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ARDS患者には従量式より従圧式① [critical care]

Point: Is Pressure Assist-Control Preferred Over Volume Assist-Control Mode for Lung Protective Ventilation in Patients With ARDS? Yes

CHEST 2011年8月号より

従圧式補助/調節換気(PACV)は、呼吸インピーダンスや患者の呼吸努力とは関係なく、ほぼ一定の圧をかけて気道を開通させる時間設定(time-cycled; 予め吸気時間が決められている)換気方式である(Fig. 1)。この20年間にこの換気方式は年を追うごとに好まれるようになった。その理由の一つは、事実上流量が青天井でありながら最高気道内圧を制御することができるからである。多くの臨床医にとって、PACVは「肺保護」人工呼吸の構成要素として確固とした位置を占めている。いずれの換気方式も安全に実施できるのかそうでないのかは、担当医が選択した人工呼吸器設定、人工呼吸の過程にさまざまな制限を設けるアラームの内容、ケア担当者がしっかり監視して時々刻々と変化する病態に適切に対応しているか、などによって左右される。したがって、この意図的に両極端の意見を戦わせようとする企画のはじめに、ある換気方式が別の換気方式より本質的に安全であるというようなことはないことを理解するのが重要であることを指摘したい。

VILIの原因は?

VILI(人工呼吸による肺傷害)は、主に(必ずしも全てではないが)肺胞レベルで発生する。周期的サイクル(膨脹と虚脱)の機械特性だけでなく、単位時間あたりに周期的サイクルが何回起こるのかとか、機械的力に対する反応を変化させる重要な基礎因子(血圧、体位、体温など)が、VILIの発生過程に関与している。

肺組織に過剰な歪み(strain、ひずみ)がかかることが、人工呼吸による傷害発生のはじまりである。その機械特性については未だ議論の多いところではあるが、最高経肺圧(肺胞内と肺胞外の圧差の最大値)によって生み出される応力(stress)が重要な要素であることは言を俟たない。ここでまず、この経肺圧を肺胞内圧と胸腔内圧の差と見なす。胸腔内圧は食道にバルーンを挿入して測定した圧で代用するのが通例である。ただし、食道内圧は食道内の測定部位から離れた局所の胸腔内圧は反映しない。その上、障害を受けた肺では肺胞を取り囲む間質の圧は、食道内圧測定部位に近接した胸膜表面の圧とは大きく隔たっている可能性がある。そして、肺胞が開存している部分と虚脱している部分との境界面に当たる肺実質に加わる張力は、肺全体の経肺圧よりもほぼ確実に高い。そのため、こういった部分の肺胞にかかる圧は他の部分の何倍にもなる(Fig. 2)。

最新の研究では、気道応力および経肺応力(いずれも気道内圧および経肺圧に反映される)が閾値を超えなければ肺の広範な障害は発生しないことが明らかにされている。閾値を超えるのは、一回換気量が安静呼吸時に機能している「新生児肺(baby lung)」の肺容量を超えたときであると考えられている。機能的残気量(FRC)の多寡および肺組織の状態がどれだけ不均質であるかによって、一回換気量によって生ずる応力が大きくなったり小さくなったりする。一回換気量と、一回換気量分の気体が送り込まれる空間(つまりFRC)との比と相関する測定可能な値が圧である。一回換気量というものは、それによって生ずる組織の歪みを非常に大雑把にあらわす指標でしかない。少ないと思われている一回換気量(予測体重1kgあたり6mL)と大きいと思われている一回換気量(予測体重1kgあたり12mL)によるそれぞれの歪みにそれほど差はないのである。

最高経肺圧が一回の換気サイクルにおいて肺にダメージを与える機械的な力を反映することは非常に重要な点である。しかし最高経肺圧だけが問題なのではない。最高吸気終末圧(プラトー圧)と呼気終末肺胞内圧との圧差(駆動圧)も最高経肺圧と同じかそれ以上に需要である。最高経肺圧が肺に障害を与える閾値を超えると一回の換気中にブランコが揺れ動くように大きくなったり小さくなったりする圧の差の大きさや変化の急激さが極めて重大な影響をおよぼす。したがって、同じ最高肺胞内圧であっても、その圧が大きい一回換気量と低いPEEPの組み合わせによって生じている方が、小さい一回換気量と高いPEEPの組み合わせによって生じている場合よりも、肺に障害が起こりやすい。特に、肺が短時間で急速に拡張されるときには、高一回換気量と低PEEPの組み合わせはよくない。一回換気ごとに肺胞が虚脱再開通を繰り返すと、肺胞上皮表面が断裂しサーファクタントが減少する。PEEPを高く設定する換気法が有効なのは、虚脱再開通を予防することができるからである。しかし、駆動圧そのものを低く保ち、粘弾性による肺組織の捻れや肺組織に加わる機械的エネルギーを減少させることができることも関係しているのかもしれない。虚脱再開通を繰り返す部分にとどまらず、常に含気が保たれている部分ではあっても気体と血液を分ける脆弱な膜については駆動圧が低いことが重要なのであろう。

参考記事
ALI/ARDS肺の応力と歪み~方法
ALI/ARDS肺の応力と歪み~結果
ALI/ARDS肺の応力と歪み~考察①
ALI/ARDS肺の応力と歪み~考察②

教訓 
歪み(strain)=ΔV/FRC
ΔPL(応力)=ELspec(特異的肺エラスタンス)×ΔV/FRC(歪み)
ALI/ARDSの人工呼吸管理を行うときの注意点 ①含気が保たれている部分にstrainをあまりかけない、②虚脱・再開通を繰り返す部分を減らす、③リクルートメント不能な部分に含気を取り戻そうとしない
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