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無症状の左室機能低下がある患者の術後転帰~結果 [anesthesiology]

Prognostic Implications of Asymptomatic Left Ventricular Dysfunction in Patients Undergoing Vascular Surgery

Anesthesiology 2010年6月号より

結果

対象患者

血管内手術ではない血管手術(open vascular surgery; 649名、65%)または血管内手術(356名、35%)を受けた計1005名の患者が本研究の対象となった。open vascular surgery症例の内訳は、頸動脈手術が148例(23%)、腹部大動脈瘤切除術が249例(38%)、下肢動脈手術が252例(39%)であった。血管内手術症例の内訳は、頸動脈手術が90例(25%)、腹部大動脈手術が162例(46%)、下肢動脈手術が104例(29%)であった。open vascular surgery症例は全例が全身麻酔下で行われた。血管内腹部大動脈手術のうち56例(35%)は全身麻酔下で行われた。経皮的手術症例では全身麻酔は行われなかった。

対象患者の大半を男性が占め(77%)、平均年齢は67±10歳であった。平均追跡期間は2.2±1.8年(範囲3-79ヶ月)であった。左室機能障害があると診断されたのは506名(50%)であった。左室機能障害のある患者のうち、403名(80%)は無症状の左室機能低下であり、103名(20%)は症状を伴う心不全であった。無症状の左室機能低下を呈した患者のうち209名(52%)は無症状孤発性左室拡張障害であり、194名(48%)は無症状左室収縮障害であった。症状を伴う心不全であった103名のうち72名(70%)はNYHA分類Ⅱ、28名(27%)はNYHA分類Ⅲであった(このうち12名はあきらかな末梢浮腫が認められた)。NYHA分類Ⅳであったのは3名(3%)で、理学的所見で肺水腫の徴候が認められた。

基準時点における患者特性

基準時点における臨床的特性をtable 1に示した。正常左室機能群と比べ左室機能障害群の方が高齢で、虚血性心疾患、腎機能障害、高血圧およびCOPDのある者が多く、安静時心拍数が高かった。さらに、左室機能障害群の方が、β遮断薬、経口抗凝固薬、ACEI、ARB、利尿薬および亜硝酸薬を内服している患者が多かった。無症状の左室収縮障害および症状を伴う心不全を呈する患者は、女性より男性に多かった。症状を伴う心不全のある患者では、それ以外の患者と比べ、血管内手術が行われた患者の割合が低かった。

30日後転帰

30日間の追跡期間中に、172名(17%)に非致死的冠動脈関連有害事象が発生した。そのうち131名(76%)が心筋虚血、41名(24%)が心筋梗塞であった。正常左室機能群では合わせて51名(10%)に術後30日目までに心血管系有害事象が発生した。一方、無症状孤発性左室拡張障害のある患者では38名(18%)、無症状左室収縮障害のある患者では44名(23%)、症状を伴う心不全のある患者では50名(49%)において術後30日目までに心血管系有害事象が発生した(P<0.001, table 2)。open surgeryが行われた患者群についての多変量解析では、無症状孤発性左室拡張障害、無症状左室収縮障害および症状を伴う心不全はいずれも術後30日目までの心血管系有害事象の発生と相関があることが示され、オッズ比はそれぞれ1.8(95%CI, 1.1-2.9)、2.3(95%CI, 1.4-3.6)、6.8(95%CI, 4.0-11.6)であった(table 3)。術後30日目までの心血管系有害事象に関するその他の危険因子は、年齢、虚血性心疾患、腎機能障害およびCOPDであり、オッズ比はそれぞれ1.8(95%CI, 1.0-1.1)、1.7(95%CI, 1.1-2.6)、3.9(95%CI, 2.2-7.1)、1.8(95%CI, 1.2-2.6)であった。血管内手術が行われた患者群についての多変量解析では、術後30日目までの心血管系有害事象の発生と相関があるのは症状を伴う心不全のみで、オッズ比は9.3(95%CI, 2.3-37.7; table 4)であった。いずれの術式においても、内服薬(β遮断薬、スタチン、ACEI、ARB、利尿薬)の有無による調整を行っても左室機能障害が30日後転帰に及ぼす影響の大きさに変化は認められなかった。

長期転帰

長期追跡期間中に、164名(16%)が死亡した。本研究における転帰項目である心血管系要因による遠隔期死亡に該当したのは107名(11%)であった。正常左室機能患者のうち心血管系要因により死亡したのは15名(3%)に止まったのと対照的に、無症状孤発性左室拡張障害の患者では21名(10%)、無症状左室収縮障害の患者では31名(16%)、症状を伴う心不全の患者では40名(39%)が心血管系要因により死亡した(P<0.001, table 2)。全対象患者の累積生存率をfigure 1に示した(ログランク検定、P<0.001)。術前に左室機能障害を呈し心血管系要因による遠隔期死亡に至った患者のうち、48名(52%)は手術後30日目までの追跡期間中に心筋虚血または心筋梗塞を発症していた。open surgeryが行われた患者群についての多変量解析を行ったところ、無症状孤発性左室拡張障害、無症状左室収縮障害および症状を伴う心不全はいずれも心血管系要因による遠隔期死亡と相関があることが示され、ハザード比はそれぞれ3.0(95%CI, 1.5-6.0)、4.6(95%CI, 2.4-8.5)、10.3(95%CI, 5.4-19.3)であった(table 3)。心血管系要因による遠隔期死亡に関するその他の危険因子は、年齢、虚血性心疾患、腎機能障害および喫煙で、ハザード比はそれぞれ1.1(95%CI, 1.1-1.2)、1.6(95%CI, 1.1-2.8)、2.5(95%CI, 1.3-5.1)、2.0(95%CI, 1.2-3.1)であった。血管内手術が行われた患者についての多変量解析を行ったところ、心血管系要因による遠隔期死亡と相関が合ったのは症状を伴う心不全のみで、ハザード比は11.4(95%CI, 3.7-35.6; table 4)であった。いずれの術式においても、内服薬の有無による調整を行っても左室機能障害が長期転帰に及ぼす影響の大きさに変化は認められなかった。

教訓 open vascular sugeryが行われた症例では、無症状左室収縮もしくは拡張障害が術後30日目までの心血管系有害事象発生および心血管系要因による遠隔期死亡と相関していました。一方、血管内手術が行われた症例では、症状を伴う心不全のみが上記の術後転帰と相関していました。
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