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麻酔文献レビュー 2010年11月② [anesthesiology]

Anesthesia Literature Review

Anesthesiology 2010年11月号より

Operative Blood Loss, Blood Transfusion, and 30-Day Mortality in Older Patients After Major Noncardiac Surgery. Ann Surg 2010; 252:11-7

輸血総量のおよそ半分は高齢者に投与されている。しかし、術中に輸血を開始する際の現行のヘマトクリット閾値については、全年齢層の集団についても高齢者のみの集団についても大規模臨床試験のデータによる裏付けは乏しい。

本研究では、Veterans Affairs National Surgical Quality Improvement Program(退役軍人局全国手術成績改善プログラム)のデータベースを用いて、心臓以外の大手術を受けた高齢患者の30日後死亡率に術中輸血が及ぼす影響を遡及的に調査した。1997年から2004年のあいだに非心臓手術を受けた65歳以上でヘマトクリット0.54未満の患者のデータを対象とした。

計239,286名の患者のうち、9.4%に対して術中に1単位以上の赤血球製剤が投与された。ほとんどが男性で(98%)、平均年齢は73歳であった。輸血が行われなかった患者群と比べ輸血が行われた患者群の方が、術前ヘマトクリットが低く、白人が少なく、基礎疾患(重度の全身疾患、心疾患、神経疾患、呼吸器疾患または血液疾患など)を有する頻度が高い傾向が認められた。術中に投与された赤血球製剤の平均量は2.6単位であった。輸血群と非輸血群の全死亡率には差は認められなかった(10.2% vs 16.7%)。傾向スコアで照合した対照群と比べると、輸血が行われた患者の方が30日後死亡率が高いという結果が得られたが、危険因子の調整を行って解析したところ、輸血が有益であった患者も存在した。

解説
輸血開始のヘマトクリット閾値については未だ決着はついていない。予想に違わず、術前ヘマトクリットが低い(24%未満)、術中出血量が多い(500mL以上)またはその両者に該当する高齢患者では、輸血が行われた場合の方が死亡率が低かった。しかし、術前ヘマトクリットが30%以上で出血量が500mL未満の患者では、輸血が行われると死亡率が上昇するという結果が得られた。このような条件に合致する患者では、輸血が有害である可能性があることが示唆される。

Postoperative pneumonia in elderly patients receiving acid suppressants: a retrospective cohort analysis. BMJ Clin Res Ed 2010;340:c2608

Acid suppressants and postoperative pneumonia. BMJ Clin Res Ed 2010;340:c2254

胃酸分泌抑制剤には好ましい効果がある一方で、胃および食道における細菌の増殖を促進するため誤嚥性肺炎の危険性を増大させるという一面がある。しかし、胃酸分泌抑制剤を投与した場合と投与しなかった場合について、術後肺炎の発生率を比較した大規模臨床試験は行われていない。

胃酸分泌抑制剤が予定手術患者における術後肺炎の増加につながるかどうかを検証することを目的に、カナダ保健情報研究所のデータベースを用いて全人口を対象とした遡及的コホート研究を行った。16年間に予定手術のため急性期病院へ入院した高齢患者についての連続データを解析した。

対象となった593,265名の患者のうち、多くが腹部(26%)または筋骨格系(22.7%)の手術を受けた。全体の21%が術前に胃酸分泌抑制剤を内服した。使用された製剤のうち多かったのはオメプラゾール(21%)とラニチジン(37%)であった。術前に胃酸分泌抑制剤を服用しなかった患者と比べ、服用した患者の術後肺炎発生頻度は約30%高かった。しかし、薬剤の種別、投与量、投与期間もしくは術式などの様々な要因について調整した後に解析したところ、胃酸分泌抑制剤使用による術後肺炎発生リスクの増大は確認されなかった。

解説
術後肺炎は予定手術後に発生する重篤な合併症の一つである。特に高齢者では深刻な問題となりうる。本研究は、予定手術を受ける高齢患者の術後肺炎発生率について、胃酸分泌抑制剤長期使用の有無によって比較した遡及的研究である。この研究では、胃酸分泌抑制剤による術後肺炎リスクの増大は認められなかった。しかし、本論文が掲載された雑誌の論説で指摘されているように、同様のいくつもの研究で相反する結果が報告されている。その多くが遡及的研究である。したがって、このテーマについて明確な答えを得るには前向き研究を行う必要がある。

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