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術後血糖管理~血糖値の調節 [critical care]

Glycemic Control in the Intensive Care Unit and during the Postoperative Period

Anesthesiology 2011年2月号より

重症疾患患者や術後患者は、いわゆる「ストレス性高血糖」に陥ることがある。ストレス性高血糖とは、糖尿病の既往のない患者が重症疾患や手術により一時的に高血糖になることである。いずれの場合にも、ストレス性高血糖が転帰の悪化につながることが多くの研究で明らかにされている。2001年には、術後重症患者を対象として強化インスリン療法による厳格血糖管理(血糖値80mg/dL~110mg/dLとする管理法)の効果を検証する大規模無作為化比較対照試験が行われ、死亡率および合併症発生率が低下するという結果が得られた。しかし、別の施設のICUで行われた同様の後続研究では、強化インスリン療法の効果は確認されなかった。

このように強化インスリン療法は甲論乙駁といった様相を呈しており、一体どのようにICU在室中や術後期の血糖を管理すればいいのか?という、臨床に深く関わる課題が浮かび上がっている。本稿では、血糖値の生理的調節、高血糖の害およびストレス性高血糖の発生機序と影響についてこれまでに蓄積されてきた知見、そして観測研究や介入研究で得られている臨床データについての概要を紹介する。さらに、日常診療と関わりのある未解明の問題や仮説についても論ずる。重症患者および術後患者における血糖管理についての新しい指針も紹介する。

血糖値の生理的調節

血糖値は以下の二つの機序によって厳密に調節されている:(1) 内分泌系による調節。即ち、血糖値を低下させるインスリンと、その逆の作用を持つホルモン(グルカゴン、エピネフリンおよびコルチゾールなど)との均衡によって血糖値が調節される機序。(2) 自律神経系による調節。即ち、各臓器のブドウ糖センサーから出力される情報によって血糖値が調節される機序。

以上の内分泌系および神経系のシグナルによって、ブドウ糖の生成や細胞内取り込みといったブドウ糖動態が制御され、炭水化物の代謝に変化が生ずる。ブドウ糖の細胞膜通過を修飾する最も重要な機序が、グルコース輸送担体(GLUTs)の移行である。グルコース輸送担体のうち、インスリンを介さないブドウ糖取り込みに関与するのがGLUT1である(fig.1)。GLUT2にはブドウ糖の肝細胞膜通過を調節するはたらきがある。GLUT4は、インスリン反応性GLUTの首魁であり、脂肪組織、心筋および骨格筋におけるインスリンを介したブドウ糖取り込みを調節する。セラミドなどの一部の脂質は、GLUT4遺伝子の読み込みやグルコース輸送担体の細胞膜移行を阻害する。これは、インスリン抵抗性が発生する機序の一つである。将来的にはこの機序を標的とした、新しい治療法が登場するであろう。

高血糖の害

重症疾患ではエネルギー基質として望ましいのはブドウ糖であるため、ストレス性高血糖はエネルギーを組織に適切に供給するための有益な反応であるとこれまでは考えられてきた。しかし、ストレス下では、インスリンを介さずにブドウ糖を取り込む組織ではブドウ糖が著しく過剰になってしまう。このようにブドウ糖が過度に蓄積するのは、炎症促進性メディエイタ、血糖値を上昇させるはたらきのあるホルモンおよび低酸素症によって、GLUT1のダウンレギュレーションが阻害されるからである。細胞内のブドウ糖濃度が高いと、いろいろな悪影響が生ずることが分かっている。ミトコンドリアタンパクの障害が起こったり、糖代謝の主な経路が解糖系から副代謝経路(ペントースリン酸経路、ヘキソサミン生合成経路およびポリオール代謝経路)へと転換するため活性酸素の生成量が増えたりする。ブドウ糖濃度が高すぎることによる悪影響は多岐にわたる。たとえば、炎症の増悪、補体活性の低下、自然免疫の抑制、内皮および肝臓のミトコンドリア機能の低下、虚血プレコンディショニング効果の消失およびタンパク質糖鎖付加などである。

教訓 GLUT1はインスリンを介さないブドウ糖取り込みに関与します。炎症促進性メディエイタ、インスリン拮抗ホルモンおよび低酸素症によって、GLUT1のダウンレギュレーションは阻害されます。
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