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外傷患者に対するトラネキサム酸の早期投与~考察① [critical care]

The importance of early treatment with tranexamic acid in bleeding trauma patients: an exploratory analysis of the CRASH-2 randomised controlled trial

THE LANCET 2011年3月26日号より

考察

トラネキサム酸の出血死抑制効果は、受傷から投与開始までの時間によって左右される。遅れて投与するよりも、早めに投与する方が効果がはるかに効果が高いと考えられる。本研究の結果、受傷3時間後以降にトラネキサム酸の投与を開始しても全死因死亡率は上昇しないが、出血死に限ると、遅れて投与すると死亡リスクがかえって増大する可能性が示唆された(table 1)。これは、受傷3時間後以降にトラネキサム酸を投与され出血死した患者は、トラネキサム酸を投与されていなければ出血以外の原因で死亡していたかもしれないことを意味するとも言える(競合リスク)。トラネキサム酸の晩期投与が本当に有害作用をもたらすとすれば、重大な問題である。なぜなら、所得が低~中レベルの国々では受傷現場から病院までの搬送時間が長いからである。実際に、CRASH-2試験の対象となった外傷患者のうち三分の一においては、割り当て薬投与まで受傷後3時間以上かかっていた。

CRASH-2試験の対象基準はいずれもが臨床的指標であり、医師が診療現場で遭遇する状況を反映している。治療担当医が、低血圧または頻脈などの徴候から重篤な出血があるかまたはそのリスクがあると判断した症例を、CRASH-2試験の対象として登録した。対象症例の中には、実際には活動性出血がなかった患者も含まれていたかもしれない。このような誤診は、何にせよ、検出力を低下させる原因となりうる。つまり、トラネキサム酸が出血死を防ぐ効果を捉えがたくなるのである。したがって、本研究において、受傷後1時間以内にトラネキサム酸を投与された患者において出血死リスクが大幅に低下し、p値も非常に低いという結果が得られたことは、特筆大書すべきことである。

本研究では病院到着後、正確な出血部位やその他の損傷の有無がはっきりしないうちに、すぐさま無作為化割り当てを行ったため、外傷重症度の解剖学的評価に基づく層別化を行って解析を実施することはできなかった。正確な診断を待たずに無作為化割り当てを行ったことは、本研究で採用した方法の弱点である。もし、しっかり診断してから無作為化をおこなっていれば、トラネキサム酸の作用機序に関する知見が得られたかもしれない。しかし、治療の現場でそんなに詳しい情報を直ちに得ることはできない上、早期に治療を開始することが重要であることを鑑みると、外傷重症度の解剖学的評価に基づく層別化解析を行っても臨床的な意味はあまりない。

受傷から割り当て薬投与開始までの時間についてのデータは、対象患者のうち9名を除く全員で記録されていた。中には受傷の現場が目撃されていない症例もあり、推定時間を記録するしかない場合もあったため正確さに欠けたかもしれない。しかし、記録された時間の不正確さは割り当て群とは無関係であると考えられるため、結果に影響をおよぼすバイアスにはならなかったであろう。死因を出血と断定するのにも不正確さがつきまとった可能性があるが、これもまた割り当て群とは無関係であろう。

臨床試験では、対象となる治療法があるサブグループで有効であるということが示されることはそう多くなく、むしろ有害であるサブグループが見つかってしまうことがめずらしくない(質的交互作用)。そして、質的交互作用が見られたら通常は疑ってかかれと言う研究者もいる。しかし、トラネキサム酸が出血死を抑制する効果についての解析結果は、サブグループ解析の結果の信頼性を判断する際の基準の大半を満たしている。つまり、受傷後時間は基準時点において記録され、トラネキサム酸を早期に投与する方がより効果が得られるという仮説は研究プロトコル立案時に予め設定されたものであり、観察された有意な交互作用は、得られた結果が偶然の産物である可能性が非常に低いことを示し、基準時点における予後予測因子として予め設定した項目とトラネキサム酸投与の間に認められた有意ではないその他の交互作用について調整したのちも、有意な交互作用は有意なままであり、特定のサブグループにおいて認められた効果は大きく、作用機序についての生物学的な理論的根拠からもこの交互作用は裏付けられる。今回の臨床試験には、サブグループにおける効果を検討するに足る検出力はないが、観察された交互作用は大きく、p値も低かった。

とは言え、今回の研究プロトコルでは全死因死亡率についての主要サブグループ解析を行うことを予め計画した。一方、出血死についてのサブグループ解析は行わなかった。当初、トラネキサム酸は出血量を低下させて出血死を抑制すると推測したにもかかわらず、サブグループ解析において全死因死亡率を評価したのは、患者にとってもっとも重要なのは死因ではなく生存率だと考えたからである。しかし、全死因死亡率が有意に低下し、その大半がトラネキサム酸による出血抑止効果に負うところが大きく、トラネキサム酸が止血能を改善することによって出血死を抑制する理論的可能性があるということを踏まえると、我々の採用した解析法は結果的に正しかったと考えられる。

教訓 トラネキサム酸は受傷後早めに投与すると出血死抑制効果が得られます。
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