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VAPの新しい課題と論点~極薄カフ/SSD [critical care]

New Issues and Controversies in the Prevention of Ventilator-associated Pneumonia

American Journal of Respiratory and Critical Care Medicine 2010年10月1日号より

ガイドラインで検討されていない方法①

極薄カフ気管チューブ

声門下の分泌物は、気管チューブのカフ上部に貯留しカフ表面にできた皺に沿って下気道へたれ込むことがあり、その結果VAPが発生する。声門下分泌物の微量誤嚥(不顕性誤嚥)を回避する手立てとして色々な予防策が考案されている。声門下分泌物ドレナージ(SSD)機能付き気管チューブによる分泌物の除去がその一例である。計896名を対象とした5編の研究についてDezfulianらが行ったメタ分析では、SSD機能付き気管チューブを用いるとVAPリスクが低下することが明らかにされた(相対危険度0.51; 95%CI, 0.37-0.71)。早期発症の肺炎が減ることがVAPリスク低下に主に寄与していた(相対危険度0.38, 95%CI, 0.16-0.88)。このメタ分析における重要な点の一つは、5編の分析対象文献のうち4編において、人工呼吸管理を72時間以上要する見込みの患者を対象としていたことである。このメタ分析が発表された数年後の2008年にはBouzaらが、心臓手術を受ける患者714名をSSD機能付き気管チューブまたは従来の気管チューブのいずれかに無作為に割り当て比較する研究を発表した。VAP発生頻度はSSD機能の有無によらず同等であった(3.6% vs 5.3%; P=0.2)。しかし、人工呼吸管理を48時間以上要した患者では、SSD機能付き気管チューブ使用群の方がVAP発生率が低く(26.7% vs 47.5%; P=0.04)、ICU滞在期間が短く(中央値, 7日 vs 16.5日; P=0.01)、入院中の抗菌薬使用量が少なかった(1206ユーロ vs 1877ユーロ;P<0.001)。

声門下分泌物の下気道へのたれ込みを避けるための予防策としては他に、気管チューブのカフにできた皺がたれ込み路を形成するのを防ぐという方法がある。従来用いられている大容量低圧(HVLP)カフを完全に膨らませると、その直径は成人の平均気管径の1.5~2倍にもなる。HVLPカフを気管内で膨らませて臨床的な密閉状態を作ると、余ったカフの素材が折り重なった状態になり通路が形成される。気管チューブのカフ上部に蓄積した声門下分泌物は、カフが皺になってできたこの通路をつたって下気道へとたれ込み、VAPを引き起こすと考えられる。カフに皺ができて気体が漏れたり液体がたれ込んだりしないよう設計された極薄のHVLPカフが最近登場した(厚さ7μm、従来のポリ塩化ビニル製カフは厚さ>50μm)。Dullenkopfらは、各社のポリビニル製HVLPカフと、極薄ポリウレタンHVLPカフの性能を比較するin vitro実験を行い、チューブカフ周囲の液体のたれ込みの程度の違いを検討した。内径20mmのポリ塩化ビニル製気管モデルを垂直に設置し、気管チューブを挿入しカフを膨らませた。カフ圧は10~60cmH2Oとした。着色水(5mL)をカフ上部に注入した。60cmH2Oまでのいずれのカフ圧であっても、従来型のカフでは着色水注入後5分以内にカフ周囲からのたれ込みが認められた。極薄ポリウレタンカフでは、カフ圧が20cmH2Oだとたれ込みは起こらなかった。さらに、カフを造影剤に浸漬した後にポリ塩化ビニル製気管モデルに気管チューブを挿入し、カフ圧を20cmH2Oに設定してCTを撮影した。従来型HVLPカフ付き気管チューブの画像では、皺ができているせいでカフの部分に所々他の部分より濃く増強されている部分が認められた。Dullenkopfらが行った別の研究では、各社の従来型ポリ塩化ビニル製カフ付き気管チューブまたは極薄ポリウレタン製カフ付き気管チューブのいずれかが50名の患者に無作為に割り当てられ挿入された。標準的な人工呼吸器設定(PIP 20cmH2O; PEEP 5cmH2O; RR 15/min)でリークが生じないように、口元で気体が漏れる音が聞こえないか確認してカフ圧を設定した。リークを防ぐのに要するカフ圧は、極薄ポリウレタン製HVLPカフの方が他のポリ塩化ビニル製HVLPカフよりも低かった(9.5[8-12]cmH2O vs 19.1[8-42]cmH2O)。Poelaertらは心臓手術を受ける患者134名を、極薄ポリウレタンカフ付き気管チューブ群または従来型のポリ塩化ビニルカフ付き気管チューブ群に無作為に割り当て、極薄カフ群の方が術後早期の肺炎の発生頻度が低かったことを報告している。多変量回帰分析を行ったところ、極薄ポリウレタン製カフ付き気管チューブを使用すると、早期発症のVAPに対する予防効果が得られることが分かった(オッズ比0.31; 95%CI, 0.13-0.77; P=0.01)。しかし、Poelaertらの研究は対象を心臓手術患者に限った小規模なものであるため、VAP発症リスクのある他の患者群にはこの結果は当てはまらない可能性がある。また、この研究で用いられたポリウレタン製カフの形状は紡錘形であったため、同じ材質でも他の形状であれば同様の結果は得られないかもしれない。紡錘形カフの利点は、気管内の少なくとも一点においては膨らんだカフが気管にぴったりと密着することである。この部分には皺ができず、リークもたれ込みも起こりにくい。そんなわけで、VAP予防効果がもたらされる要因が、カフの材質がポリウレタンであることにあるのか、紡錘形の形状にあるのか、それともその両者であるのかは、現時点ではまだ分かっていない。

