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心外・脳外以外の手術における周術期脳血管障害~リスク① [anesthesiology]

Perioperative Stroke in Noncardiac, Nonneurosurgical Surgery

Anesthesiology 2011年10月号より

リスクがあるのは誰?

基礎疾患

周術期虚血性脳血管障害の危険因子として各研究で共通して指摘されているものをtalbe 2に示した。この中でも特に重大な危険因子は、年齢、脳血管障害の既往および心房細動である。女性より男性の方が周術期脳血管障害を発症しやすいというデータもあれば、そうではないことを示すデータもある。

頭蓋外頸動脈狭窄と周術期脳血管障害の関連については、諸説があり結論は出ていない。頸動脈雑音(bruit)は頸動脈狭窄の程度とは相関しないし、周術期脳血管障害のリスクを増大させるわけでもない。心臓手術を受ける患者に高度の頸動脈狭窄がある場合でも、周術期脳血管障害は反対側に起こることが多く、頸動脈狭窄のみに原因を求める訳にはいかないのが通例である。しかし現時点では、心外/脳外以外の患者を対象とした頸動脈狭窄と周術期脳血管障害のリスクに関するデータは不足している。頭蓋内の血管に狭窄がある患者における周術期脳血管障害のリスクは不明であるが、(周術期ではなく)外来などで管理している場合、こういった症例の脳血管障害発症リスクは極めて高く(年15%)、おそらく周術期にも発症リスクが高いものと考えられる。

術式

手術の内容も、周術期脳血管障害の発生に関わっている。例えば、股関節置換術や末梢血管手術では、膝関節置換術や一般外科手術よりも脳血管障害の発生頻度が高い。頭頚部手術の場合、脳血管障害のリスクが0.2-5%増大する。頭頚部癌のため頸部郭清を要する患者は、もともと複数の基礎疾患を有していて、手術を行わないとしてもそもそも脳血管障害のリスクが高いことが多い。その上、放射線外部照射が行われ、動脈のアテローム変化が促進されてしまう。したがって、頸部郭清症例で血管を操作することによってプラーク破綻、塞栓、血管攣縮が起こることが珍しくないのは当然と言ってもよい。

他の術式でも、脳血流量を低下させる可能性があれば脳血管障害のリスクが増大する。PohlとCullenは、ビーチチェア体位(ほぼ90°の座位に近い体位)での肩関節手術後に脳血管障害または脊髄損傷が発生した四症例について報告している。二名は後頭蓋窩梗塞、一名は多発脳梗塞および側頭葉梗塞、もう一名は片側の分水嶺梗塞を発症した。この報告の著者らは脳梗塞の発生機序については推測の域を出ないとしながらも、体位による低血圧や頸部の過回旋または過伸展によって脳血流量が低下し血栓塞栓形成による脳血管障害の発生が促された可能性を指摘している。座位手術中に脳の酸素飽和度を測定した研究では、患者の80%において酸素飽和度が20%以上低下することが明らかになったが、脳神経系の有害事象は発生しなかったと報告されている。脳血管障害発生例が見られなかったのは、標本数が少なかったことと、脳の酸素飽和度の低下(50%未満)が、比較的長時間、おそらく50分程度続かなければ脳血管障害は発生しないためであろう。ビーチチェア体位による肩関節手術後の脳血管障害リスクについては、脳血管障害そのものではなく代替エンドポイントを用いた研究が行われているもののまだはっきり分かっていない。

教訓 周術期脳梗塞の危険因子は年齢(おおむね70歳以上)、脳血管障害の既往および心房細動です。頭頚部手術の場合、脳血管障害のリスクが0.2-5%増大します。放射線外部照射が行われ動脈のアテローム変化が促進されるので、頸部郭清の際に血管を操作するとプラーク破綻、塞栓、血管攣縮が起こりやすいと言われています。
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