反射は認められるのが特徴である。興奮による不穏および筋肉の過活動もよく見られる。時として致死的な高体温に陥ることがある。

交感神経刺激薬は交感神経の活動を全般的に亢進させる。その機序は薬剤によってまちまちである。例えば、カテコラミン放出の促進、カテコラミン再取り込みの阻害、受容体の直接刺激および神経伝達物質代謝の変容などである。コカイン中毒にベンゾジアゼピンが有効である一方で、アンフェタミン中毒にはベンゾジアゼピンはあまり効果を発揮しないのは、コカインとアンフェタミンでは作用機序が異なるからであると考えられている。クレンブテロールはβ受容体を直接的に刺激する。タンパク同化作用と脂肪分解作用を期待して用いられる長時間作用性の薬剤である。この薬を使用すると、頻脈、高血糖、低カリウム血症、心筋梗塞が起こることがある。

長期間使用している催眠鎮静薬を急に止めると催眠鎮静薬離脱症候群(ベンゾジアゼピン離脱症候群)が起こり、交換神経刺激薬による中毒症候群と似た様相を呈することがある。アルコール離脱症候群の患者では痙攣が見られる場合があり、その90%以上がアルコール摂取をやめて48時間以内に出現する。入院患者のうちアルコール依存歴のある患者の5%に重篤なアルコール離脱症状が発生する。エタノール離脱症状の中でも最も深刻なのが振戦譫妄で、感覚異常、神経筋活動の異常および自律神経の過活動といった症状が出現する。積極的に治療を行えば、アルコール離脱症候群による死亡率は5%未満である。

三環系抗うつ薬、抗ヒスタミン薬、抗精神病薬およびサイクロベンザプリンなどの薬は、異なる系統の薬を複数使用すると抗コリン薬中毒症候群が起こる。抗コリン薬中毒症候群は、正確に言えば抗ムスカリン薬中毒症候群である。その症候は、瞳孔散大、皮膚の乾燥および紅潮、譫妄、高体温、頻脈、尿閉および腸管蠕動音減弱である。瞳孔散大は、特にα遮断薬を併用した場合には、必ずしも認められない。抗コリン作用の現れ方と重症度は、摂取量によって左右されることが多い。少量であれば口腔内および皮膚の乾燥が主な症状である。中等量では、発汗停止、瞳孔散大および頻脈が認められるようになる。さらに量が増えると、中枢性の抗コリン作用のため運動失調、激越、譫妄、幻覚、昏睡などが出現し、ぶつぶつ言ったり、支離滅裂なことを話したり、幻覚を見たり、撮空模床(実在しないものをつかもうとする行動)したりする。

コリン作動薬中毒症候群の特徴は分泌物の増加である。流涙、垂涎、多量の痰および尿便失禁が出現する。典型的には有機リン系殺虫剤の中毒で起こるが、エドロホニウムやフィゾスチグミンのようなアセチルコリンエステラーゼに作用する薬剤も原因となり得る。徐脈になることが多いが、ニコチン受容体の活性化により頻脈が起こったり低酸素症に陥ったりすることもある。多量の痰、気管支攣縮、徐脈および低血圧は不吉な徴候であり、速やかにアトロピンを投与しなければならない。ニコチン受容体が過度に刺激され呼吸筋麻痺を含む筋力低下が起こることがあるが、これはアトロピンを投与しても改善することはできない。

複数のセロトニン作動薬の内服による相互作用や過量服用によりセロトニン症候群が起こり中枢神経系のセロトニン活性が上昇し、色々な症状が出現する。はじめは頻脈や振戦などの軽い症状が見られる。原因薬剤を中止しない場合や、複数のセロトニン作動薬を使用した事によるセロトニン症候群の場合は、もっと重篤な症状を呈する。例えば、高体温、ミオクローヌス、筋強直、眼球クローヌス、激越、譫妄、発汗などである。

悪性症候群の特徴は、高体温、意識障害、自律神経失調、鉛管様強直(筋緊張が亢進するが、振戦や歯車様運動は見られない)である。セロトニン症候群はシナプスのセロトニン濃度が上昇すれば起こる可能性が上昇するため発症を予測できるが、悪性症候群の少なくとも一部は特異体質によって発症するため予測ができない。しかし、高用量の向精神薬を開始するときや、投与量を急速に増加させるときは、悪性症候群が発症する危険性が増大する。悪性症候群は重症度によって症状が異なる。軽症の場合は、意識障害と筋強直があらわれるに止まるが、重症例では致死的な自律神経失調、高体温および横紋筋融解症が出現する。高体温が長時間継続すると、転帰は不良である。一般的に、悪性症候群は定型または非定型抗精神病薬を治療目的で投与した際に起こるが、レボドパやカルビドパなどのドパミン様薬剤の使用中断後に発生することもある。悪性症候群は他の疾患を除外して診断する。鑑別診断は、セロトニン症候群、抗コリン薬中毒、重症の緊張型統合失調症および悪性高熱である。

教訓 コリン作働薬中毒(有機リン中毒)はSLUDGE症候群を呈します(S:salivation、L:lacrimation、U:urination、D:defecation、G:GI(diarrhea)、E:emesis)。よだれ、涙、尿、便、下痢、嘔吐(=sludge汚泥)でぐちゃぐちゃな感じです。
コメント(0) 

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。