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低酸素症と炎症③ [critical care]

Hypoxia and Inflammation

NEJM 2011年2月17日号より

低酸素シグナル伝達とNF-κB

転写因子NF-κBファミリーに属する分子は、炎症反応の調節に関与し、免疫反応および組織ホメオスタシスの司令塔としての役割を果たしている。NF-κBファミリーに属する分子はPHD-HIF経路の分子と相互に作用し、その結果、炎症と低酸素症とが絡み合って発生する (Fig. 2)。炎症性腸疾患モデルマウスを用いた研究では、炎症のある腸ではPHD(プロリン水酸化酵素)がNF-κBの抗アポトーシス作用を制御する役目を果たしていることが明らかにされている。腸虚血再灌流後の低酸素症によって腸上皮細胞のNF-κBが活性化され、そのためTNF-α(炎症促進性サイトカインの一つ)の産生が増加するが、同時に腸上皮細胞のアポトーシスが抑制される。他にも、IκBキナーゼ複合体(NF-κBの制御に関与している複合体[Fig. 2])の作用や、炎症発生前もしくは発生中のNF-κBによるHIF-1αの転写制御などにおいても、低酸素と炎症の相互作用が観察されている。低酸素下では、TLRの発現とシグナル伝達が促進されてNF-κB経路が活性化される。その結果、抗細菌因子の産生が増強され、食作用、白血球集積および獲得免疫が刺激される。

低酸素シグナル伝達と自然免疫

病原体に対して最初に発動する防衛反応は、好中球、マクロファージ、肥満細胞、樹状細胞およびNK細胞の活性化である。自然免疫系に関わる以上の細胞は、病原体を速やかに退治し、獲得免疫応答を刺激するシグナルを伝達する。ミエロイド細胞は、微小環境が低酸素状態に陥り酸素不足になっても、HIF(低酸素誘導性転写因子)依存性経路で機能を発揮することができる。HIF-1α欠損食細胞は細菌を撃退することはできないが、そのくせ、慢性潰瘍病変を形成する作用がある。

HIF-1αにはミエロイド細胞の機能の一部を制御する作用がある(Fig. 3)。HIF-1αは炎症のため酸素が不足した組織においてミエロイド細胞がATPを産生するように働きかける。その結果、ミエロイド細胞の集積を促進し、運動能、浸潤能および殺菌能を向上させる。また、HIF-1αはアポトーシスを阻害することによって低酸素下における好中球の寿命を延長させる。そして、von Hippel-Lindau病の場合、正常酸素分圧下でもアポトーシスが抑制され細菌に対する食作用が亢進しているが、これはHIF-1αが分解されにくくなっているためであると考えられている。

低酸素症と獲得免疫

HIF-1αは、獲得免疫にも影響をおよぼす。HIF-1α欠損リンパ球を持つマウスでは、血清中の抗二本鎖DNA抗体(抗dsDNA抗体)およびリウマチ因子が増え、タンパク尿が見られ、腎臓にIgGおよびIgMが沈着する。T細胞におけるHIF-1αの発現が増強すると、1型ヘルパーT細胞(Th1;マクロファージと細胞毒性T細胞の機能を亢進させる)から2型ヘルパーT細胞(Th2;IL-10の産生を増やすとともにインターフェロンγを減らすことによりTh1を介する殺微生物作用を阻害する)への表現型の変化が引き起こされる。HIFは制御性T細胞(免疫抑制作用を持つT細胞)にも作用する。低酸素誘導性シグナル伝達経路は、制御性T細胞への分化と増殖を促進し、細胞外のアデノシン濃度を上昇させる。アデノシンには、T細胞のエフェクター機能を抑制することによって組織を保護する作用がある。

教訓 低酸素下では、TLRの発現とシグナル伝達が促進されてNF-κB経路が活性化されます。その結果、殺菌物作用、食作用、白血球集積および獲得免疫が刺激されます。

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