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緑膿菌肺炎~抗菌薬耐性② [critical care]

Pneumonia Due to Pseudomonas aeruginosa Part II: Antimicrobial Resistance, Pharmacodynamic Concepts, and Antibiotic Therapy

CHEST 2011年5月号より

ESBLを産生する緑膿菌にはカルバペネム系薬を選択する。大半のESBLはカルバペネム系薬を不活化しないからである。転移することのできるβラクタマーゼ、例えばメタロ酵素は、亜鉛イオンがないと活性化しない(いわゆるクラスBβラクタマーゼ)。このようなβラクタマーゼは、クラブラン酸やスルバクタムなどのβラクタマーゼ阻害剤の影響を受けず、さらにはセファロスポリンやカルバペネムを加水分解する作用さえ備えている。以上のような特徴を持つメタロ酵素が出現してからというもの、カルバペネム耐性緑膿菌が占める割合が増加している。緑膿菌の産生するカルバペネマーゼの代表格がVIM-2である。緑膿菌が元来持っている内因性セファロスポリナーゼによってイミペネムに対する耐性が発現することがある。βラクタマーゼにはいろいろな略語が当てられているが、標準的もしくは理論的な体系に従った表現ではない。本来の科学的命名法による名称は、この分野の研究者にしか理解できないものになっている。

排出ポンプ機構がはたらくと、抗菌薬が標的部位に接触する間もなく菌体外へ除去されてしまう(Table 2)。Mex AB-OprMは最も強力な排出ポンプで、キノロン系薬、抗緑膿菌ペニシリン系薬および第三世代セファロスポリン系薬に対する耐性をもたらす。

緑膿菌のアミノグリコシド耐性は多くの場合アミノグリコシド修飾酵素の作用によって出現する。そのなかで最もよく見られるのが、アセチルトランスフェラーゼである。アミノグリコシドの分子構造が酵素によって修飾されると、緑膿菌リボゾームとのアミノグリコシドの結合力が低下する。アミカシンはアミノグリコシド系薬のなかで酵素による修飾を最も受けにくい薬剤である。アミカシンには複数の酵素が作用しないと、緑膿菌リボゾームとの結合力に変化が生じないからである。アミノグリコシド系薬の菌体内取り込みが低下すると、アミカシンを含めあらゆるアミノグリコシド系薬に対する耐性が生ずる。新しいアミノグリコシド耐性遺伝子カセットが解明されつつあり、最悪のケースでは、これらの遺伝子カセットはメタロ酵素をエンコードするインテグロンに取り込まれている。

細菌のDNAジャイレースは、細菌染色体の超らせん(スーパーコイル)構造を維持したり、複製の過程で生じたDNAの損傷を修復したりする。キノロン系薬はDNAジャイレースの活性を阻害することによって抗菌活性を発揮する。DNAジャイレースが不活化されると、DNA複製が滞り細胞死に至る。DNAジャイレースに変異が起こると、キノロン耐性が出現する。シプロフロキサシンとレボフロキサシンは抗緑膿菌キノロンと呼ばれ、in vitroではある程度の抗緑膿菌活性を示すが、βラクタム系と比べると効果が劣る。肺炎球菌はキノロン系薬によって速やかに死滅するが、緑膿菌は肺炎球菌よりも長時間曝露されていないとキノロン系薬によっては死なない。

外膜透過性低下が抗菌薬耐性をもたらすことがある。複数の異なる系統の抗菌薬が、この機序によって効果を発揮できなくなる(Table 2)。緑膿菌がカルバペネム耐性化する機序のうちもっとも一般的なのは、遺伝子変異による外膜タンパク(OprD)の欠失である。イミペネム投与中には、遺伝子変異が起こりOprDが喪失することは珍しくない。つまり、緑膿菌感染症に対しイミペネムを投与していると、緑膿菌がイミペネム耐性を保有するようになるのである。幸い、OprDがない緑膿菌はカルバペネム以外のβラクタム系薬には耐性を示さない。

緑膿菌がコリスチン耐性を示すことはほとんどない。コリスチン耐性緑膿菌は、コリスチン吸入療法を実施している繊維性嚢胞症の患者から検出される例が大部分を占めている。緑膿菌のコリスチンに対する高度耐性は、外膜の構造が変化することによって出現する。ICUでは多剤耐性緑膿菌は、肺炎患者から分離されることが多く、この分離株はコリスチンにのみin vitroでの感受性を示す。汎薬剤耐性(PDR)緑膿菌は、コリスチンはもちろんのこと、市販される抗菌薬のすべてに対する耐性を持つ緑膿菌である。病原菌は耐性を獲得すると、通常は毒性が低下する(適応仮説)。しかし、多剤耐性緑膿菌(MDRP)についての基礎研究では、毒性が低下するという報告もあれば、変化しないという報告もある。

教訓 ESBLを産生する緑膿菌にはカルバペネム系薬を選択しますが、メタロ酵素を持つカルバペネム耐性緑膿菌が占める割合が増加しています。シプロフロキサシンとレボフロキサシンは抗緑膿菌キノロンと呼ばれていますが、βラクタム系と比べると効果が劣ります。
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