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緑膿菌肺炎~多剤vs単剤② [critical care]

Pneumonia Due to Pseudomonas aeruginosa Part II: Antimicrobial Resistance, Pharmacodynamic Concepts, and Antibiotic Therapy

CHEST 2011年5月号より

緑膿菌肺炎患者における多剤併用 vs 単剤投与

多剤併用では、抗菌スペクトラムの拡大、相乗効果、抗菌薬耐性の発生抑制、重複感染の予防といった効果を期待することができる。しかし、多剤併用によって転帰が改善することが示されているものの、確定的ではない。多剤併用によって死亡率が低下することを示す先駆けとなった諸研究で用いられた抗菌薬は、現在ではもう使用されていない。さらに、その大半が菌血症を呈する好中球減少症患者を対象とした研究である。第三世代、第四世代セファロスポリン系薬のような広域スペクトラムの殺菌作用を有する抗菌薬の登場をうけ、アミノグリコシド系薬を併用する必要はないのではないかという意見が示されるようになってきた。

緑膿菌菌血症患者123名を対象にした前向き研究が行われ、多剤併用療法のin vitroでの有効性が検討された。患者に投与した抗菌薬を用いて、チェッカーボード法および時間-殺菌曲線による評価を行った。チェッカーボード法では、相乗効果があるとされている多剤併用療法を行っても死亡率の低下は認められなかった。しかし、時間-殺菌曲線による解析では、相乗効果のある組み合わせの多剤併用を行った場合には死亡率が低下するという結果が得られた:相乗効果のある多剤併用が行われた患者は46%(56/123)が生存したのに対し、相乗効果のない多剤併用(相加効果もしくは単剤の効果と変わらない組み合わせ)が行われた患者は28%(34/123)しか生存しなかった。多剤併用の方が優れているというはっきりした傾向が認められたものの、統計学的な有意差は得られなかった(Fisherの正確検定、両側検定、P=0.10)。

発熱のある好中球減少症患者、グラム陰性菌による菌血症患者および敗血症患者では、多剤併用療法を行っても生存率の改善にはつながらない、という結果が数編のメタ分析で
報告されている。ただ、これらのメタ分析は緑膿菌に特化したものではないという点に十分注意する必要がある。多剤併用によって、腎毒性は観察されるのに、抗菌薬耐性や重複感染の抑制にはつながらないという結果が示されているのはやや意外である。緑膿菌に対する抗菌薬投与についての評価が行われた五編の研究を対象としたメタ分析では、多剤併用療法が行われた患者群では死亡率が低下するとされている。しかし、このメタ分析の対象となった五編のうち四編では、単剤群ではアミノグリコシド一剤のみが投与されていて、緑膿菌菌血症の治療としてはそもそも不適切であると考えられた。

緑膿菌肺炎の患者を対象として単剤投与と多剤併用の有効性を比較した研究はごく少数しか行われていないため、肺炎症例一般について単剤と多剤併用を比較した研究も含めて以下のように検討した。肺炎一般についての9編の研究において、緑膿菌が起因菌であった症例は6.0%~100%を占めた。この9編のうち2編では、多剤併用によって生存率が有意に向上した。肺炎の治療法についての2編の総説で示された結論をまとめた1編の総説が発表されている。2編の総説のうち1編では、院内肺炎の患者を対象とした研究6編、院内肺炎もしくは重症市中肺炎の患者を対象とした研究1編が取り上げられた。もう1編の総説で取り上げられた研究の対象となった院内肺炎患者を全部合わせると計1200名以上であった。以上2編の総説をまとめた総説によると、単剤投与の方が多剤併用よりも治療奏功率が有意に高いことを示した研究が2編あったが、それ以外の研究では単剤投与と多剤併用の治療成績は同等であったと報告されている。計1805例のVAP疑い症例を対象にした臨床試験11編についてのメタ分析が行われ、単剤投与と多剤併用のVAPに対する有効性が比較された。対象患者全体の85.1%に機械的人工呼吸が行われ、緑膿菌を起因菌とするVAPを発症した患者は13.8%を占めた。単剤投与と多剤併用の死亡率および治療失敗率は同等であった。外傷ICUに収容され、BAL検体を用いた定量培養で緑膿菌VAPと診断された患者84名を対象とした前向き研究では、全例で単剤投与による予測的治療が行われたことが分かった。そのうち94.1%において、培養で治療が成功したことが確認された。一方、5.9%の症例においては単剤では治癒に至らず、セフェピムとアミノグリコシドの併用によって治療が成功した。VAPについての研究2編では、多剤併用療法を行っても死亡率は低下しないことが明らかにされている。しかし、抗菌薬投与開始から起因菌に感受性のある薬剤が選択されていた患者の割合は、単剤投与群より多剤併用群の方が有意に高かったし、培養で緑膿菌が分離されなくなった症例の割合も、多剤併用群の方が有意に高かった。緑膿菌またはアシネトバクター属によるVAPを発症した患者を対象に、28ヶ所のICUで行われた前向き研究では、多剤併用と単剤使用とでは効果に差はないことが明らかにされた。だが、適切な抗菌薬療法が行われた(=in vitro検査で感受性が確認されている抗菌薬が選択され、かつ、培養が陰性になる)患者の割合は、多剤併用群の方が有意に高かった。

教訓 多剤併用では、抗菌スペクトラムの拡大、相乗効果、抗菌薬耐性の発生抑制、重複感染の予防といった効果を期待することができますが、多剤併用によって転帰が改善すると言われていますが、はっきりしているわけではありません。緑膿菌肺炎の患者を対象として単剤投与と多剤併用の有効性を比較した研究はあまりありません。
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