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ICUの毒性学~中毒症候群① [critical care]

Toxicology in the ICU: Part 1: General Overview and Approach to Treatment

CHEST 2011年9月号より

我々医師は、様々な状況で何らかの中毒になった重症患者には日常的にお目にかかる。次々と登場する処方薬や違法薬物の過量摂取や遊興目的での乱用の結果出現する多彩な臨床症状は、いつでも集中治療専門医の頭痛の種である。本稿はCHEST誌上でこれから三回シリーズとして掲載する毒性学特集の第一弾で、管理法、検査、毒物を体内から速やかに除去する方法についての一般論および新しく登場した治療法を紹介する。第二回においては特定の薬物の過量摂取を取り上げ、第三回では植物、きのこ類、蛇・サソリ・蜂・蜘蛛などの毒について触れる。

中毒症候群(toxidromes)

毒物にはそれぞれ特有の中毒症候群(toxic syndrome=toxidrome)があるが、多くの毒物の薬理学的特性には類似点があるため、原因薬物が特定できなくても臨床像に基づいて予測的治療を行うことができる。オピオイド、催眠鎮静薬、抗コリン薬、コリン作動薬および交感神経刺激薬についての中毒症候群は古くからよく知られている(Table 1)。

オピオイド中毒症候群は古典的には、モルヒネやコデインなどの植物由来の天然オピオイドまたはオキコドン、ハイドロコドン、ハイドロモルフォンおよびフェンタニルなどの合成オピオイドによりオピオイド受容体を刺激したときに見られる。オピオイド中毒症候群の特徴は、徐脈、意識レベル低下および縮瞳である。縮瞳と呼吸数12回/分以下の二つの徴候はいずれもナロキソンに反応するかしないかを判断する上で感度(それぞれ88%、80%)、特異度(それぞれ90%、95%)ともに高い指標である。オピオイドは自律神経の活動を全体的に低下させる。徐脈、低血圧および低体温が見られることが多い。腸管蠕動音が減弱することもある。

以上の古くから知られる典型的なオピオイド中毒症候群は、他の色々な薬剤とともに過量摂取した場合にははっきりしないこともあるし、オピオイドの種類によっては特有の臨床的特徴があることを知っておかなければならない。メペリジン、プロポキシフェンおよびトラマドールは痙攣を引き起こすことがある。トラマドールまたはメペリジンの中毒や複数のオピオイドを同時に摂取した場合には、必ずしも縮瞳は現れない。プロポキシフェンはナトリウムチャネルを阻害し、QRS時間が延長したり心血管系が虚脱したりする。一方、メサドン中毒の際にはカリウムの細胞外流出が阻害されQT時間が延長する。多量のフェンタニルを急速に静脈内投与すると、胸壁が硬直し換気が困難になることがある。

同様に、催眠鎮静薬による中毒症候群でも自律神経の活動が全般的に低下する。ベンゾジアゼピン、ベンゾジアゼピン類似薬(ゾルピデムなど)、バルビツレート、カリソプロドール、抱水クロラール、エタノールおよびバクロフェンなどが該当する。大半の催眠鎮静薬はシナプス後GABA A受容体に結合してクロールの細胞内流入を促進し神経細胞を過分極させるため、中枢神経系の活動が低下する。その臨床効果は、抗不安作用および既に指摘した中枢抑制である。そして、呼吸抑制や低体温が引き起こされることもある。

教訓 縮瞳と呼吸数12回/分以下の二つの徴候はナロキソンに反応するかしないかを判断する良い指標です。ただし、トラマドールまたはメペリジンの中毒や複数のオピオイドを同時に摂取した場合には、縮瞳があらわれないことがあります。
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