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術後肺合併症による医療・経済負担と予防策~経済損失 [critical care]

Clinical and economic burden of postoperative pulmonary complications: Patient safety summit on definition, risk-reducing interventions, and preventive strategies

Critical Care Medicine 2011年9月号より

術後肺合併症による経済損失

術後肺合併症は大きな経済損失を招く。医療費を評価する際には、入院期間が標準的な評価基準として用いられる。Khanらの研究では、非心臓手術患者において術後肺炎が発生すると、入院期間が89%延長し入院医療費は55%増加することが明らかにされている。腹部手術の患者を対象としたThompsonらの研究では、術後肺炎が発生すると入院期間が11日延長し、入院医療費が31000米ドル(2000年)増加することが分かった。全体的に見ると、術後肺炎による入院期間の平均延長日数は約8日である。

Linde-Zwirbleらは米国に所在する414ヶ所の病院が参加する大規模データベースを用い2008年に行われた成人の予定手術に関するデータを解析した。ICD-9-CMのコードで術後肺合併症(術後の気管支攣縮、肺炎、気管気管支炎、胸水、無気肺、ARDS、気胸および呼吸不全)の患者を割り出した。次いで、術後肺合併症が退院時期および医療資源の利用状況を調査し医療費を算出した。医療資源の累積利用量の算出し、各術式について術後合併症の有無によって転帰を比較して、術後合併症の各細分類について結果をまとめた(Table 2)。こうして得られた結果を米国全体に当てはめると、術後肺合併症によって予定手術一件あたりの平均医療費が717米ドル押し上げられていて、全体ではICU入室件数92,200件、ICU在室日数584,300日、総医療費34億2千万米ドルの増大につながっている。

再入院率は、医療費に加え医療の質を評価するための基準項目である。Siglらの研究では、術後肺合併症を発症した16~64歳の患者は、発症しなかった場合と比べ30日以内の再入院率が1.7倍にのぼることが明らかにされている。一方、術後肺合併症を発症しても、65歳以上であれば発症しなかった群と比べ再入院率に差がないという一考に値する結果が得られている。Jencksらは2003年から2004年のデータを用い、メディケア受給者の再入院について調査した。2004年における予定外再入院全症例にかかった医療費は174億米ドルにのぼった。この研究では、術後退院した患者のうち22.4%が退院後1年以内に再入院したことが明らかにされている。また、術後30日以内に15.6%もの患者が再入院していた。退院後30日以内の予定外再入院の理由として二番目に多かったのが肺炎で(一番多いのは心不全)、全術後患者の4.5%を占めていた。この研究の著者は、再入院は医療費高騰につながり、再入院に至った症例では術後管理が適切に行われていないことを示している可能性があると述べている。

医療費は直接的に評価することも可能である。術後合併症が全くなかったか軽微なものしか発生しなかった患者と比較し、重大な術後合併症が発生した患者では医療費の中央値が格段に高い。この差は、患者特性によって調整した後も認められる。DimickらはNSQIPのデータを用い2001年から2002年の手術患者1008名について、患者自己負担および私的医療保険からの医療費支払いを調査した。その結果、肺合併症を含むいずれかの種類の重大な術後合併症が発生した場合には、入院医療費が一人あたり11,626米ドル増加することが分かった。この研究の著者は、合併症を減らせば経費削減につながり、NSQIP民間部門への参入に必要な費用を捻出することができるのではないか、としている。これに引き続き、同じデータベースを用いた解析が行われ、術後合併症が発生すると病院への医療費償還がコストをようやくわずかに上回るほどに利益率が低下することが明らかにされた。

教訓 米国では、術後肺合併症によって予定手術一件あたりの平均医療費が717ドル(ドル/円76円とすると54492円)押し上げられていて、全体ではICU入室件数92,200件、ICU在室日数584,300日、総医療費34億2千万米ドル(2600億円)の増加につながっています。
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