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敗血症に対する免疫療法-年来の仇敵に対する新攻略法② [critical care]

Immunotherapy for Sepsis — A New Approach against an Ancient Foe

NEJM 2010年7月1日号より

PD-1(プログラム細胞死1)は、アポトーシスの惹起、IL-10(敗血症で増加する重要な抗炎症性サイトカイン)産生の増加、T細胞増殖の抑制およびT細胞の無力化(「疲弊化」)などを引き起こし、免疫能を低下させる。Saidらは、HIV感染患者における免疫抑制がPD-1とPD-L1の相互作用によって起こるという新しい機序を明らかにした。HIV感染者では、PD-1が活性化されると単球によるIL-10産生が増加する。さらに、IL-10受容体を抑制すると、PD-1によるCD4陽性T細胞阻害作用は打ち消される。つまり、PD-1はIL-10の発現に影響を及ぼすことを通じて免疫抑制作用を発現するのである。以上の知見から、PD-1を阻害すれば、病原体が何であれ慢性感染のある患者の予後を改善できる可能性がある。真菌感染マウスや細菌感染による敗血症マウスを用いてPD-1を阻害した実験で、生存率の向上が得られていることが、その裏付けである。

免疫を活性化する治療法を行うと、敗血症における過剰炎症を増悪させたり、自己免疫作用が発現したりする可能性がある。しかし、様々な原因によって全身性炎症状態に陥った患者を対象にした研究では、強力な免疫賦活化作用のあるインターフェロンγや、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)、顆粒球単球コロニー刺激因子(GM-CSF)を投与しても、炎症反応が暴走して手がつけられなくなるような事態は起こっていない。治療抵抗性の敗血症症例の多くは免疫能が極端に低下しており、免疫活性化療法によって過剰炎症や自己免疫が惹起されることはないと考えられる。

敗血症患者において、免疫エフェクター細胞のアポトーシスによる大幅な減少を防ぐには、抗アポトーシス作用や免疫活性化作用を有するサイトカイン(IL-7およびIL-15)の投与が有効である可能性がある。両方とも敗血症を含む色々な感染モデルを用いた研究で試され、有効であることが示されている。これらのサイトカインは、細胞死を防ぎ、食作用を発揮する細胞に対する免疫抑制作用を打ち消す。その上、IL-7にはリンパ球のエフェクター機能を回復させる作用があり、インテグリン活性を増強することによってリンパ球遊走能を改善する。現在、IL-7の癌、HCVおよびHIV感染に対する治療効果を検証する臨床試験が進行中である。

将来的には、特定の検査結果や臨床所見に基づき患者一人一人に誂えた方法で免疫療法が行われるようになるであろう。例えば、敗血症に対するGM-CSFの治療効果を明らかにすることを目的とした試験が先頃行われたが、その対象は単球HLA-DR発現率が低下している患者に限定された。フローサイトメトリによってnegative pathwayに関与する共刺激分子(PD-1やPD-L1など)の白血球上の発現率を定量評価する方法や、迅速全血刺激分析法によるサイトカイン分泌量の評価などが、免疫療法の内容を決定するのに役立つ可能性がある。サイトメガロウイルス感染や単純ヘルペスウイルス1型の再活性化の症例および日和見病原体(stenotrophomonasやアシネトバクターなど)による敗血症は、免疫増強療法のよい適応である。

「助かる見込みのない絶望的な病気には、苦し紛れの窮余の策が功を奏するか、まったく手も足も出ないかのどちらかである」という古い格言がある。免疫刺激物質を用いた臨床試験は、免疫が抑制されていることが確実な患者を対象とし、自然免疫および獲得免疫の機能を厳密に監視しながら行わなければならない。敗血症以外の病態を対象とした複数の臨床試験が現在進行中であり、敗血症に対して有効である可能性のある多くの免疫修飾物質(Fig. 1)が用いられ、いずれも安全性には概ね問題がないことが明らかにされている。免疫を標的とした治療法が幅広い効果を発揮し、感染性疾患の分野における大きな進歩を担うことが期待される。

教訓 敗血症患者において、免疫エフェクター細胞のアポトーシスによる大幅な減少を防ぐには、抗アポトーシス作用や免疫活性化作用を有するサイトカイン(IL-7およびIL-15)の投与が有効である可能性がある。
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