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人工心肺とAKI~定義 [anesthesiology]

Cardiopulmonary Bypass–associated Acute Kidney Injury

Anesthesiology 2011年4月号より

米国では毎年およそ30万人に心臓手術が行われている。通常行われる心臓手術の80%以上で人工心肺が用いられている。急性腎傷害(AKI;従来は急性腎不全と称されていた)が人工心肺後に発生することがあり、それ自体はよく知られているものの、詳細は十分には解明されていない。人工心肺関連急性腎傷害(AKI-CPB)は、短期転帰および長期転帰に重大な影響をおよぼす。AKI-CPB発症例では、非発症例と比べ、感染性合併症の増加、入院期間の延長、死亡率の上昇といった転帰の悪化を認める。AKI-CPBの発生頻度は、適用する診断分類の違いや術後いつまでを研究対象期間とするかによって差があるが、平均20-30%である。そして、AKI-CPBを発症し透析を要し、急性期を脱した後に維持透析に移行する症例が増えている。人工心肺下心臓手術のうち、CABGのみの手術がAKI-CPB発症リスクがもっとも小さく、弁置換術はCABGよりリスクが高い。そして、CABGと弁置換の同時手術が最も高リスクである。AKI-CPBの病態生理から見た原因や薬物治療について数多くの新しい知見が蓄積されているのとは裏腹に、死亡率はそれほど低下していない。その上、腎代替療法が進歩を見せているのに、AKI-CPBに関連する全死亡率は従来とさして変わらない。

本総説のテーマは、現行のAKI分類、病態生理およびAKI-CPB発症の危険因子である。さらに、本総説をAKI-CPB発症リスクのある患者の治療成績の向上につなげるべく、周術期管理法についても触れ、AKI-CPBという複雑な病態の理解を深める一助となる新しい概念を紹介する。

急性腎傷害(AKI)の定義

AKIの診断は一筋縄ではいかない。これまで用いられてきた定義や診断基準は一つではなく、基準時点の血清クレアチニン値(sCr)より25%以上上昇した場合をAKIとするものから、血液透析を要するほどになったものをAKIとして分類するものまで、幅広い考え方が存在していた。AKIの早期診断と重症度分類についての統一的定義が必要であったため、Acute Dialysis Quality InitiativeはRisk-Injury-Failure-Loss-End stage kidney disease(RIFLE)分類を制定した。そして、Acute Kidney Injury Network(AKIN)はRIFLE分類を改変し、さらに進化させたAKIN分類を構築した。RIFLE分類とAKIN分類は、心臓手術後のAKI患者を対象とした前向き研究で用いられ、その妥当性が検証されている。

RIFLE分類とAKIN分類との違いは、微々たるものである。AKIN分類では段階1にsCrが基準時点より0.3mg/dL以上上昇した患者も含め、対象患者の範囲を広げた。これは、たとえわずかでもsCrが上昇すると転帰が悪化するというエビデンスが蓄積されてきたことを踏まえての改変である。一方、RIFLE分類の危険群(AKIN分類の段階1に当たる)は、sCrが基準時点より50%以上上昇した場合となっている。重症患者では特に、尿量の変化がsCrの上昇よりも先行することがあるため、両分類とも尿量についての基準を設けている。AKIN分類では腎機能評価のための観察期間は48時間以内としているが、RIFLE分類では7日間以内である。AKIN分類で48時間以内という制限を設けた理由は、入院患者ではクレアチニンが24-48時間以内のあいだに上昇すると転帰不良であることを示すエビデンスが示されているからである。尿量やsCrに関わらず腎代替療法が行われている患者は、AKIN分類では段階3に相当する。一方、RIFLE分類では腎代替療法の実施期間に応じて、「loss(腎機能喪失)」群または「ESKD(末期腎不全)」群のいずれかに分類される。腎機能喪失群および末期腎不全群に相当するものはAKIN分類にはない。なぜなら、この二つは短期間の腎機能低下の程度を反映する分類ではなく、むしろ何らかの疾患の長期経過の末の転帰または慢性期の状態を反映するものだからである。

RIFLE分類、AKIN分類のいずれにも問題点がある。どちらも腎傷害の部位(尿細管傷害、糸球体傷害など)には言及していない。また、両分類とも血清クレアチニン値を大層重視しているが、この値自体は必ずしもAKIのバイオマーカとして適確ではない。AKI-CPB患者に適用するのにRIFLE分類とAKIN分類のどちらが有用であるかということに関して、はっきりとした一般見解は形成されていない。両分類の概略をtable 1に示した。

教訓 AKI-CPBの発生頻度は平均20-30%です。
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