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輸液動態学~理論① [anesthesiology]

Volume Kinetics for Infusion Fluids

Anesthesiology 2010年8月号より

輸液動態学とは、薬物動態学の論理を輸液に当てはめて、輸液の分布と排泄の様子を解析したり模擬的に再現したりする手法である。

輸液動態学を活用すれば、物性パラメータ値の異なる各種輸液製剤の体内での動態を調べたり、シミュレーションによって目標血漿増加量に到達するのに必要な輸液速度を比較したりすることができる。輸液の分布および排泄がストレス、血管内容量低下、麻酔および手術侵襲などによって変化する様態が、輸液動態学を応用することによって定量的に示されている。

理論的背景

基本原則

薬物動態学で行われるのと同様に輸液動態学においても、投与した物質の予測分布様式を反映する理論モデルを構築する必要がある。その際、対象となる物質の投与中や投与後に血液検体を採取し、その濃度を測定する方法がとられる。往々にして、検体採取は何度も繰り返される。そして、濃度の実測値と、モデルをあらわす微分方程式から算出された値を、非線形最小二乗法によって比較し、モデルに採用するパラメータの最適値を予測する。

薬物動態学における以上のような基本的な手法を、輸液療法に当てはめるのは困難である。なぜなら、輸液製剤と血漿は、ともに主成分が水だからである。したがって、輸液製剤の血漿中濃度を通常の方法では表すことができない。しかし、全血中の水分量は、ヘモグロビンなどの固形成分の希釈率に反映される。したがって、ヘモグロビンの希釈率が、輸液製剤の「濃度」の指標となり得ると考えられる。

希釈の程度を算出する際、希釈によって低下したヘモグロビン濃度を分母としなければ、ヘモグロビンと水分量の変化の正確な比を求めることはできない。つまり、希釈によって低下したヘモグロビン濃度を分母としてヘモグロビンの希釈率を算出すれば[(希釈前Hgb-希釈後Hgb)/希釈後Hgb]、水分量増加の程度が分かるのである(fig. 1)。そして、この比を(1-Hct)で割れば、血漿希釈の程度を求めることができる(appendix 1)。血漿量は間質水分量と平衡して変化する体内水分である。

2分画モデル(two-volume model)

輸液動態学における基本的モデルでは水分が分布する区画が二つあるものと想定する(fig. 2)。このモデルは、麻酔中、術中、脱水時および血管内容量低下時における晶質液の動態に当てはめることができる。

輸液製剤を速度Roで投与すると、体内水分中心分画の容量がVcが増大しvc になる。排泄速度は、増大した容量の割合(vc-Vc)/Vcと、排泄クリアランスClの積であらわされる。

何もしていなくても起こる体内水分の喪失(不感蒸泄や尿など)は、零次反応定数Cloであらわされる。これは被験者の体の大きさによって異なるが、0.3-0.5mL/minに設定する。排泄クリアランスの合計は、Cl+Cloとなる。vcがVcに近づくと、この排泄クリアランスの合計はCloに近づく。尿量を測定する場合は、Cloの予測値を得ることができ、こうして得たCloは輸液動態予測体系の対象外となる体内水分の全て(もしあれば。このような水分がない場合もある。)と不可避的な体内水分の喪失の合計をあらわす。

投与された水分は、次に体内水分末梢分画Vtに分布し、Vtはvtに増大する。VcとVtの間の移動速度は、それぞれの希釈率の差と、分布クリアランスCldをかけたものであらわされる。水分は自由に移動し組織とは結合しないので、VcからVt、VtからVcのどちらの方向への移動についてもCld同じ値を示す(appendix 2)。

輸液動態には、薬物動態とは異なる点がいくつかある。例えば、vcとvtという分布容積を考える上で、輸液投与量を無視することはできない。そして、vcとvtの大きさは実験中変化し続ける(table 1)。実際、病人ではvcやvtが大きくなることが治療効果を上げるのである。

以上のような違いは、今までにも強調されてきたが、説明に非定型的な記号が用いられたため混乱も生んでいる。今日では、コンパートメントモデルで使用されるのと類似した記号を用いることになっている。以下に相同するパラメータを示す:Vc=V1、Vt=V2、Cld=ktおよびClo=kb

教訓 薬物動態の考え方を輸液に当てはめ、投与した輸液の体内での挙動を解析するのが輸液動態です。


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