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敗血症性ショック:輸液量が多いほど死亡率が高い~考察② [critical care]

Fluid resuscitation in septic shock: A positive fluid balance and elevated central venous pressure are associated with increased mortality

Critical Care Medicine 2011年2月号より

VASST研究の対象患者のうち、治療開始12時間後の時点における中心静脈圧が12mmHgをこえていた群の死亡率が最も高かった。そして、8mmHg未満の群は8-12mmHgの群および>12mmHgの群のいずれよりも生存率が高かった。中心静脈圧が高いほど死亡の危険性が増大するという関係は、重症度(APACHEⅡスコア)とは独立していた。しかし、中心静脈圧が8mmHg未満であった患者だけに限ってみると、生存者の方が非生存者よりも水分出納量が多かった。つまり、輸液量がある点を下回ると少なすぎることになり、当初予測したとおり危険であると考えられた。治療開始12時間後における水分出納量の四分位群についてのデータ(死亡率曲線を見ると、第2四分位と第3四分位とのあいだぐらいで死亡率の差が生じていることが分かる)およびTable 4に示した解析結果を総合すると、治療開始12時間後における水分出納量がおよそプラス3Lのときに、もっとも生存率が高いと推測される。敗血症性ショックが進行すると(第1日から第4日)、中心静脈圧と水分出納量とのあいだに相関はないことが明らかになった。したがって、敗血症性ショック発症から12時間を過ぎると、中心静脈圧は輸液反応性(試験的な輸液投与によって心拍出量が上昇するかどうかの反応性)の予測に役立たないばかりか、水分出納量の指標にもならないと考えられる。

VASST研究では、水分出納量が多いほどand/or中心静脈圧が高いほど死亡率が高いことが示された。水分出納量が多い死亡率が高いことを示した観測研究(SOAP研究)、敗血症性ショック患者では水分出納量がマイナスだと生存率が向上するという結果を得た二編の遡及的研究、ARDS患者では制限輸液を行った方が人工呼吸期間およびICU在室期間が短縮し、死亡率が低下する傾向があることを明らかにした研究などが過去に発表されているが、本研究はこれらに続き、その共通する知見を強化することになったのである。ごく最近の複数の研究でも、肺傷害患者では発症後早期を過ぎても水分出納量総計が多いと死亡率が上昇したり、ICU在室期間が延長したりすることが示されている。大量輸液を行うと、なぜ臓器機能障害の発生や死亡につながるのであろうか?敗血症患者に大量の輸液を投与すると、血管透過性亢進や肺静脈収縮などの病態のため、血管外肺水分量が増えることが明らかにされている。その結果、肺コンプライアンスが低下し呼吸仕事量が増え、人工呼吸器からの離脱が難しくなる。急性腎傷害があると、往々にして水分出納量が増えるものだが、重症患者を対象とした新しい研究では、透析開始時点に血管内容量過多であると、そうでない場合と比べ死亡のオッズ比が2になるとされている。さらに同研究では、腎不全の重症度とは無関係に、血管内容量過多は腎機能の回復の可能性を低下させることが明らかになり、輸液が多いと腎不全が悪化するという因果関係の存在が示唆されている。

本研究の最大の問題点は遡及的に行われた点である。そのため、中心静脈圧と水分出納量が単に重症度を反映しているだけなのか、それとも、重症度などとは関係なく独立して転帰に影響を及ぼしているのかをはっきりさせることはできなかった。年齢、APACHEⅡスコアおよびショックの程度に関して調整して解析したものの、我々が交絡因子として認識していないために記録もされていない要素(循環不全によって出現する四肢の網目模様など)が、死亡率の予測因子であるとともに輸液量増大の原因であったという可能性は否定できない。もう一つの問題点は、輸液製剤の種類(膠質液、晶質液など)が報告されていないことである。水分出納量の増大が重症度の「バイオマーカ」であるのか、大量輸液自体が死亡率を上昇させるのかを明らかにするには、敗血症性ショック患者を対象として大量輸液と制限輸液を比較する前向き無作為化試験を実施する必要がある。

まとめ

敗血症性ショック症例では、初期治療中の水分出納量および発症後4日までの合計水分出納量が増えるほど、死亡リスクが上昇することが分かった。中心静脈圧は他の指標と併せて用いれば、敗血症性ショック発症から12時間後までなら輸液量が適当であるか否かを判断するのに有用である可能性があるが、12時間後以降は水分出納量の指標としては役に立たなくなる。VASST研究においては、治療開始から12時間後の時点における水分出納量がおよそ+3Lの症例が、最も生存率が高かった。

参考記事
輸液動態学 
正しい周術期輸液 
外傷患者救急搬送中の輸液で死亡率が上昇する
重症感染小児は輸液負荷で死亡率が上昇する

教訓 治療開始12時間後における水分出納量がおよそプラス3Lのときに、もっとも生存率が高いと推測されました。最近の研究では、腎不全の重症度とは無関係に、血管内容量過多により腎機能の回復の可能性が低下し、輸液が多いと腎不全が悪化するという因果関係の存在が示唆されています。
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