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重症感染小児は輸液負荷で死亡率が上昇する~考察① [critical care]

Mortality after Fluid Bolus in African Children with Severe Infection

NEJM online 2011年5月26日

考察

マラリア流行地であるサハラ以南アフリカ地域は医療資源が乏しい。そのような環境においても役立つ実用的なデータを収集することを念頭に、本研究では受診時に高熱と末梢循環不全を呈した患児に対する、輸液負荷療法の有効性を評価した。アルブミン製剤もしくは生理的食塩水のボーラス投与を行った群を、輸液負荷を行わない対照群と比較したところ、48時間後死亡リスクはボーラス群の方が絶対値で3.3パーセンテージポイント高く、4週間後における死亡、神経学的後遺症または死亡+神経学的後遺症のリスクは絶対値で約4パーセンテージポイント高かった。アルブミンボーラス群と生食ボーラス群とのあいだには、主要評価項目、副次評価項目のいずれについても有意差は認められなかった。死亡例の大半(87%)が、24時間以内の死亡であった。しかし、輸液負荷によって発生する可能性があると予測した重篤な有害事象(肺水腫、頭蓋内圧亢進)の症例数は、ごく少数にとどまった。本研究で得られた知見は信頼性が高いと考えられる。その理由は、登録患児数が多かったこと、標本が複数の国で得られたこと、追跡調査から脱落した症例数が少なかったこと、いずれの治療群に割り当てられたかが秘匿されたこと、そして割り当てられた治療の遵守率が高かったことである。我々が示した結果は、アフリカに所在する病院において、高熱と末梢循環不全を呈する重症患児に対して輸液負荷をルーチーンに行うことを否定するとともに、アフリカ以外の地域における同様の患者群に対する輸液負荷の有用性にも疑問を投げかけている。

我々が実施したこのたびの輸液負荷に関する大規模比較対象試験では、国際的に標準的治療として通用している方法(ボーラス輸液)を、彼の地で標準的治療として行われている方法(ボーラス輸液を行わない)と比較した。サハラ以南アフリカ地域の典型的な病院、つまり集中治療の設備のない病院を研究実施施設として選定した。登録基準は大雑把なものとしたが、胃腸炎、重度栄養不良および感染以外の原因によるショックの症例は除外した。したがって、本研究で得られた結果をこれらの除外疾患の患児に当てはめることはできない。高度低血圧症例では輸液負荷を行わない群に割り当てるのは非倫理的であると考えたため、来院時に高度低血圧を呈した患児はB層に登録することにしたが、実際に登録された患児は少なかった。B層では、アルブミン群、生食群いずれも死亡率が高かった。

サハラ以南アフリカ地域では、来院時に原因疾患(重症マラリア、敗血症、肺炎または髄膜炎)を臨床的に鑑別することは不可能である。だが、こういった疾患に対して推奨されている初期輸液療法は、疾患によってかなり違いがある。重症マラリアに対する輸液療法の是非をめぐっては、とりわけ賛否両論が喧しい。本研究ではマラリア、敗血症、肺炎、髄膜炎などを含む重症疾患の患児を対象としたため、診断に必要な設備が乏しい病院における患者管理にすぐに役立つ情報を提供することができた。過去に報告されたデータや、当初予想したよりも、本研究の対象患児の死亡率は低かった。別の研究結果と同様に、重症マラリア患児は、マラリア以外の疾患の患児よりも死亡率が低かった。しかし、マラリア群と非マラリア群とのあいだに、ボーラス輸液による48時間後死亡率増加幅の差は認められなかった。ボーラス輸液は転帰を悪化させることが分かった一方で、あらゆる対象患者群において過去の報告や当初予測より生存率が高かったのは、トリアージ、BLSおよび患者観察法の教育と導入に負うところが大きかったと考えられる。

教訓 小児重症感染症例に輸液負荷を行うと行わなかった場合と比べ、死亡率、神経学的後遺症発生率が有意に上昇することが分かりました。高熱と末梢循環不全を呈する小児に対しては、輸液負荷を闇雲に行うべきではありません。

参考記事
輸液動態学 
正しい周術期輸液 
敗血症性ショック:輸液量が多いほど死亡率が高い 
外傷患者救急搬送中の輸液で死亡率が上昇する
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