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急性肺塞栓~リスク分類 [critical care]

Acute Pulmonary Embolism

NEJM(Published at www.nejm.org June 30, 2010)

リスク分類
急性肺塞栓が疑われる場合、入院中に有害事象が発生する危険性の多寡を判断しなければならない。肺塞栓死亡例では、入院後間もなく死亡に至るのが一般的であるため、リスク分類は直ちに行うべきである。リスク分類に当たっては、臨床像と心筋機能低下および心筋傷害の各種マーカを参考にする(Fig. 2)。

Figure 2 急性肺塞栓確診例の管理

血行動態が不安定な場合(ショックまたは低血圧の遷延[SBP<90mmHgまたは40mmHg以上の血圧低下が15分以上続く])
血栓溶解、手術またはカテーテルによる血栓除去

血行動態が安定している場合
全身状態および心機能の評価
右室不全の評価 心エコー、多列検出器型CT
心筋傷害の評価 トロポニン

右室機能不全も心筋傷害もなし 抗凝固療法継続、入院の上早期退院または外来治療
右室機能不全のみ 抗凝固療法継続、内科病棟入院
右室機能不全および心筋傷害あり ICU入室または出血のリスクが低い患者では血栓溶解


ショックや低血圧の遷延が認められる場合は、転帰が不良であるリスクが高い。ICOPER(International Cooperative Pulmonary Embolism Registry)のデータによると、血行動態が不安定な患者の死亡率は約58%、血行動態が安定している患者の死亡率は約15%である。神経疾患のため動けない状態、75歳以上、心または呼吸器疾患、および癌は、急性肺塞栓患者における死亡の危険因子である。危険因子を組み合わせた予後予測モデルが作成されており、このようなモデルを用いると予後良好な患者を同定するのに役立つという結果が得られている。

心筋機能低下および心筋傷害のマーカは、血行動態が安定している患者のリスク分類に有用である。急性肺塞栓症例において心エコーで右室機能低下が認められる場合は、死亡率が高いことが知られている。血行動態が安定している急性肺塞栓患者では、右室壁運動低下および右室拡張が30日後死亡の独立予測因子であることが分かっている。多列検出器型CT上の右室機能低下所見も、30日後死亡の独立予測因子であることが遡及的研究で明らかにされている。左室径に対する右室径の比が1.0未満であれば、重大な有害事象についての陰性的中率は100%であることが一編の研究で示されている(95%CIの下限 94.3%)。大規模遡及的研究では、(右室径と左室径の比ではなく)心室中隔の右室側への張り出しが、肺塞栓による死亡の予測因子であることが明らかにされている。大半の研究では、コンピュータによる再構成画像を用いて右室の評価が行われているが、この方法は日常臨床で遭遇する緊急事態の際に直ちに利用できるものではない(Fig. 3)。

脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)またはN末端プロBNPが上昇していると、正常値群と比較し入院中の転帰が不良であるリスクが高いことが一編の研究で明らかにされている。血行動態が安定している患者では、BNPおよびN末端プロBNPが正常範囲内であれば有害事象の陰性的中率はほぼ100%であることが示されている。

肺塞栓患者におけるトロポニン測定についてのメタ分析では、トロポニン値が予後予測に有用であるという結論が得られている。この研究によれば、肺塞栓症例でトロポニンが上昇していると、死亡の短期リスクが5.2倍(95%CI, 3.3-8.4)に上昇し、肺塞栓を直接的な原因とする死亡のリスクは9.2倍(95%CI, 4.1-21.5)に増大する。別のメタ分析でも、血行動態が安定している肺塞栓症例においてトロポニンが有用であることが確認されている。血行動態が安定している患者では、トロポニンが上昇し、心エコー検査で右室機能低下が認められる場合は、転帰不良の危険性がとりわけ高い。

肺塞栓患者のリスク分類は、臨床上の方針決定に大きな影響を及ぼす。右室機能低下や心筋傷害の所見は、陰性的中率が高い。したがって、右室機能低下が認められず、トロポニン値が正常範囲内であれば、早々に退院させたり、入院せずに外来治療で管理したりすることも可能である。血行動態が安定していて右室機能低下または心筋傷害の所見が認められる患者は、入院による管理が必須である。右室機能低下の所見またはトロポニン値上昇の、転帰不良についての陽性的中率は10-20%である。陽性的中率がこのように低いことから、右室機能低下やトロポニン上昇が認められる患者では、より積極的な治療が必要かどうかを判断するのに頭を悩まさねばならない。現在進行中の研究では、右室機能低下所見とトロポニン値上昇が認められ、血行動態が安定している患者における、抗凝固療法と血栓溶解療法の治療効果の比較検討が行われている(NCT00639743)。

教訓 血行動態が安定していて、右室機能低下が認められずトロポニン値が正常範囲内であれば、早期退院や外来管理が可能です。血行動態が安定していて右室機能低下または心筋傷害の所見が認められる患者は、入院が必須です。
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