SSブログ

術後に発生した陰圧性肺水腫の一例① [anesthesiology]

Case Scenario: Acute Postoperative Negative Pressure Pulmonary Edema

Anesthesiology 2010年7月号より

非心原性肺水腫は、様々な誘因によって発生する。上気道閉塞(陰圧性肺水腫[negative pressure pulmonary edema, NPPE])、急性肺傷害、アナフィラキシー、輸液過多、重症中枢神経系傷害(神経原性肺水腫)などが、非心原性肺水腫の成因である。肺水腫の診断を下すことと同時に、その背景にある病態生理を理解することが、治療を進める上で重要である。術後に重症の非心原性肺水腫が発生し、人工呼吸を要する症例では、低一回換気量でPEEPをかけ低いプラトー圧の人工呼吸器設定で換気を行うべきである。術後呼吸機能障害(NPPEを含む)発生例では、非侵襲的換気法が治療の一法となりうることが最近の研究で報告されている。

症例呈示

25歳男性(183cm、68kg)。背部および大腿の二か所に生じた神経鞘腫の摘出術が予定され日帰り手術センターを訪れた。複数回にわたる神経鞘腫摘出術および過去5年間の喫煙歴(一週間に20本)以外は、既往歴に特記すべきことはない。これまでに行われた全身麻酔において特に問題はなかったとのことである。術前の空気呼吸時の酸素飽和度は99%であった。

前投薬としてミダゾラム2mgが投与された。フェンタニル250mg(訳注;mcgの間違いか?)、チオペンタール500mgで全身麻酔を導入し、気管挿管のためベクロニウム8mgを投与した。マッキントッシュ喉頭鏡 no. 3を用い声帯を直視の上、7mmの気管チューブを用いて気管挿管を行った。気管挿管は初回に成功し、挿管操作に伴う損傷は生じなかった。患者を腹臥位とし、両側の呼吸音を確認した。左大腿部および左側腹部の神経鞘腫を摘出した。鎮痛のためハイドロモルフォン計0.5mgを投与した。術中経過には特記すべきことはなかった。安定した血行動態を示し、出血量は少量で、換気および酸素化は良好であった。65分にわたる手術時間中に、乳酸リンゲル液500mLが投与された。麻酔を醒まし抜管するため、患者を仰臥位に戻した。尺骨神経刺激によるTOF比が90%を超えており、筋弛緩からの十分な回復が認められたため、非脱分極性筋弛緩薬の拮抗は行わなかった。

抜管直後、吸気性喘鳴が認められた。原因は喉頭痙攣と考えられた。麻酔科医がマスク換気を試みたところ困難であり、酸素飽和度は80%未満に低下した。喉頭痙攣を解除するため、プロポフォール50mgを投与し、100%酸素で用手陽圧マスク換気を行った。酸素飽和度は徐々に上昇した。患者をPACUへ移送し、さらに治療を続けた。

PACUでは、非再呼吸式マスクによる100%酸素投与を行った。酸素飽和度の低下は認められなかった。手術の1時間後まで、咳をするとピンク色泡沫状の痰が喀出された。聴診では両側肺底部でcracklesが聴取され、胸部X線写真では両側びまん性間質性陰影が認められ全体に透過性が低下していた。肺および心臓の大きさは正常で、胸水はなかった(fig. 1)。陰圧性肺水腫と診断し、翌朝まで観察を続けるため、入院患者用の術後回復室に収容した。酸素投与、利尿薬投与および気管支拡張薬吸入を行った。呼吸状態は順調に改善し、手術10時間後における空気呼吸下の酸素飽和度は94%であった。術後第1日の診察では、両側呼吸音清、空気呼吸下の酸素飽和度は95-97%であった。同日朝遅くに、呼吸器系の症状または徴候がないことを確認し退院となり、経口鎮痛薬を処方され、1-2週間後に通常の術後診察を行う予定となった。

教訓 術後の非心原性肺水腫の主な原因は、上気道閉塞、急性肺傷害、アナフィラキシー、輸液過多、神経原性肺水腫です。
コメント(0) 

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。