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乳酸を指標とする初期治療の効果~考察② [critical care]

Early Lactate-Guided Therapy in Intensive Care Unit Patients

American Journal of Respiratory and Critical Care Medicine 2010年9月15日号より

Riversらが行ったEGDT研究では、EGDTによって死亡率が低下することが示された。しかし、これは単一病院の救急部という限定的な場面において行われた研究であるため、他の状況や異なる患者群にもEGDTという治療手法が通用するかどうかという点について、疑問の声が上がるようになってきている。Riversらの研究は救急部という特殊な環境で行われたため、本研究よりも中心静脈圧および中心静脈血酸素飽和度が低い患者が対象とされ、また、より早い段階で初期治療が開始された。研究を実施した状況の違いが、Riversの研究と本研究とのあいだに認められる治療強度の差(つまり輸液量の差)となってあらわれたものと考えられる。とは言え、Riversらの研究と同様に、本研究でも乳酸値を繰り返し測定しそれを指標として治療を進めた群の方が対照群よりも治療期間中の輸液量が多かった。ただし、それに引き続く観測期間中における輸液量は、対照群よりも乳酸値測定群の方が少ない傾向が認められた。したがって、本研究はEGDT研究の結果を追認するものと言うことができる。そして、救急部で早々に全身状態が安定したとしても、ICU入室後も乳酸値が高止まりしているのであれば、適切な初期治療を行うことが極めて重要であることが明らかになった。さらに、本研究によってEGDTの考え方を他の患者群にも敷衍することができた。というのも、本研究の対象患者のうち重症敗血症または敗血症性ショックの患者はわずか40%を占めるにすぎなかったからである。

予め設定したいずれのサブグループにおいても、乳酸値を指標とした治療の有効性がほぼ一貫して認められた。ただし、議論の余地はあるものの、敗血症以外の症例より敗血症症例で、敗血症性ショック症例より重症敗血症症例で、その効果はより顕著であった可能性がある。乳酸値測定群が対照群と比べ死亡率において遜色なかったのは、中枢神経疾患症例のみであった(外傷性脳傷害、脳血管障害もしくは脳腫瘍)。中枢神経疾患患者に血管拡張薬を投与すると、脳血流の最適化という治療目標の達成が妨げられるおそれがある。そして、高リスク患者における血行動態の最適化についての先行研究で得られた知見と同じく、乳酸値を指標とした治療は、臓器不全が発症する以前にICUに収容された場合の方が有効性は高いと考えられた。サブグループ解析の結果、他の色々な状況に敷衍したり、仮説を構築したりするのに役立つ情報が得られたかもしれないが、統計学的検出力が小さいことをはじめとして本研究には明らかにいくつかの問題点があることを踏まえると、結果の解釈には慎重を期さねばならない。

本研究で用いた手法には、考慮すべき点がいくつかある。特に、治療プロトコルの割り当てを治療担当者が知った上で研究が行われたことは大きな問題点として挙げられる。本研究のような研究は、治療担当者たちに治療法を知らさずに行うことは不可能である。このような事情によりバイアスが生ずる危険性がつきまとうことが、第一の問題点である。しかし、対象となる治療法の他に同時に行われた治療を監視した結果、両群間に有意差は認められなかった。また、当初8時間の治療期間終了以後および一般病棟への転棟時には、治療担当者が割り当てられた治療法を知ることは事実上ないようにした。第二に、対照群の治療エンドポイントを、国際的ガイドラインにおいて周知されているものとしたことが問題点として挙げられる。対照群におけるこの治療エンドポイントの達成度は、乳酸値測定群とほぼ匹敵していた。つまり、対照群の治療強度が乳酸値測定群よりも劣っていたわけではないと考えられる。さらに、対照群の死亡率は、本研究開始の直前に行われたパイロット研究における死亡率と同等であった。しかし、中心静脈血酸素飽和度のモニタリングは乳酸値群では必須としたが、対照群では任意としたことを考慮すると、中心静脈血酸素飽和度データの有無が、観測された転帰の差を生じせしめた一因であるという可能性を否定することはできない。第三に、本研究のデザインに関わる重大な問題点として、観測された両群間の治療効果の差は、臨床的転帰の改善を生み出す原因であることを裏付ける決定的な裏付けにはなり得ず、単に一つの手がかりを示すに過ぎない。その上、乳酸値を目標とした治療法によってもたらされる効果は、設定した複数の治療エンドポイントおよびそれを達成するための各種対応策の総体として顕現するものであり、したがって、本研究の治療アルゴリズムで用いた一つ一つの対応策の有効性を解釈することは困難である。例えば、輸液が有効か無効かを評価する方法は、いずれが最もすぐれているかという問題や、輸液療法を適切なエンドポイントは何かという問題については、百家争鳴の状況であるが、本研究では中心静脈圧を輸液の指標とした。というのも、ICU入室後間もない時期における評価を行う多施設研究では、中心静脈圧を用いることが最も現実的で適当だからである。また、世界中の多くのICUにおいて中心静脈圧を輸液の指標とするのが一般的であると考えられる。したがって、本研究で中心静脈圧を輸液の指標としたことは、得られた結果を他の状況に敷衍することを可能とする一つの材料となるであろう。

まとめ

ICU入室時の血中乳酸濃度が3.0mEq/L以上の患者に対し、現行の初期治療ガイドラインで推奨されている治療を行うとともに、当初から乳酸値のモニタリングを開始し、乳酸値が2時間ごとに20%以上低下することを目標にした治療を行ったところ、ICU在室期間が有意に短縮した。予め設定した危険因子について調整して解析を行ったところ、ICU死亡率および院内死亡率も有意に低下するという結果が得られ、その他の主要な二次エンドポイントについても同様であった。本研究の結果から、早期に乳酸値のモニタリングを開始すると臨床的有用性が得られると考えられた。

教訓 乳酸値を指標とした治療の有効性はいずれのサブグループにおいてもほぼ一貫して認められました。敗血症以外の疾患より敗血症で、敗血症性ショックより重症敗血症で、その効果がより顕著であった可能性があります。乳酸値測定群が対照群と比べ死亡率において遜色なかったのは、中枢神経疾患症例のみでした。
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