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MRSAの定着と院内感染~除菌 [critical care]

Methicillin-resistant Staphylococcus Aureus Colonization, Its Relationship to Nosocomial Infection, and Efficacy of Control Methods

Anesthesiology 2010年12月号より

抗菌薬を用いた選択的除菌

選択的消化管除菌(SDD)および選択的口咽頭除菌(SOD)は、重症患者における体内細菌叢による院内感染の防止を目的とした感染予防策である。この予防策では、感染を起こす可能性のある定着病原菌を除去または低減しつつ、常在細菌叢を構成する有用な細菌は保全し全身感染の発生を予防したり耐性菌や真菌の増加を防いだりすることが目論まれている。SDDによく用いられる抗菌薬の組み合わせは、好気性グラム陰性桿菌を標的としたポリミキシンE(コリスチン)とトブラマイシンおよび真菌を標的としたアンホテリシンBである。一日四回、経鼻胃管を使用して胃内へ投与するか、ペースト状にして口咽頭内に塗布する。SDDではさらに、セファロスポリン(通常セフォタキシム)を経静脈的に投与することがある。選択的除菌を行うと感染率が低下することを示す研究は数多い。特に、ICUにおける肺炎の発生率についての研究では、選択的除菌の効果が高いとされている。しかし、感染の減少が死亡率の低下、入院期間の短縮および費用効率の向上につながるか否かという問題についての専門家の見解は分かれている。過去に行われた複数の無作為化比較対照試験では、選択的除菌によって生存率が向上する傾向が認められているが、大半が有意な効果を示すには研究規模が小さすぎ、死亡率の有意な低下はメタ分析一編でしか確認されていない。2004年に発表されたそのメタ分析では、SDDを行うと死亡率が有意に低下し、オッズ比は0.75であることがしめされた(95%CI, 0.65-0.87)。新たに行われた最近の研究でも、これと同等の死亡率低下が確認されている。

SDD/SODの行うに当たっての最大の懸念は、抗菌薬耐性の発生である。SDDではグラム陰性菌に対する抗菌活性がある抗菌薬が用いられるので、患者の細菌叢はグラム陽性菌主体に移行する。そうなったときに最も憂慮されるのは、病原性の強いMRSAの出現である。除菌が耐性菌出現パターンに及ぼす影響を検討した研究では、除菌によって耐性菌が減るという驚くべき結果が得られている。しかし一方で、ICUにおける病原性の低いMRSAによる感染発生率には変化はなかった。MRSA感染が頻発する施設で行われた研究では、MRSA感染が有意に増えるという気になる結果が示されている。除菌に用いる薬剤にバンコマイシンを加えると、MRSA感染発生率を抑制するのに非常に有効である。しかし、バンコマイシンを使うとMRSAには良くても、バンコマイシン耐性腸球菌などの他の耐性菌が増える可能性がある。SDDには以上のような憂慮がつきまとうため、広く一般的にSDDを行うことは推奨されていない。セファロスポリンを用いるSDD/SODを実施すると、除菌には至らず静菌にとどまり、MRSA以外の耐性菌(グラム陰性菌を含む)が発生するおそれがある。SDD/SOD中止後に消化管や呼吸器に耐性グラム陰性菌が有意に増加したという報告もある。多剤耐性菌が頻発している施設(地域)では、クロルヘキシジンをはじめとする消毒薬による除菌が有効であるのではないかと指摘されている。

消毒薬による除菌

クロルヘキシジンやポビドンヨードなどの消毒薬は、抗菌薬と異なり標的部位において速やかに作用を発揮するため、耐性を発生させ難いと考えられる。消毒薬を用いると院内感染を減らすことができるという複数の報告がある。しかし、死亡率を低下する効果についてははっきりしていない。消毒薬が有効であることは、手術患者において認められている。心臓手術を受ける患者の鼻腔内および口腔内をクロルヘキシジンで消毒すると、院内感染が大幅に低下することが分かっている。MRSA定着のある手術患者を対象とした無作為化試験で、局所抗菌薬(ムピロシン)塗布およびクロルヘキシジン浴を行った場合と行わなかった場合を比較したところ、この除菌法によってブドウ球菌感染が60%減少することが明らかにされた。なお、深部SSI発生率の差が最も大きかった。この研究の著者らは、高い予防効果を得るにはクロルヘキシジン浴が必須であるという考察を示している。なぜなら、ムピロシンは鼻腔内に局所塗布するだけなので、他の部位の定着には何ら効果を発揮しないからである。

重症患者においても、消毒薬が有効であることが報告されている。ICU患者を対象に、石鹸による通常の清拭とクロルヘキシジンによる清拭を比較したところ、クロルヘキシジンによる清拭の方が耐性菌(MRSAおよびVRE)の定着とともに、耐性菌感染も減ったという結果が示されている。

教訓 SDD/SODは耐性菌を増やす懸念があります。鼻腔内/口腔内クロルヘキシジン消毒およびクロルヘキシジン全身浴を行うとSSI発生率が有意に低下します。ICU患者でもクロルヘキシジン清拭を行うと耐性菌定着/感染が減ります。
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