声門下分泌物の下気道へのたれ込みを回避するもう一つの予防策として、二つの効果を一挙に狙ったSSD機能搭載の極薄カフ付き気管チューブの使用がある。280名を対象とした無作為化試験で、SSD機能搭載極薄カフ付き気管チューブと従来型のポリ塩化ビニルカフ付き気管チューブについて、VAP発生頻度の比較検討が行われた。SSD機能搭載極薄カフ付き気管チューブ使用群の方が早期および晩期あわせたVAPの発生頻度が低かった(11/140[7.9%] vs 31/140[22.1%]; ハザード比3.3; 95%CI, 1.66-6.67; P=0.001)。VAP発症時期別の解析でも、早期発症、晩期発症ともにSSD機能搭載極薄カフ付き気管チューブ使用群の方が発生頻度が低かった(早期発症VAP 5/140[3.6%] vs 15/140[10.7%]; ハザード比3.3; 95%CI, 1.19-9.09; P=0.02、晩期発症VAP 6/63[9.5%] vs 16/60[26.7%]; ハザード比3.5; 95%CI, 1.34-9.01; P=0.01)。前述のDezfulianらのメタ分析では、SSDの効果は早期発症VAPに対してのみ発揮され、晩期発症VAPを防ぐことはできないとされが。しかし、この研究では、SSD機能搭載極薄カフ付き気管チューブを使用すると早期発症VAPだけでなく晩期発症VAPも予防することができるという貴重な知見が示された。ただし、本研究は極薄カフと声門下吸引を併用した気管チューブとポリ塩化ビニルカフ付きでSSD機能のない従来型気管チューブの比較を行った研究なので、極薄カフそのものだけによってもたらされる直接的な効果を評価することはできない。

以上に紹介した器具を用いることによって人工呼吸期間、医療費および抗菌薬使用日数が低減できるかどうかは現時点では不明である。したがって、ここに挙げた器具の有用性については疑問点が残る。特に、大規模無作為化比較対照試験が行われていないということが弱点である。故に、SSD機能搭載気管チューブの使用は「推奨」、SSD機能に加えて極薄もしくは紡錘形カフが付いた気管チューブの使用は「一考に値する」と決めた。

教訓 HVLPカフは皺ができるのでたれ込みが起こりやすいと考えられます。極薄ポリウレタン製カフは皺ができにくいのでVAP予防効果があるかもしれません。声門下分泌物ドレナージ(SSD)はVAP予防に有効です。
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