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ALI&集中治療2010年の話題~病因② [critical care]

Update in Acute Lung Injury and Critical Care 2010

American Journal of Respiratory and Critical Care Medicine 2011年5月1日号より

遺伝学、ゲノム科学、プロテオミクス、メタボロミクス
敗血症やALIを発症しやすい患者における臨床的転帰と一塩基多型についての複数の報告があった。二つの異なる母集団を対象として行われたコホート内症例対照研究で、FAS21541TおよびFAS9325Aという、広く認められるFASハプロタイプを持っているとALIを発症しやすいことが分かった。しかし、FASの遺伝子型と死亡率の間には相関は認められなかったため、FASのこの珍しくはない遺伝子多型はALIの重症度には影響せず、かかりやすさにのみ関与していると考えられる。β2アドレナリン受容体遺伝子(ADRB2)がCysGlyGlnハプロタイプを呈するとアドレナリン受容体作動薬に対する反応が変化することが知られている。このハプロタイプと敗血症性ショックの転帰についての研究も行われた。ADRB2 rs1042717のAA遺伝子型、つまりCysGlyGlnハプロタイプのホモ接合体である患者では、ノルエピネフリン投与量が多く、心拍数、臓器不全発生頻度および28日後死亡率が高いことが明らかにされた。

色々な分子経路の様態が同時に変化すると、炎症反応に影響が及ぶとともに肺胞-毛細血管バリア機能に障害が起こり、ALIが発症することがある。そこで、新しい分子経路の同定を目指した高速ゲノム解析や高速プロテオミクス解析が行われている。特発性肺線維症患者およびブレオマイシン誘発性ALIマウスモデルのBAL検体を用いた研究では、HDLの主なタンパク分画であるアポリポタンパク(Apo)A-Ⅰのダウンレギュレーションに関わる16種のタンパクに機能不全が生じていることが明らかにされた。マウスにApo A-Ⅰを投与すると、ブレオマイシンによる肺の炎症が軽減し、ALIの重症化をある程度防ぐことができるという重要な知見も得られ、肺傷害の発生にApo A-Ⅰが関与していることが示唆された。

メタボロミクスは、細胞の活動によって生ずる特異的な代謝産物および最終生産物を測定することによって、病態を解明しようとする新しい研究手法である。この方法はプロテオミクスに代わるものとして登場した。メタボロミクス解析によって、ALIの新しいバイオマーカや病因因子を発見することができるかもしれない。実際、敗血症によるALI患者の血漿検体に含まれる代謝産物の化学的指紋を高分解能核磁気共鳴分光法(NMR分光法)による解析が行われ、酸化状態、エネルギー均衡、アポトーシスおよびバリア機能の変化、といった敗血症およびALIに特有の現象に関連すると考えられる4つの代謝経路が同定されている。システム生物学によってALIの発症過程に関わるこういった経路の相互作用の解明が進に違いないが、「~ミクス」を駆使して得られた複雑なデータを正しく解析するのは至難の業である。

教訓 β2アドレナリン受容体遺伝子がCysGlyGlnハプロタイプのホモ接合体である患者では、ノルエピネフリン投与量が多く、心拍数、臓器不全発生頻度および28日後死亡率が高いことが分かりました。
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