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敗血症性ショック:輸液量が多いほど死亡率が高い~考察① [critical care]

Fluid resuscitation in septic shock: A positive fluid balance and elevated central venous pressure are associated with increased mortality

Critical Care Medicine 2011年2月号より

考察

敗血症性ショック患者を治療する際に治療担当医の脳裏には、輸液が本当に臓器血流を改善し生存率の向上につながるのかという疑問が、初期治療中絶えずちらつくものである。残念ながら、敗血症性ショック患者における至適輸液量についての無作為化比較対照試験はまだ行われていない。Surviving Sepsis Campaignガイドラインでは、中心静脈圧の目標値を8-12mmHgに設定し輸液療法を行い血管内容量を保つ手法が推奨されている。これは、2001年に発表された画期的な研究、「Early goal-directed therapy in the treatment of severe sepsis and septic shock (EGDT)」の結果に基づいて導かれた治療方針である。EGDTは重症敗血症/敗血症性ショック患者の治療体系であり、そのなかで最も重視されているのは、中心静脈圧が8-12mmHgに到達するように輸液療法を行うことである。しかし、一方で不思議なことにEGDTプロトコルには、積極的な輸液を終了するタイミングをどのように判断するのかということについて明記されてはいない。これを継承し同様に輸液投与量に上限を設けたり、中止基準を設けたりしないで、積極的な輸液を推奨するにとどまっているのがSurviving Sepsis Campaignガイドラインなのである。ショックで昇圧薬を要する患者の輸液量はどのように決めるべきなのであろうか?VASST研究は、敗血症性ショック患者における輸液療法の実態を検証する、またとない貴重な機会を提供した。というのも、研究登録より前にも後にも輸液療法についての強制的な取り決めはなく、治療担当医に裁量が委ねられたからである。

EGDT研究とVASST研究における輸液投与量はほぼ同等であった。これはおそらく、EGDT研究が発表され注目されたことと、VASST研究の患者登録中にEGDTがICU領域の現場で急速に広がり標準的治療となっていったためであると考えられる。VASST研究登録時点(基準時点)までの12時間、つまり診断から初期治療の進行におよぶ12時間、患者が救急部に収容されていたことも、両研究の一致点である。治療開始から12時間後の時点で、VASST研究の対象患者には6.3Lの輸液が投与され、水分出納量はプラス4.2Lであった。ただし、患者によるばらつきがかなり大きく、水分出納量の標準偏差は3.8L、四分位範囲中央値は、第1四分位が+710mL、第4四分位が+8200mLであった。Riversらの研究(EGDT研究)では、EGDT群に無作為化割り当てされた患者の輸液投与量は6時間で平均5Lであったが、対照群では6時間当たり3.5Lにとどまった。EGDT群には7時間の治療期間中に対照群より1.5L多い輸液が処方されたが、研究開始から終了までの全72時間の輸液処方量を見てみると、結果的には両群同等の13.4Lであった。EGDT研究では水分投与量または水分出納量と死亡率との相関は認められていないが、最近の研究では異なる結果が得られている。この研究は、ヨーロッパに所在する128ヶ所のICUに入室した3147名の患者を対象に行われ、水分出納量がプラスであると死亡率が上昇することが示されている。VASST研究では、治療開始12時間後における水分出納量および第4日までの水分出納量総計のプラス幅が大きいほど、28日後死亡率が有意に上昇するという結果が得られた。水分出納量を四分位群に分類した解析でも、水分出納量が多い群ほど死亡率のハザード比が高く、この相関はもっとも強力な交絡因子であると考えられる重症度とは独立していることが明らかになった。

治療開始12時間後における中心静脈圧が記録されていた719名のうち、推奨されている8-12mmHgを達成していたのはわずか204名(28%)に過ぎなかった。対象患者719名の大半を占める449名(62%)の中心静脈圧は12mmHgを超えていて、8mmHg未満であったのは9%にとどまった。治療開始12時間後の時点では、中心静脈圧とそれまでの輸液投与量とのあいだには有意な相関が認められた。敗血症性ショック患者では、心室コンプライアンスの変化、胸腔および肺コンプライアンスの変化および陽圧換気の影響で、中心静脈圧は血管内容量の正確な指標とはならないという意見が大勢を占めてきた。我々が本研究で得た知見においても、敗血症性ショック発症後早期であっても、中心静脈圧は血管内容量の決定的な指標とはなり得ないことが示された。中心静脈圧が8-12mmHgを達成してもなお、治療担当医の多くが輸液を続けたことをうかがわせるデータが得られたのであろうか?VASST研究では、2001年7月から2006年8月にかけて患者を登録した。Surviving Sepsis Campaignガイドラインの初版が発表されたのは2004年のことである。それまでは、中心静脈圧の目標値は経験的に選択されていた。また、治療担当医の相当数が、患者に心室コンプライアンスの低下があると判断して中心静脈圧の目標値を12-15mmHgとした可能性がある。実際、2008年に発表されたSurviving Sepsis Campaignガイドライン改訂版でも、人工呼吸中やもともと心室コンプライアンスが低下している患者においてはCVP 12-15mmHgを目標とした輸液療法が推奨されている。さらに、昔のガイドラインでは肺水腫を起こすぐらいの輸液量が、輸液の限界量であるとされていたものである。本研究では治療開始12時間後の中心静脈圧が水分出納量とわずかに相関するということを確認し、次に、中心静脈圧が8-12mmHgにおさまるように管理すると、この範囲外であった場合よりも死亡率が低下するかどうかという問題に取り組んだ。Surviving Sepsis Campaignガイドラインの中心静脈圧目標値は、EGDT研究で採用された目標値を踏襲している。EGDT研究では、EGDT群も従来治療群も初期治療の大半の期間において中心静脈圧目標値を達成した。時間積分平均中心静脈圧は、EGDT群11.7mmHg、従来治療群10.5mmHgであった。治療開始6時間後におけるEGDT群の平均中心静脈圧は13.8mmHg、従来治療群では11.8mmHgであった。EGDT群は従来治療群と比べ死亡率が低く、その絶対差は16%であった。この差が生じた原因は、EGDT群の中心静脈圧が対照群の11.8mmHgより高い13.8mmHgであったことなのだろうか?強心薬投与や輸血の実施状況に大きな差があったことなどの他の要素によって治療効果がもたらされたとは考えられないだろうか?

参考記事
輸液動態学 
正しい周術期輸液 
外傷患者救急搬送中の輸液で死亡率が上昇する
重症感染小児は輸液負荷で死亡率が上昇する

教訓 EGDTで最も重視されているのは、中心静脈圧が8-12mmHgに到達するように輸液療法を行うことです。しかし、EGDTプロトコルには、積極的な輸液を終了するタイミングをどのように判断するのかということについて明記されてはいません。Surviving Sepsis Campaignガイドラインは、これを継承し、輸液投与量に上限を設けたり、中止基準を設けたりしないで、積極的な輸液を推奨するにとどまっています。本研究では中心静脈圧が8-12mmHgにおさまるように管理すると、この範囲外であった場合よりも死亡率が低下するかどうかが検証されました。
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