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グラム陰性菌による院内感染~治療② [critical care]

Hospital-Acquired Infections Due to Gram-Negative Bacteria

NEJM 2010年5月13日号より

グラム陰性菌に対する抗菌薬として新しく認可された薬剤には、グリシルサイクリン系抗菌薬の静注用製剤であるチゲサイクリンおよびカルバペネム系抗菌薬の静注用製剤であるドリペネムがある。ドリペネムはメロペネムと類似の抗菌活性を持つ薬剤である。チゲサイクリンはミノサイクリン誘導体で、抗菌スペクトラムはミノサイクリンより広域である。皮膚、軟部組織および腹腔内の難治性感染に適応がある。ESBLやカルバペネマーゼを産する腸内細菌科細菌、アシネトバクター属およびStenotrophomonas maltophiliaなどの治療に難渋するグラム陰性菌に対して、チゲサイクリンがin vitroでは抗菌活性を発揮することが明らかにされている(緑膿菌およびプロテウス属の細菌はチゲサイクリンには自然耐性を示す)。しかし、以上のような多剤耐性菌のチゲサイクリンによる治療経験はまだあまり蓄積されていない。チゲサイクリンの尿中濃度は低いので、尿路感染症の治療には適していない。さらに、無作為化二重盲検試験でチゲサイクリンはVAPに対してはイミペネム/シラスタチンに劣るという結果が得られている。チゲサイクリンは投与後急速に血中から組織へ移行するので、通常の使用量(初回100mg、2回目以降50mgを12時間ごと)では最高血中濃度は低い(0.63mcg/mL)。したがって、MICが1mcg/mL以上の細菌による血流感染に対する有効性は低いので注意が必要である。

グラム陰性菌治療において抗菌薬の単剤使用と多剤併用のどちらが優れているかという問題をめぐっては、未だ議論百出の状態である。過去の研究やメタ分析の結果は評価が困難であるが、最近の新しいエビデンスはこの問題に明確な答えを示す兆しを見せている。経験的治療について言えば、多剤併用の方が起因菌として疑われる細菌に対して抗菌活性を持つ薬剤が投与される可能性が高い。多剤耐性菌の発生頻度が高い施設ではこの傾向が特に顕著にあらわれる。しかし、多剤併用の場合でも選択する抗菌薬は自院の感受性データに基づいて決定しなければならない。なぜなら、たとえばフルオロキノロンと第三世代セファロスポリンの交差耐性を持つ細菌が多く検出される場合には、抗菌薬の選択の仕方如何によって多剤併用の有効性が失われるからである。起因菌の感受性が判明しているのであれば、単剤使用と多剤併用とはどちらも同じような転帰(耐性菌出現率や感染再発率)をもたらす。ただし、緑膿菌に対するアミノグリコシド系薬の単剤投与は例外である。アミノグリコシド系薬以外の薬剤の単剤投与の方が、アミノグリコシド系薬単剤投与より有効性が高い。また、単剤使用が多剤併用より劣る可能性がある状況として、嚢胞性線維症の患者に対する単剤使用が挙げられる。したがって、グラム陰性菌による院内感染の重症例の経験的先行治療では各施設の状況に即した抗菌薬の多剤併用が推奨される。そして、感受性が判明した暁には単剤使用に切り替える(de-escalation)。従来、緑膿菌感染の重症例に対しては二剤併用が広く支持されてきたが、感受性のあるβラクタム剤を選択するのであれば単剤使用でも十分であることが明らかにされている。

教訓 グラム陰性菌による院内感染重症例の経験的先行治療では各施設の状況に即した抗菌薬の多剤併用が推奨されます。そして、感受性が判明した暁には単剤使用に切り替えます(de-escalation)。


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