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急性肺塞栓~診断② [critical care]

Acute Pulmonary Embolism

NEJM(Published at www.nejm.org June 30, 2010)

血行動態が安定していて肺塞栓の臨床的可能性が低~中等度の患者では、高感度ELISA法で測定したDダイマーが正常範囲内であれば、さらに他の検査を行う必要はない。このような症例では、抗凝固療法が行われていない場合に、3ヶ月以内に血栓塞栓症が発生する予測リスクは0.14%である(95%CI, 0.05-0.41)。肺塞栓が疑われDダイマーが正常の患者のうち、外来患者の約50%、入院患者の約20%では、ほかの追加検査の実施は不要である。

血行動態が安定していて肺塞栓の臨床的可能性が高いかDダイマー値が上昇している患者では、多列検出器型CTを実施すべきである。多列検出器型CTの結果、肺塞栓の所見が認められず、抗凝固療法が実施されていない患者では、3ヶ月以内に血栓塞栓症が発生する予測リスクは約1.5%である。Dダイマーが上昇している患者における3ヶ月以内の血栓塞栓症発生頻度は1.5%、Dダイマー正常患者における3ヶ月以内の血栓塞栓症発生頻度は0.5%である。肺血管造影CTの陰性的中率は、下肢静脈造影CTを併用するとわずかに向上する(95%→97%)。しかし、静脈造影CTを肺血管造影CTと同時に行うと被曝総量が増えるので、このやり方をお勧めすることはできない。肺塞栓の臨床的可能性は高いもののCTでは所見が認められない場合に、別の追加検査を実施するべきか否かということについては賛否両論がある。このような症例に下肢静脈超音波検査を行っても、深部静脈血栓の検出率は1%未満である。臨床所見から肺塞栓が疑われる妊婦では、致死的ともなり得るこの疾患を見逃す危険性と、母体および胎児を不必要な抗凝固療法に曝露する危険性との比較考量が重大であり、それと比べれば被曝による害は取るに足らない。多列検出器型CTは換気血流スキャンと比較し、母体の被曝量は多いが、胎児の被曝量は少ない。最近行われた肺塞栓診断前向き調査Ⅲ(Prospective Investigation of Pulmonary Embolism Diagnosis Ⅲ;PIOPED Ⅲ, NCT00241826)では、MRI血管造影は肺塞栓の診断に用いるには感度が低く、不適切な撮影技法のため必要な画像が得られないことが多いという結果が得られている。

多列検出器型CTを利用できない状況や、腎不全患者もしくは造影剤アレルギー患者では、換気血流スキャンを選択する。換気血流スキャンが正常であれば、基本的に肺塞栓を除外することができる。陽性的中率は85~90%である。しかし、肺塞栓が疑われる患者のうち、換気血流スキャンが診断に役立つのは30~50%にとどまる。画像診断で肺塞栓が除外された患者を対象とした無作為化試験で、当初CTで除外診断された患者のうち3ヶ月後に静脈血栓塞栓症と診断されたのは0.4%であったが、換気血流スキャンで除外診断された患者では1.0%にのぼった。換気血流スキャンで正常所見を呈する患者のうち約4%において、超音波検査で深部静脈血栓が見つかる。

肺塞栓が疑われる患者に対し下肢静脈超音波検査をはじめに行えば、およそ10%の症例で多列検出器型CTまたは換気血流スキャンを実施しないで済むと考えられる。肺塞栓が疑われるものの血行動態が安定している患者に、下肢静脈超音波検査で深部静脈血栓が認められれば、さらに他の検査を行うことなくその時点で抗凝固療法を開始すればよい。肺塞栓が疑われる妊婦および多列検出器型CTの禁忌に該当する患者では、画像検査の実施に先立ち下肢静脈超音波検査を行うべきである。

低血圧やショックなど血行動態が不安定な患者では、多列検出器型CTを実施すべきである。主肺動脈の血栓の検出における多列検出器型CTの感度は97%である(Fig. 1)。多列検出器型CTを直ちに利用できない状況であれば、心エコー検査を行い右室機能低下の有無を確認すべきである。血行動態が不安定な肺塞栓患者の大半では、経食道心エコーによって主肺動脈の血栓が見つかり診断を確定することができる。非常に状態が逼迫しており移動が危険または困難な症例では、ベッドサイドで行う心エコー検査で右室負荷所見が明らかであるならば、その時点で血栓溶解療法の実施を考慮すべきである。治療方針を変更する必要があるのではないかと考えられる場合には、患者の状態が安定し安全に移動できるようになってから多列検出器型CTの撮影を行う。有効性が確認されている診断アルゴリズムが活用されるようになり、従来のように肺血管造影が行われる症例が減ってきた。今や肺血管造影は、カテーテル治療の適応がある少数の症例にしか行われていない。

教訓 血行動態が安定していて肺塞栓の臨床的可能性が低~中程度の場合はDダイマー測定、臨床的可能性が高い場合はDダイマーは抜かしてマルチスライスCTを撮影します。血行動態が不安定で全身状態が不良でない場合はマルチスライスCT、全身状態が不良の場合は経胸壁または経食道心エコーを行います。
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