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緑膿菌肺炎~水まわりに注意 [critical care]

Pneumonia Due to Pseudomonas aeruginosa Part I: Epidemiology, Clinical Diagnosis, and Source

CHEST 2011年4月号より

緑膿菌の巣

定着

気道への緑膿菌の定着は、院内肺炎発症の前駆現象である。ICUでは、緑膿菌の定着と在室期間、人工呼吸期間および抗菌薬使用歴とのあいだに有意な相関があることが分かっている。すでに咽喉頭または消化管に緑膿菌が定着している患者の入院が、入院中の患者における緑膿菌の定着の原因となり得る。生の果物や野菜が緑膿菌による院内感染の原因であったとする報告もあるが、この広く人口に膾炙している憶測を裏付ける検証結果は示されていない。

水道水は緑膿菌の巣

緑膿菌感染症の集団発生例のうち交叉感染を原因とする例も二、三あるが、環境からの感染が原因である場合の方がずっと多い。意外にも、病院環境を原因とする緑膿菌は、他の患者から交叉感染する緑膿菌と異なり、抗緑膿菌抗菌薬に対する耐性が高い。また、入院前からの緑膿菌定着のある患者の緑膿菌が他の患者に定着・感染するよりも、病院環境に棲息する緑膿菌は定着、感染しやすい性質を持っている。緑膿菌に汚染された水道水を手術や医療機器の洗浄に用いると、緑膿菌による菌血症や腹腔内感染などの院内感染を起こすことがある。気管支鏡に関連する呼吸器感染症について本レビューの別項で既に触れたが、その一部は気管支鏡洗浄に用いた水道水が元凶である可能性がある。

病院によっては水道水が緑膿菌をばらまく主犯であるかもしれない。ICUにおける緑膿菌集団感染(6編)もしくは緑膿菌感染/定着(12編)について3ヶ月から3年にわたって発生源を調査した計18編の研究がある。対象患者は3名から7269名である。全18編のうち14編で、水道水、蛇口またはシンクが緑膿菌発生源として考え得るとの結論が示されている。患者間または患者-医療従事者間の交叉感染を原因として挙げているのが8編、患者自身がもともと持っている細菌叢に原因があるという結果を示した研究は2編であった。緑膿菌は物体表面では数ヶ月、医療従事者の手では3時間生存する。このことが緑膿菌の伝播を可能にしている一因である。

水道水、蛇口またはシンクが緑膿菌発生源であり得ることを示した前述の14編の研究では、水道水/蛇口/シンク検体の9.1%~97%において緑膿菌が分離されたことが報告されている。分子サブタイプ解析を行ったところ、患者から分離された緑膿菌が、水道水/蛇口/シンクから分離された緑膿菌と一致した割合は19.2%~100%であった。病院の水道水に起因する緑膿菌定着が発生しうる一方で、患者のもともと保有している緑膿菌が病院の水供給経路のどこかを汚染している可能性もある。緑膿菌が分離された患者のうち40%~46.7%が、水道水からの感染であることが2編の研究で示されているが、同時に、蛇口検体の11%~52.4%は患者によって汚染された可能性も浮かび上がった。

患者から検出された緑膿菌のうち29.5%~52.6%は交叉感染によるものであるとされている。これは、他の患者で検出された緑膿菌と分子サブタイプが一致することで確認を行った研究の結果である。医療従事者の3%~6%において手から緑膿菌が分離される。そのうち10%~20%は患者から分離される緑膿菌と遺伝子型が同一である。

感染制御策が7編の研究で示されている。特定の医療従事者一名が感染源であった例についての一編の論文では、その医療従事者を患者とは直接関わらない部署に異動させるとともに、その他の感染予防策を実施したところ集団感染が終熄したと報告されている。残りの6編では水道水、蛇口またはシンクが感染源であった。そのうち3編では蛇口出口部分、シンク、シャワーヘッド、シャワーホースなどを交換または定期交換した。二編では水温を上昇させ、銅および銀イオン消毒または塩素消毒を実施した。三編では浄水フィルタを設置した。二編では感染予防策を強化徹底した。多剤耐性緑膿菌単独株に36名が感染した集団発生例では、手洗いに用いていたシンクが元凶であることが判明した。そのシンクは、処置や薬の準備をしたりするのに使用する台に隣接しており、病床にも近接していた。水しぶきが飛び散らないようにする遮蔽板を設置したところ、集団発生は終熄した。

浄水フィルタの導入は、最も注目すべき対策である。これは、緑膿菌の増殖を抑えるだけでなく、緑膿菌定着を85%も減らし、さらには肺炎や菌血症などの感染をも減少させる効果を発揮する。蛇口の消毒とシャワーヘッドおよびシャワーホースの交換は無効であることが示されていて、医療関連レジオネラ感染についても同様の知見が得られている。高温水および銅/銀イオン消毒によって、緑膿菌定着例および感染例の年間発生数は低下するが、緑膿菌がバイオフィルムを形成して蛇口へ定着することを防ぐことはできない。Anaissieらは飲用、歯磨きおよび胃管の洗浄には滅菌水の使用を推奨している。緑膿菌と密接な関係のある疾患の悪性(壊死性)外耳炎は、水道水の緑膿菌からの感染例が大部分を占める。

まとめ

緑膿菌肺炎は、臨床的には数種類の異なるタイプに分類される。最も一般的なのは、ICUで発症する院内肺炎としての緑膿菌肺炎である。緑膿菌による院内肺炎の死亡率や金銭的負担は、いまもって容認できないほど高い。緑膿菌による市中肺炎は稀であり、発生例は慢性肺疾患患者に概ね限られる。院内肺炎と同様に死亡率が高い。HIV陽性患者における菌血症からの肺炎発症は、わりと最近になって登場した話題である。免疫抑制患者(特に好中球減少症の患者)の細菌性肺炎は減っている。これはおそらく、癌化学療法が進化したおかげである。

緑膿菌肺炎の診断は一筋縄ではいかない。なぜなら、気道から緑膿菌が分離されても、感染ではなく定着に過ぎないことが多いからである。COPD患者や、入院期間が長期化している患者では、とりわけその傾向が認められる。したがって、気道から得た検体の培養結果を根拠に抗緑膿菌抗菌薬を投与すると、不要な治療をわざわざ行っていることになりかねない。侵襲的検査による定量培養が、抗菌薬療法の本当のターゲットになる患者を選別するのに有効であることが明らかにされている。その代わりの選択肢となるのが、CPISを用いて予測的治療の方針を決定する侵襲のすくない方法である。この方法によって、適応がないのに抗菌薬を投与してしまうのを防ぐことができる。水道水が緑膿菌の感染源となっているICUもあるため、水供給システムを対象とした予防策を講ずることによって定着、そして感染の発生頻度を減らすことができる可能性がある。

教訓 病院環境に棲息している緑膿菌は、患者間で交叉感染する緑膿菌より抗緑膿菌抗菌薬に対する耐性が高く、定着・感染力も強いことが分かっています。水道水、蛇口またはシンクには緑膿菌が住みつきやすいので、注意しなければなりません。
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