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過換気は脳傷害によくない③ [critical care]

Hypocapnia and the injured brain: More harm than benefit

Critical Care Medicine 2010年5月号より

低二酸化炭素症が脳の低酸素症を引き起こす機序

脳への酸素供給量の低下
脳傷害症例に低二酸化炭素症を適用した場合に最も懸念されるのは、脳灌流の低下である。低二酸化炭素症は脳血管攣縮を増強する。その結果、転帰が悪化したり、すでに低下している脳血流量がさらに低下したりする。低二酸化炭素症は「逆盗血」(傷害部位へ血流が優先的に分布すること)を引き起こすことはないようである。実際、傷害部位の二酸化炭素に対する反応性は増強していることがあり、低二酸化炭素症によって虚血部位から正常部位へと血流が移動し二次的な虚血性傷害が増悪する可能性がある。

低二酸化炭素症は脳血流の減少以外の機序により酸素運搬量を低下させることがある。低二酸化炭素症によるアルカローシスは、気管支収縮を引き起こしたり、低酸素性肺血管収縮を減弱させたりする。これらの作用により動脈血酸素分圧が低下する。そして、酸素分圧にかかわらず、酸素解離曲線が左方移動すると組織への酸素供給能が低下する。

脳酸素消費量の増加
低二酸化炭素症は神経の興奮を高めるため、脳の酸素需要量が増える。その結果脳虚血が増悪する可能性がある(Fig. 5)。すると、脳におけるブドウ糖の消費が増え、脳のブドウ糖が減り、嫌気性代謝がはじまる。外傷性脳傷害症例では低二酸化炭素症によって脳酸素消費量が増加し、痙攣脳波が遷延する。痙攣脳波が発生すると酸素消費量はさらに増加し、細胞毒性のある興奮性アミノ酸(NMDAなど)が産生される。低二酸化炭素症によって神経から放出されるドパミンにも、このような興奮性アミノ酸を増やす作用がある。そして、アルカローシスは、pHが低下したときに内因性の酸産生(乳酸など)を減らす機構が働くのを阻害するため、脳傷害を一段と進行させる可能性がある。

低二酸化炭素症による脳虚血のエビデンス
低二酸化炭素症による脳への酸素供給量減少および酸素消費量増加を裏付ける知見が、複数の臨床研究や基礎研究で得られている。第一に、小児および成人の外傷性脳傷害を対象とした研究で、低二酸化炭素症によって局所脳虚血が発生することが明らかにされている。心停止蘇生後の成人では、低二酸化炭素症によって頸静脈球酸素飽和度が低下し乳酸が増加することが示されている。動物実験では、低二酸化炭素症によって局所脳血流量および皮質における局所組織酸素分圧の低下、脳内の酸素化ヘモグロビンの減少、脱酸素化ヘモグロビンの増加と酸素化チトクロムaa3の減少が認められることが分かっている。第二に、低二酸化炭素症によって虚血性変化が起こることが、MRIや脳波を用いた研究で明らかにされている。第三に、過換気によって脳における乳酸産生(つまり嫌気性代謝)が亢進するという知見が得られている。この現象は、外傷性脳傷害の早期にとりわけ顕著に認められる。アルカローシスは直接的に解糖を促進するので(アルカローシスを緩和するため)、乳酸はより一層増加することになる。

教訓 低二酸化炭素症は脳への酸素供給量減少および酸素消費量増加を招きます。傷害部位の二酸化炭素に対する反応性は増強していることがあり、低二酸化炭素症によって虚血部位から正常部位へと血流が移動し二次的な虚血性傷害が増悪する可能性があります。
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