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ALI&集中治療2010年の話題~メディエイタ① [critical care]

Update in Acute Lung Injury and Critical Care 2010

American Journal of Respiratory and Critical Care Medicine 2011年5月1日号より

敗血症とALIのメディエイタ、バイオマーカ、実験段階の治療法

敗血症とALIの機序についての報告が複数発表された。例えば、敗血症の際には骨髄細胞核分化抗原の細胞質内蓄積が障害されるため、好中球のアポトーシスが遅延することが明らかになった。これが、果炎症が遷延する一因なのである。別の報告では、白血球集積の主要調節因子であるイノシトールリン脂質3キナーゼ(PI3K)-γが敗血症の発生過程において重要な役目を果たしていることが示されている。盲腸結紮穿孔による敗血症モデルにおいてPI3K-γ遺伝子を阻害すると、生存率が向上し、多臓器不全が抑制され、細菌が全身へ波及しがたくなることが分かった。同じ敗血症モデルを用いた別の研究では、硫化水素を投与すると、低下した好中球遊走能が回復し、ATP感受性カリウムチャネルの関与する機序を介して菌血症および肺傷害が軽減され、生存率が向上することが明らかにされた。同様に、転写因子であるペルオキシソーム増殖因子活性化受容体(PPAR)-β/δのアゴニストを敗血症マウスに投与すると、セリン/トレオニンキナーゼAktが活性化されるとともにグリコーゲン合成酵素キナーゼ-3βおよびNF-κBが阻害されて、臓器不全および炎症が抑えられ生存率が改善することが示された。また、敗血症モデルにおいてインスリン様成長因子-1(IGF-1)が、消化管バリア機能の保護作用を発揮することも分かっている。

ALIにおける炎症と自然免疫の役割
ALIの主要病因は炎症である。したがって、ALIのメディエイタであるとされている物質や治療法として有望であるとされている方法の大半が、炎症の修飾に関連しているのは当然なのかもしれない。例えば、外傷症例ではミトコンドリアのダメージ関連分子パターン(DAMP)が血中に放出されて免疫の調節機能が失調し(自然免疫が活性化され)、全身炎症が発生すると報告されている。ダメージ関連分子パターンは病原体関連分子パターンと同じような作用を発揮する。これはおそらく、ミトコンドリアが細菌から進化したことに起因すると考えられる。終末糖化産物受容体(RAGE)は、病原体関連分子パターンを認識する。この受容体が発現しないようにしたノックアウトマウスでは、高酸素症による肺傷害が抑制されることが明らかにされている。また、NF-E2関連因子2(Nrf2)が抗酸化反応の主要調節因子であり、高酸素症による肺傷害がNrf2を介して抑制される過程ではPPARγ(ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体γ)が中心的なエフェクタ分子として働くことが示されている。

インフラマソームの活性化とそれに引き続く炎症促進サイトカインの放出は、肺胞マクロファージのプリン作動性P2X7受容体を介したカリウム流出が引き金となって起こる現象である。この一連の現象が、結果高酸素症による肺胞上皮細胞の傷害の原因である。ブレオマイシンによる急性肺傷害で肺胞上皮細胞から放出されたATPは、内因性危険信号として作用し、P2X7受容体/パネキシン1複合体を介して肺傷害を引き起こすことが明らかにされている。別の研究では、サブスタンスPをエンコードするプレプロタキキニンA遺伝子が欠損したマウスでは熱傷時の急性肺傷害の発生が抑制されることが明らかにされ、炎症促進神経ペプチドであるサブスタンスPが熱傷による急性肺傷害の成因に関わっていると考えられた。乳脂肪球上皮成長因子8(MFGE8)には、アポトーシス細胞の除去を促進する作用がある。この度、MFGE8に腸の虚血再灌流障害による急性肺傷害を防ぐ効果があることが分かり、抗炎症作用が示されたとともに、治療薬としての可能性が期待されている。酸注入後に細菌を投与して作成した急性肺傷害モデルを用いた実験で、抗炎症メディエイタのレソルビンE1が肺傷害を緩和する作用を発揮することが示された。ブレオマイシン投与による肺傷害マウスモデルにおいて、組織メタロプロテアーゼ阻害物質3が炎症の消退に関与していることが分かった。同じ肺傷害モデルを用いた別の研究では、サーファクタントプロテインAが炎症とアポトーシスを軽減し、上皮の構造および機能を保護することが明らかにされた。同様に、軸索誘導作用を持つネトリンには、白血球遊走刺激に拮抗する誘導作用があるため、抗炎症作用を持つ可能性があるとされている。急性肺傷害のときにはネトリンが抑制されて傷害が助長されるが、肺傷害モデルにネトリン1を投与すると、アデノシン2B受容体が関与する機序によって肺傷害が軽快することが分かった。エンドトキシン投与によって作成した急性肺傷害モデルでも、アデノシン2B受容体を介したアデノシンシグナル伝達に肺傷害軽減効果があることが示されている。マラリア急性肺傷害モデルという新しい動物モデルを用いて急性肺傷害の病因と治療法の探索を試みた、斬新な研究が報告された。強力な血管拡張作用を持つ血管新生因子であるアペリンの作用が、新生仔ラット急性肺傷害モデルを用いた研究で明らかにされた。アペリンはNOSが関与する機序を介して、肺の炎症、フィブリン沈着および右室肥大を抑制することが分かった。

ALIの発症過程で起こる自然免疫の修飾についての研究が複数発表された。そのうちの一編では、炎症反応において重要な働きを担っているTLR4の細胞内輸送における主要調節因子が低分子量GTPaseのRab10であり、LPSによって作成した急性肺傷害の重症度にこの物質が関わっていることが報告されている。ペントラキシン3が炎症の調節に関わっていることは以前から分かっていたが、最近になってようやくその機序が明らかにされた。ペントラキシン3は活性化された白血球から放出され、炎症部位への好中球集積を防ぐのである。MRSA感染による急性肺傷害の発症機序の解明につながる興味深い知見が示された。MRSA感染に続発する急性肺傷害の発症過程において、多型核白血球を標的とする孔形成毒素のPanton-Valentine白血球毒素が中心的役割を果たしているとのことである。ウロキナーゼ型プラスミノゲン活性化因子が、組織因子の発現を促進し、組織因子の関与する凝固経路を亢進させることによって気道へのフィブリン沈着が進行し、上皮のバリア機能が障害されたり、肺の繊維化が起起こったりすることが報告された。ウロキナーゼ型プラスミノゲン活性化因子には、肺胞マクロファージがアポトーシス好中球を貪食する機能を抑制するという興味深い作用があり、これが急性肺傷害の重症化の一因となっている可能性がある。

教訓 敗血症の際には骨髄細胞核分化抗原の細胞質内蓄積が障害されるため、好中球のアポトーシスが遅延します。PI3K-γ遺伝子を阻害すると、生存率が向上し、多臓器不全が抑制されます。インスリン様成長因子-1(IGF-1)には、消化管バリア機能の保護作用があります。RAGEノックアウトマウスでは、高酸素症による肺傷害が抑制されます。
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