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MRSAの定着と院内感染~疫学 [critical care]

Methicillin-resistant Staphylococcus Aureus Colonization, Its Relationship to Nosocomial Infection, and Efficacy of Control Methods

Anesthesiology 2010年12月号より

健康な人であっても例外なく口腔内におよそ100-200種類もの細菌が定着している。今までに同定された細菌の種類は700種以上にのぼる。宿主と細菌の関係は相利共生であることが多く宿主には何の影響もないのだが、周術期の患者においては重大な結果を招くことがある。βラクタム耐性菌が増えるにつれ、細菌定着が感染の危険因子として注目されるようになってきた。本レビューでは、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)関連院内感染、特に周術期の感染の疫学について紹介し、MRSAの定着と伝播を抑えるための方法について論ずる。

MRSA感染症の疫学と概要

院内感染は合併症発生率および死亡率を大きく上昇させる一因であるとともに、医療費の著しい高騰にもつながっている。2002年の院内感染による死亡者数は10万人に達し、ほかのどんな疾患による死亡者数をも凌駕している。院内感染の主な起因菌には色々あるが、黄色ブドウ球菌が中でも最も頻度が高い(30%)。院内感染起因菌の種類は昔からあまり変わっていないが、抗菌薬に対する感受性は以前とは異なり、いくつもの耐性菌が出現している。全国院内感染監視システム(National Nosocomial Infections Surveillance; NNIS)のデータによると院内感染症例における各耐性菌の検出率は、バンコマイシン耐性腸球菌が27.5%、MRSAが57%、キノロン耐性緑膿菌が33%であり、それぞれ5年間で11%、13%、37%増加した。中でも、2002年にICUで発生した院内感染のうち起因菌がMRSAである症例は55%を占め、5年前より13%増加した。

MRSAは病院内だけでなく病院外でも見つかる機会が増えている(fig. 1)。今や、救急外受診者の皮膚・軟部組織感染症の起因菌として最も多いのがMRSAである。そして、院内、市中に関わらず全身性(侵襲性)感染症の起因菌としてもMRSAが主要な位置を占めるようになっている。MRSAの発生件数をfigure 2に示した。CDCによれば2005年に発生した全身感染症94000例がMRSAのみによるものであり、発生頻度は10万人あたり31.8件で、18600名が死亡したとのことである。

MRSAによる感染症の様相は多彩である。MRSAは院内肺炎、手術部位感染および血流感染の原因菌として首位の座を常に争っている。また、院内発症の菌血症の10-20%がMRSAによるものである。従来、手術部位感染の最多起因菌は黄色ブドウ球菌はであったが、現在ではMRSAのような耐性菌に取って代わられつつある。

MRSA感染症が発生すると、MSSAによる感染と比べ死亡率が上昇し、入院期間が延長し、医療費も増加する。メチシリン耐性の有無は、感染症の予後を左右する独立した重要な因子なのである。MRSA菌血症患者の死亡率は、MSSA菌血症患者の死亡率の1.78-3倍も高い。同様に、黄色ブドウ球菌による手術部位感染患者を対象とした別の研究では、メチシリン耐性菌感染によるそれ自体の独立した影響が調査され、死亡率は3倍に上昇し、入院中の医療費は感染が一回起こるごとに1400米ドル増加することが示されている(2000年)。メチシリン耐性菌発生の危険因子は以下の通りである:年齢、長期入院、抗菌薬使用の既往、尿道カテーテル留置、経鼻胃管留置および手術既往。感染症領域においてMRSAが様々な方面にその勢力を増していることから、MRSA感染が起こるリスクのある患者を同定することに注目が集まってきている。

教訓 MRSAをはじめとする耐性菌による手術部位感染が増えています。院内発症の菌血症の10-20%がMRSAによるものです。
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