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集中治療文献レビュー2010年6月① [critical care]

Anesthesia Literature Review:Critical Care Medicine

Anesthesiology 2010年6月号より

Red blood cell transfusion is associated with infection and extracerebral complications after subarachnoid hemorrhage

Neurosurgery.2010 Feb;66(2):312-8

集中治療においてどれぐらいの貧血であれば赤血球製剤の投与が推奨されるのかは、はっきりしていない。赤血球製剤を投与すると転帰が悪化することが複数の臨床試験で明らかにされている。クモ膜下出血の患者においても同様の相関が認められるものと考えられる。

本研究は、レベル1外傷センターで構築された前向き観測データベースを用いて行った遡及的解析である。クモ膜下出血患者における赤血球輸血と合併症の関連の検討がその目的である。グレードⅠからⅤのクモ膜下出血があり、動脈瘤が少なくとも一つ存在することが確認され、動脈瘤に対する手術が行われ、ICUに24時間以上収容された患者を対象とした。

赤血球輸血が行われた患者群は、行われなかった患者群と比べ、高齢かつ男性が多く、入院時のHunt&Hess臨床重症度分類によって判定した重症度が高かった。ICU滞在期間中の平均ヘモグロビン濃度は11.0g/dLであった。大半の症例(289名)では良好な転帰が認められた。しかし、6ヶ月後追跡調査では、81名が死亡、51名は重度後遺症または植物状態に該当した。赤血球輸血を行った症例では行わなかった症例と比べ、年齢、重症度、ヘモグロビン濃度および症状を伴う脳血管攣縮の有無について調整してもなお、脳以外の臓器に関わる合併症の発生が多かった(46.0% vs. 29.8%; P<0.001、オッズ比1.8)。脳以外の合併症の具体例は、心臓・肺・腎臓または肝臓の重大な合併症(オッズ比2.1)、なんらかの感染(オッズ比2.8)、肺炎(オッズ比2.6)、敗血症(オッズ比2.9)および人工呼吸が必要な状態(オッズ比2.8)であった。

解説
赤血球輸血が行われた患者では、肺炎や敗血症などの感染をはじめとする合併症の発生率が上昇する。赤血球輸血と合併症発生の因果関係を明らかにし、クモ膜下出血症例における輸血のガイドラインをさらに洗練するには一層の研究を積み重ねる必要がある。

Clinical response to hypertensive hypervolemic therapy and outcome after subarachnoid hemorrhage

Neurosurgery.2010 Jan;66(1):35-41

クモ膜下出血症例における死亡や高度障害の主な原因は、症状を伴う血管攣縮の発生である。破裂した動脈瘤に対する治療法については精力的に研究が行われてきたが、血管攣縮の予防または治療策については未だによく分かっていない部分がたくさんある。

本研究はクモ膜下出血患者580名を対象とした遡及的研究である。対象患者のうち95名(16%)に症状を伴う血管攣縮による遅発性虚血性神経脱落症状が出現し、51名に脳梗塞が発生した。症状を伴う血管攣縮の診断が下された患者では、血圧を高く、血管内容量を多く保つ治療法が行われていた。臨床的改善が認められたのは、輸液負荷が行われた89名のうち43%、昇圧薬が投与された81名のうち68%であった。この治療法の開始2時間後に行った臨床的評価で改善が認められなかった患者では、死亡したり、高度の神経学的後遺症が残ったりする傾向が強かった。

解説
破裂した動脈瘤に対する治療法については精力的に研究が行われてきたが、血管攣縮の予防または治療策については未解明の部分が多い。十分な注意を払い、無症状の血管攣縮を早い段階で見つけることが重要である(クモ膜下出血患者の30-70%で無症状の血管攣縮が発生する)。無症状の血管攣縮にはミルリノンが有効であることが示されている。血圧を高く、血管内容量を多く保つ治療法の実施に加え、神経学的所見を繰り返し観察し、必要であれば経頭蓋ドップラー検査やCT血管造影を行うべきである。

Poor sleep quality is associated with late noninvasive ventilation failure in patients with acute hypercapnic respiratory failure

Crit Care Med.2010 Feb;38(2):477-85

ICUに入室する患者のうち最高40%において、非侵襲的換気による管理が不調に終わり、気管挿管が行われる。およそ15-25%のICU患者では、非侵襲的換気に起因する死亡、気管挿管、6日以上にわたる非侵襲的換気の継続実施などの、晩期失調が認められる。このような予後不良な患者群における転帰を改善するには、非侵襲的換気の晩期失調に関わる危険因子を同定する必要がある。

ICUにおける非侵襲的換気開始後まもない時期に発生する睡眠障害と、非侵襲的換気による晩期失調との関わりを検証することを目的とし、高二酸化炭素血症性呼吸不全を呈する高齢患者を対象とした前向き試験を行った。非侵襲的換気を48時間以上要した高二酸化炭素血症性呼吸不全のICU患者(27名)を対象に、非侵襲的換気開始2日後から4日後までにかけ、17時間睡眠ポリグラフ検査を行った。

非侵襲的換気の晩期失調が認められた14名(52%)の内訳は、非侵襲的換気を6日以上要したのが7名、死亡5名、気管挿管2名であった。非侵襲的換気の晩期失調が発生した患者のうち7名(50%)において睡眠障害が認められた。一方、非侵襲的換気による管理が成功した症例では睡眠障害を呈したのは1名(8%)のみであった(P=0.03)。高齢患者では、非侵襲的換気が失敗する症例では、成功する症例と比べ、睡眠の質が不良で、睡眠周期の概日リズムの乱れが大きく、夜間REM睡眠が短かった(6分[0-12] vs. 26分[6-49]; P=0.03)。また、非侵襲的換気が不調に終わった症例では、ICU滞在中の譫妄発生率が高かった(64% vs. 0%)。

解説
最近の研究では、ICU患者では睡眠障害があると転帰が悪化する可能性があることが示唆されているが、これを裏付ける臨床データはまだほとんど発表されていない。高齢の高二酸化炭素血症性呼吸不全患者における、睡眠障害と非侵襲的換気の晩期失調との相関を、本研究がはじめて示したことになる。これが他の特性を持つICU患者にも当てはまるかどうかは、不明である。

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