SSブログ

術後肺合併症による医療・経済負担と予防策~医療負担 [critical care]

Clinical and economic burden of postoperative pulmonary complications: Patient safety summit on definition, risk-reducing interventions, and preventive strategies

Critical Care Medicine 2011年9月号より

肺合併症による医療負担

術後肺合併症について原因をたくさん列挙することはできるが、その医療負担の全貌を把握したり程度を評価したりするのは困難である。特に、入退院管理データを用いる場合には難航する。診断群(DRG)および国際疾病分類第9回改訂版診療分類(ICD-9-CM)を用いた合併症のコード登録は、煩雑を極めている。このような分類においては、術後とか肺炎といった単純な言葉のカテゴリー割り当てが曖昧で混乱のもとになっている。例えば、類型不詳の肺炎、市中肺炎、非定型肺炎、または院内肺炎は単純性肺炎としてDRGコード193-195に分類されている。誤嚥性肺炎(これそのものが化学性肺炎と識別困難である)、グラム陰性菌肺炎またはブドウ球菌/MRSAによる肺炎は複雑性肺炎としてDRGコード177-179に分類されている。人工呼吸器関連肺炎(VAP)はDRGコード205-206に分類されている。

コード登録された合併症が入院時に本当に存在していたのかどうかを判断するのは困難である。さらに、術後肺合併症の診断法についての臨床的エビデンスはごく限られているか皆無である。以上のような事情のため、病名報告が不正確になってしまったり、診断名の妥当性に疑念が持たれたりする可能性がある。例えば、カリフォルニア州およびコネティカット州在住高齢メディケア受給者の1994件の入院症例から無作為に485例を抽出してカルテを閲覧したところ、術後肺炎が起こった症例のうちICD-9-CMにおいて術後肺炎とコード付けされた症例は50%に止まることが、明らかにされている。

術後肺合併症はこのように色々な問題をはらんだ、ありふれた事象である。予定腹部手術症例2291例を対象とした症例対照研究では、術後肺合併症の発生頻度は、術後心臓合併症のおよそ二倍であった(9.6% vs 5.7%、無気肺は除く)。また、術後肺合併症発生例の入院期間は術後心臓合併症の2倍であった(22.7日 vs 10.4日)。術後肺合併症には術後心臓合併症に対するのと同程度の注意が払われているに違いない、と思いたくなるが、実際には術後肺合併症が医療にもたらす負担は、未だに軽んじられ見過ごされているのである。カナダにおいて2001年から2003年のあいだに胸部以外の予定手術を受けた比較的健康な患者1055名を対象とした前向きコホート研究では、38名につき1名(2.7%)に術後肺合併症(具体的には、人工呼吸を要する呼吸不全、肺炎、気管支鏡による吸痰を要する無気肺、胸腔穿刺を要する気胸または胸水)が術後7日目までに発生したというデータが得られている。米国に所在する414か所の病院における外科退院患者全員についての2008年版データベースを用いた新しい研究では、カナダの研究よりも術後肺合併症発生率が高く、1,233,475名の患者コホートのうち160,984名(13.1%)に術後肺合併症(術後肺炎、呼吸不全、気管支攣縮、気管気管支炎、胸水、無気肺、気胸)が発生した。このデータを米国全体に当てはめると、理論的には年間1,062,000例の術後肺合併症が発生し、46,200の死亡数増につながり、入院期間は480万日も延長すると推定される。これに伴うコスト増は、数十億ドルにのぼるであろう。以上を踏まえ、術後患者8名あたり約1名に術後肺合併症が発生し、術後院内死亡3例あたり2例以上に術後肺合併症が関与していると我々は考えている。クリーブランドクリニック周術期診療記録システムやメディケアなどのデータベースでも、術後肺合併症による悪影響についての有用な情報が示されている。Siglらの研究では、術後患者の5%から10%に術後肺合併症が発生し、死亡率、30日後までの入院期間および30日後までの再入院などの転帰が悪化することが明らかにされている。Jencksらの研究では、再入院の原因として頻度が高い病態が術後肺炎であることが報告されている。

術後合併症を減らす第一歩は、高リスク患者を術前に同定することである。次に、複雑化する診療内容、経営側面からの締め付け、その他の障害などによるがんじがらめの制約のなかでリスク因子を改善しなければならない。アメリカ外科学会が後援するNSQIP(National Surgical Quality Improvement Program)などの取り組みによって、術後肺合併症についての認識が高まり、改善のための体系的アプローチ法も普及してきた。NSQIPでは入院、日帰りを問わず大手術を受ける患者について、術前リスク因子、手術に関わる因子、術後30日死亡率および合併症発生率など135項目のデータを収集している。集められたデータは解析の上、年一回参加施設に報告されている。この報告書は、各施設における質の向上に関わる取り組みの基礎となるとともに、全てのアメリカ外科学会NSQIP協力施設に年一回周知される「ベストプラクティス」の内容の継続的刷新にも役立っている。NSQIPの総合的な目的は、手術による合併症や死亡を減らすことであり、その一つが術後肺合併症なのである。

教訓 術後肺合併症についてのいろいろな研究で得られた結果をまとめると、術後患者8名あたり約1名に術後肺合併症が発生し、術後院内死亡3例あたり2例以上に術後肺合併症が関与していると推測されます。
コメント(0) 

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。