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VAPの新しい課題と論点~バイオフィルム除去、生食注入 [critical care]

New Issues and Controversies in the Prevention of Ventilator-associated Pneumonia

American Journal of Respiratory and Critical Care Medicine 2010年10月1日号より

ガイドラインで検討されていない方法③

バイオフィルム除去装置

気管チューブの内壁表面に形成されるバイオフィルムを除去するというのも、VAPのリスクを低減する方策として提唱されている。細くて柔らかい吸引カテーテルを気管チューブの中に挿入して内壁に付着した粘液を除去する方法が慣例的に採られている。しかし、この方法では気管チューブ内の分泌物を根こそぎ除去するというわけにはいかないこともある。そこで、気管チューブ内壁のバイオフィルムを除去するのに使用する、バルーンの付いた装置(Mucus Shaver; National Institutes of Health, Bethesda, MD)が開発された。この装置の先端が、気管チューブ先端ぎりぎりのところに位置するように挿入し、二つの輪が気管チューブ内壁に密着しバイオフィルムを削ぎ落とすことができるようバルーンを十分膨らませる。そして、3-5秒かけて静かにこの装置を引き出し、気管チューブ内に溜まった粘液を除去するのである。

Kolobowらは8頭のヒツジを使って人工呼吸を72時間実施した(2頭には従来の気管内吸引を6時間おきに行い、6頭には従来の気管吸引を行った後にMucus Shaverを用いた)。実験中の平均PIPは、Mucus Shaver群の方が対照群より低かった(18.7±1.39 vs 21.4±1.91cmH2O)。抜管後、バイオフィルム形成の程度を評価するため、走査電子顕微鏡を用いて気管チューブ内壁を観察した。Mucus Shaver群に使用した気管チューブにはバイオフィルムは全く認められなかったが、対照群の気管チューブではバイオフィルム形成が顕著であった。Berraらは、12頭のヒツジにスルファジアジン銀被覆気管チューブを挿入し人工呼吸を72時間行う研究を行った(5頭には従来の気管内吸引を6時間おきおよび必要時に実施、7頭には従来の気管吸引を行った後にMucus Shaverを用いた)。抜管後、対照群(Mucus Shaver非使用群)の気管チューブ内壁には大量の細菌定着とバイオフィルム形成が認められた(汚染塊の厚みの中央値380μm; 範囲、270-550μm)。しかし、Mucus Shaver使用群では、抜管後の気管チューブ7本のうち3本のみで細菌定着が認められるに止まった。以上のようにMucus Shaverは有効であるように思われるが、VAP予防効果についてのデータは今のところ報告されていない。したがって、この気管チューブの使用可否について確定的な推奨事項を導くことはできない。

生食注入後気管内吸引

気管内吸引に先立ち毎回生食を注入する手法については、賛否両論がある。生食を注入せずに吸引カテーテルを挿入する方法と比べ、吸引カテーテル挿入前に生食を注入すると細菌塊が気管チューブ内壁から剥がれ落ちやすくなり、剥がれ落ちてしまえば下気道が汚染されることになるため、VAPの発生頻度を上昇させる可能性がある。その上、気管内吸引前の生食注入は、低酸素血症の原因となり得る。

一方で、生食を注入してから気管内吸引を行うとVAPの発生頻度を低下させることができるという考えもある。というのも、吸引前に生食を注入すれば、粘稠な分泌物を除去しやすくなり、咳をするのを促されるため分泌物が気管まで喀出されて吸引しやすくなり、また、気管内チューブ内のバイオフィルム形成を軽減することができる可能性もある。Carusoらが行った研究では、262名の患者が、生食注入後に気管内吸引を行う群か生食を注入せずに気管内吸引を行う群かのいずれかに無作為に割り当てられた。生食注入群の方が、細菌培養で確定診断されたVAPの発生頻度が低かった(23.5% vs 10.8%; P=0.008)。人工呼吸1000日あたりの細菌培養確診VAP症例発生頻度も生食注入群の方が低かった(21.2件 vs 9.6件; P<0.001)。気管チューブの閉塞や無気肺の発生率、死亡率、人工呼吸期間およびICU滞在日数については有意差は認められなかった。生食注入に伴って発生するおそれのある諸問題を考慮すると、この一編の研究のみを頼りに気管内吸引前の生食注入をルーチーンで行うことを推奨することはできない。場合によっては(例, 粘稠で吸引が困難な分泌物がたまっている場合)、一時的に生食注入を行うとよいこともあるかもしれない。

教訓 気管チューブ内のバイオフィルムを除去する装置(Mucus Shaver)を用いると細菌定着とバイオフィルム形成は抑制されますが、それがVAP予防につながるかどうかは分かりません。気管内吸入前の生食注入はルーチーンに行うべきではありません。
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