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低酸素症と炎症⑤ [critical care]

Hypoxia and Inflammation

NEJM 2011年2月17日号より



固形腫瘍中の酸素濃度は、正常組織の酸素濃度より低いことが多い。固形腫瘍内のHIF-1αおよびHIF-2α濃度は上昇しており、このことが癌による死亡の一因である。前立腺腫瘍の生検検体においてHIF-1αおよびHIF-2α濃度が高いと、臨床経過が不良であることが分かっている。固形腫瘍内が低酸素状態であると、PHDs(プロリン水酸化酵素)による低酸素依存性阻害によりHIF(低酸素誘導性転写因子)が安定化する。同様に、腫瘍遺伝子または機能欠失型変異のある腫瘍抑制遺伝子はHIFの安定化をもたらす。これは、前述したVHL腫瘍抑制遺伝子の例と同じである。Von Hippel-Lindau病では、VHL腫瘍抑制遺伝子が生殖細胞系突然変異により不活化されているため、腎細胞癌をはじめとする色々な腫瘍の発生リスクが高い。癌においては、低酸素と炎症がいろいろな形で絡み合っている(Fig. 4)。低酸素に陥った腫瘍または腫瘍内の間質細胞でHIFが活性化されると、腫瘍における血管新生が増強される。血管新生が盛んになると、腫瘍血管や血管内皮が酸素運搬を妨げるような形態的特徴の変化を呈する。腫瘍血管の異常には、炎症細胞による血管内皮成長因子(VEGF)の放出も一役買っている。

マウスではPHD2のハプロ不全があると、腫瘍血管の構造が正常化し(「血管正常化」と呼ぶ。腫瘍血管の壁や分岐部がしっかりして血管内外がはっきりと区切られる。)、腫瘍血管の透過性が低下し、蛇行が少なくなる。また、腫瘍の酸素化も改善する。このような変化が起こると、腫瘍の浸潤が抑制され転移のリスクが減少する。以上の知見から、血管内皮細胞は、PHDsを介して酸素運搬量を感知し、不均衡があれば是正するものと考えられる。抗PHD2物質は、画期的な癌治療薬となる可能性がある。抗PHD2物質を用いれば、腫瘍血管の構造と機能が正常化するからである。

実験レベルのエビデンスでは、腫瘍中心の炎症部分に存在するHIFを阻害すると、腫瘍の増大と血管新生が抑制され、腫瘍の放射線感受性が増幅することが示されている。一方、もし、腫瘍血管に選択的に作用してPHDを阻害したり、腫瘍中心の低酸素部位に選択的に作用してHIFを阻害したりする方法が見つかれば、腫瘍血管におけるPHD2の阻害およびHIFの安定化は腫瘍の治療において重要な役割を担うと考えられる。

教訓 HIFが活性化されると、腫瘍の血管新生が盛んになります。腫瘍のHIFを阻害すると、腫瘍の増大と血管新生が抑制され、腫瘍の放射線感受性が増幅します。
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