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意識と麻酔① [anesthesiology]

Consciousness and Anesthesia

Science. 2008 Nov 7; 322(5903): 876-880

脳の中で意識がどうやって生起するのか。これは、まだ解明されていない問題である。我々はこの課題をおよそ二世紀にわたって未解決のまま閑却してきたが、それでも何の問題もなく手術中に意識を消すため全身麻酔を日常的に行ってきた。術中に一時的に意識が戻ったり、最初から最後まで覚醒した状態で手術が行われたりする症例が、1000-2000例につき1例ほど発生する。困ったことである。意識状態を評価する手段が限られていることが、術中覚醒が発生する一因である。しかし、麻酔薬が意識消失状態をもたらしたり、麻酔薬を投与しても時として意識消失状態に至らなかったりする機序に関する一般原則の解明につながる進歩は、着実に積み重ねられている。

麻酔薬の細胞に対する作用

麻酔薬の細胞および分子薬理については先行する詳細な諸論文に譲る。全身麻酔薬は二つに大別される:麻酔導入に用いられる静脈麻酔薬と、吸入麻酔薬である。静脈麻酔薬は鎮静薬や麻薬とともに投与されることが多く、吸入麻酔薬は通常、麻酔維持に用いられる(Table 1)。麻酔薬は、脳および脊髄の特定部分に存在する、シナプス伝達や膜電位の調節に関わるイオンチャネルとの相互作用によって麻酔作用を発揮すると考えられている。麻酔薬の作用標的となるイオンチャネルの感受性は、麻酔薬の種類によって異なる(Table 1)。

麻酔薬は、抑制を強化するか興奮を抑制するかのどちらかによってニューロンを過分極させ、神経活動を変化させる。そして、覚醒時の脳において典型的に見られる持続的発火が、二相性のバーストサプレッションパターンへと変化する。バーストサプレッションは、ノンレム睡眠のときにも認められる脳波の様式である。麻酔薬濃度が中等度のとき、ニューロンは振動し始める。その頻度は1秒に約1回で、脱分極と過分極とのあいだで膜電位レベルが振動する。脱分極側の状態は、覚醒して脱分極が維持されている状態と類似している。過分極側のときは、シナプスの活動が完全に停止していて、この状態は0.1秒以上続く。その後ニューロンは、再び脱分極状態に戻る。麻酔薬の量が増えるにしたがい、脱分極状態の時間が短くなり、過分極状態の時間がどんどん長くなる。ニューロンの発火パターンが以上のように変化する様は、脳波によって観察することができる。覚醒時の低振幅高周波数パターン(覚醒時脳波)から、深いノンレム睡眠時に見られる徐波パターンへと変化し、最終的にはバーストサプレッションパターンの脳波が出現する。

教訓 術中覚醒は1000~2000例に1例発生します。麻酔中の脳波ではバーストサプレッションが認められます。
コメント(2) 

コメント 2

ROOKiEZ

これってちょっと前に麻酔のメーリングリストで紹介された論文ですね。
読みたかったのですが、英文なので躊躇していました。今回翻訳を読めてありがたく思っています。続きをたのしみにしています。
by ROOKiEZ (2010-10-14 10:33) 

vril

励みになるコメントをいただき、ありがとうございます。メーリングリストで知り重要な論文だと思って、勇んで翻訳に取りかかりましたが、難しくて悪戦苦闘しました。誤訳があるかと思いますが、ご容赦ください。
by vril (2010-10-14 22:20) 

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