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グラム陰性菌による院内感染~尿路感染 [critical care]

Hospital-Acquired Infections Due to Gram-Negative Bacteria

NEJM 2010年5月13日号より

尿路感染症

院内尿路感染の起因菌として最も多いのはグラム陰性菌である。ほぼ全例が尿道カテーテル留置症例である。尿道カテーテル留置第2日以降、一日経過するごとに細菌尿発生リスクが5~10%ずつ上昇する。細菌尿が発生しても大半の症例では無症状であり、最も有効な対策は抗菌薬投与ではなくカテーテル抜去である。泌尿器科手術や人工物挿入が予定されている患者では、稀ではあるが無症状の細菌尿から局所および全身合併症に発展することがあるため、抗菌薬の投与を開始すべきである。免疫抑制患者でも同様である。尿道カテーテル関連尿路感染症の合併症としてよく知られているものに血流感染があるが、発生頻度は低い。

米国の最新データでは、尿路感染症の起因菌のうち大腸菌が最多であり、以下多い順に緑膿菌、クレブシエラ属、エンテロバクター属、A. baumanniと続く。大腸菌は、アドヘシン(細胞への付着を媒介する微生物分子)、フィムブリエ(線毛;特殊な付着性小器官)、バイオフィルムといった様々な特殊機構を利用し、宿主防御を障害することによって尿路に感染する。キノロン系薬および広域スペクトラムセファロスポリン系薬は尿路感染症の第一選択薬として用いられることが多いため、これらの抗菌薬に対する耐性菌の出現は大きな問題である。従来、米国を含め、SHV型およびTEM型のESBLs産生菌が院内感染起因菌の多くを占めている。しかし、世界中でESBLs産生菌の様態が変わりつつあり、CTX-M型ESBLs産生菌が増えている。その中でも特にCTX-M-15型ESBL産生菌が拡大している。尿路感染を起こすST131系列の大腸菌はCTX-M-15型βラクタマーゼ産生するものが多い。ESBL遺伝子を伝播するプラスミドには、フルオロキノロン系薬に対する耐性を決定する因子も一緒に伝播するという困った性質がある。院内尿路感染症による合併症を減らし薬剤耐性グラム陰性菌の蔓延を防ぐには、エビデンスに準拠した感染予防策の遵守が強く求められる(Table 3)。抗菌薬含浸または銀被覆尿道カテーテルの使用については、データが十分に蓄積されていない現状では推奨できない。

Table 3 いろいろな院内感染の予防ガイドライン

カテーテル関連尿路感染症

尿道カテーテル管理手順を文書化し実行する。この文書にはカテーテル挿入時のガイドラインについても記載する。
尿道カテーテルは必要な場合に限って挿入する。適応がなくなれば抜去する。
尿道カテーテル以外の方法による排尿管理を考慮する。コンドーム型カテーテルを使用したり、尿道カテーテルの挿入-抜去を必要に応じて繰り返したりする方法を状況に応じて選択する。
無菌持続閉鎖式蓄尿バッグを用いる。
尿道カテーテル洗浄が必要な場合を除き、尿道カテーテルと蓄尿バッグ付属チューブの接続を外さない。
尿流出が閉塞しないようにする。
蓄尿バッグは定期的に空にする。蓄尿バッグ内の尿を回収するための容器は患者一人ずつ別のものを用いる。蓄尿バッグの栓が尿回収容器に触れないように注意する。
外尿道口の部分を抗菌薬溶液で清拭する必要はない。通常の清拭で十分である。
銀被覆または抗菌性カテーテルはルーチーンで使用してはならない。
尿道カテーテル留置患者では症状がなければ細菌尿のスクリーニング検査を行わない。
可能な限り尿道カテーテルの洗浄を避ける。
尿路感染症の予防を目的とした抗菌薬全身投与は行わない。

教訓 尿路感染症の起因菌は多い順に、大腸菌、緑膿菌、クレブシエラ属、エンテロバクター属、A. baumanniです。尿道カテーテルを留置すると、一日経過するごとに細菌尿発生リスクが5~10%ずつ上昇します。
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