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VAPの新しい課題と論点~抗菌コーティング気管チューブ [critical care]

New Issues and Controversies in the Prevention of Ventilator-associated Pneumonia

American Journal of Respiratory and Critical Care Medicine 2010年10月1日号より

一部のガイドラインでしか推奨されていない方法

抗菌物質被覆気管チューブ

人工呼吸が行われている患者の気管チューブ内壁表面にはバイオフィルムが形成されることが明らかにされている。バイオフィルムは、病原菌が気管チューブに定着するのに絶好の環境である。時間が経つと、バイオフィルムは自然に剥脱したり吸引や気管支鏡の際に削ぎ落とされたりして下気道へ脱落し、VAPの危険性を招くことになる。バイオフィルム形成と細菌定着を抑制し、ひいてはVAPを防ぐため、抗菌物質で被覆した気管チューブが開発された。動物実験およびin vitro研究において、銀被覆気管チューブを使用すると気管チューブおよび肺の細菌定着が減少することが明らかにされている。また、重症患者に銀被覆気管チューブを用いると、気管内の細菌定着が減少し、VAP発生率が低下することが示されている。

Hartmannらは、口咽頭-喉頭-肺を模したin vitroモデルに銀被覆気管チューブまたは従来型気管チューブを挿入した上で、緑膿菌を口咽頭-喉頭内へ持続的に注入し、両チューブの比較を行った。従来型気管チューブ群より銀被覆気管チューブ群の方が、肺内の細菌数が少なかった。

Jonesらはin vitro研究において、異なる色々な濃度のヘキセチジン(0-20%)を含浸した気管チューブを用い、物理化学的特性と細菌(黄色ブドウ球菌および緑膿菌)の付着性を検討した。全体的な傾向として、ヘキセチジン濃度が高いほど、気管チューブの引っ張り強度および疎水性が低下し、微細な皺が増えることが分かった。ヘキセチジン含浸気管チューブ(濃度1または5%)は、ヘキセチジン処理されていない普通のチューブと比べ、細菌が付着しにくかった。また、観測期間中(21日)ずっとヘキセチジンがチューブから染み出し、一定の抗付着性が発揮された。著者らは、物理化学的特性と抗細菌付着性の両者がともに適切であるのは、1%ヘキセチジン含有気管チューブであると結論づけている。

Olsonらは、イヌ11頭を銀被覆気管チューブまたは従来型気管チューブのいずれかに無作為に割り当て人工呼吸を行い、緑膿菌を頬粘膜に塗布した。銀被覆気管チューブ群では、チューブ内壁表面に緑膿菌が検出されるまでの時間が、従来型気管チューブ群よりも長かった(1.8±0.4日 vs 3.2±0.8日; P=0.02)。また、肺実質の全好気性細菌数(対数)の平均値も、銀被覆気管チューブ群の方が少なかった(44.8±0.8 vs 5.4±9 log cfu/g[肺組織重量]; P=0.01)。

Berraらは16頭のヒツジをスルファジアジン銀-クロルヘキシジン被覆気管チューブまたは従来型気管チューブのいずれかに無作為に割り当て人工呼吸を1時間行った。従来型気管チューブが使用された8頭全頭において、気管チューブ内にバイオフィルム形成を伴う大量の細菌定着が認められ(105-108 cfu/g)、さらに人工呼吸回路内にも細菌定着が見つかった。スルファジアジン銀-クロルヘキシジン被覆気管チューブが使用された8頭のうち5頭で(62.5%)、気管内および肺内に病原菌の定着が認められた。同じく8頭のうち7頭(87.5%)の気管チューブおよび人工呼吸回路には細菌定着は認められず、バイオフィルムも見つからなかった。スルファジアジン銀-クロルヘキシジン被覆気管チューブ群の8頭のうち3頭(37.5%)では気管内に細菌定着が認められたが、肺内の細菌増殖はなかった。

Berraらが行った別の研究では、動物実験およびin vitro実験でスルファジアジン銀被覆気管チューブの評価が行われた。実験モデルには24時間おきに緑膿菌(104-106個/mL)が注入された。スルファジアジン銀被覆気管チューブを用いると最長72時間にわたり、チューブ内に細菌が皆無の状態が維持されることがin vitro実験で示された。一方、従来型気管チューブの場合は、緑膿菌が大量に増殖し、バイオフィルム形成も認められた(P<0.01)。8頭のヒツジに人工呼吸を24時間実施して行った無作為化試験では、スルファジアジン銀被覆気管チューブ群では、気管チューブ、人工呼吸回路および下気道のいずれにも細菌は認められなかった。一方、従来型気管チューブ群では、大量の細菌定着が気管チューブ(P<0.001)、人工呼吸回路(P=0.003)および下気道(P<0.001)に見つかった。

動物モデルおよびin vitroモデルを用いたRelloらの研究では、銀被覆気管チューブを使用すると従来型気管チューブを使用した場合と比べ、細菌定着率が低いことが示されている。Relloらは別の研究で、人工呼吸を24時間以上要する患者121名を銀被覆気管チューブ群または従来型気管チューブ群に無作為に割り当てた。従来型気管チューブ群と比べ銀被覆気管チューブ群では、チューブ内および気管内採痰中に細菌定着が発生するまでの時間が長く、気管内採痰中の最大細菌量が少なかった。この研究ではVAP発生率や抗菌薬使用量については両群間に有意差は認められなかった。標本数が少なかったことが、有意差が生じなかった原因であると思われる。

Kollefらが行った北米銀被覆気管チューブ試験(North America Silver-Coated Endotracheal Tube study; NASCENT)は、人工呼吸を24時間以上要すると予測される患者2003名を対象とし、銀被覆気管チューブと従来型気管チューブの比較を行った無作為化試験である。銀被覆気管チューブ群の方が、細菌培養で確定診断されたVAPの発生率が低く(37/766[4.6%] vs. 56/743[7.5%]; P=0.003)、VAP発生までの時間が長かった(一般化Wilcoxon検定P=0.005)。NASCENT試験で得られたデータの遡及的コホート解析を行ったところ、VAP発症例における死亡率は、銀被覆気管チューブ群の方が従来型気管キューブ群よりも低いことが明らかになった。しかし、VAP非発症例では、銀被覆気管チューブ群の方が死亡率が高かった。Shorrらが行った費用対効果解析では、銀被覆気管チューブの使用はVAPを予防し入院医療費低減につながる可能性があるとされている。この解析によれば、人工呼吸が24時間行われた場合、VAPの相対危険度は35.9%から24%に低下する。VAPによる限界費用を16620米ドル、銀被覆気管チューブの費用を90米ドル、従来型気管チューブの費用を2米ドルとすると、VAPを一例防ぐごとに12840米ドルが浮くことになる。多変量解析の感度分析でも、銀被覆気管チューブを使用するとVAPを一例防ぐごとに大幅な費用削減効果が得られることが明らかにされている(95% CI, 9630-16356米ドル)。基本症例に対する気管チューブ関連以外の投入量が一定である場合、銀被覆気管チューブの損益分岐点は388米ドルである。以上の推計は、異なる状況にはそのまま当てはまるわけではないかもしれないが、銀被覆気管チューブの使用は推奨される。

教訓 銀被覆気管チューブの使用は推奨されています。しかし、NASCENT試験では、VAP発症例における死亡率は、銀被覆気管チューブ群の方が従来型気管キューブ群よりも低く、一方、VAP非発症例では銀被覆気管チューブ群の方が死亡率が高いという結果が得られました。


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