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術後肺合併症による医療・経済負担と予防策~概観 [critical care]

Clinical and economic burden of postoperative pulmonary complications: Patient safety summit on definition, risk-reducing interventions, and preventive strategies

Critical Care Medicine 2011年9月号より

臨床上の有害事象の中にはその危険性の低減が可能であるものがあり、術後肺合併症はその一つである。米国では、このような有害事象の発生を予測したり予防したりすることが医療の質や安全性を向上させる主要課題となっている。術後肺合併症は、非心臓手術、心臓胸部外科手術のいずれにおいても術後合併症リスク全体に影響する主要因である。術後肺合併症は術後心臓合併症よりも発生頻度が高く、死亡率の増加にもつながっている。それなのに、術後肺合併症の顛末や予防に対する認識は昔からそれほど高くない。

2009年12月7日、患者安全向上サミットがワシントンDCで開催された。その席上で、術後肺合併症が大きな医療負担および経済損失をもたらしていることが指摘された。このサミットで示された目標は以下の通りである。1) 術後肺合併症についての医師の認知を向上すること。2) 術後肺合併症は国をあげての取り組みを要する重大な公衆衛生上の問題であることを広く知らしめること。3)臨床転帰の悪化および医療費増大という術後肺合併症による悪影響を低減するための対策を提示すること。4) 術後肺合併症のリスクが高い患者、改善可能なリスク因子のある患者、予防策や通常より高度なモニタリングを行うことによって恩恵を受けられると考えられる患者を同定するためのアルゴリズムの構築。 5) 以上のような問題を周知するための教育の普及。

本論文では、1) 術後肺合併症が患者、医療機関および社会全体に与える医療負担および経済損失を浮き彫りにし、2) 術後肺合併症が臨床転帰および医療費におよぼす影響を緩和するための方策を提示し、3) 転帰や医療の質を検討するのに資する、術後肺合併症に関する簡潔明瞭な定量評価法の決定版を紹介する。

術後肺合併症の概観

大雑把に言うと、術後肺合併症とは術後患者の経過に望ましくない影響を及ぼす可能性のある呼吸器系の異常のことである。軽度の無気肺、気管支攣縮または気管気管支炎など、特に治療を行わなくても治る一時的な軽度の低酸素血症を来すような病態も術後合併症に含まれる。しかし、より重症化した無気肺、気管支攣縮または気管気管支炎だとか、術後肺炎、膿胸、気胸、ARDS、肺塞栓または呼吸不全(通常、術後48時間が経過しても抜管できない場合と定義される)などの術後肺合併症は、重症合併症発生率および死亡率の大幅な上昇につながる可能性がある。中でも無気肺は、急性肺傷害の根本的な機序の一つであると考えられていることもあり、術後の重症低酸素血症の主な原因であるとともに、ICU滞在期間および入院期間の長期化にもつながる。

術後肺合併症は複数の病因によって発生し、術前、術中および術後の無数の危険因子が関与する。病因として確立しているのは、機能的残気量や全肺気量の低下である。機能的残気量や全肺気量が低下していると、換気-血流不均衡が起こり低酸素血症に陥ってしまう。全身麻酔、胸部または上腹部の手術創による術後疼痛、横隔膜の機能的低下や頭側偏位、下側肺無気肺、肺および胸壁コンプライアンスの低下などの影響で、機能的残気量および全肺気量が低下することもある。ロジスティック回帰モデルを用いたCanetらの研究では、術後肺合併症の独立危険因子として7項目が同定された(Table 1)。これ以外に術後肺合併症の発生に関与する因子として考えられるのは、全身麻酔からの覚醒過程における気道反射の低下、喉頭に貯留した分泌物や胃内容物の誤嚥および術後の人工呼吸である。

教訓 術後肺合併症の独立危険因子は、術前酸素飽和度(90%以下だと96%以上の10.7倍)、術前一ヶ月以内の上気道または下気道感染、年齢、術前貧血、手術部位(体表面<上腹部<胸腔内)、手術時間(3時間以上だと2時間以下の9.7倍)、緊急手術(予定手術の2.2倍)です。
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