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ALI&集中治療2009年の話題③ [critical care]

Update on Acute Lung Injury and Critical Care Medicine 2009

Am J Respir Crit Care Med 2010年5月15日号より

ALIの病因についての動物実験

2009年には、肺傷害発生の機序に関する新たな発見をなし得た動物実験の論文が多数発表された。紙幅の都合により、こうした興味を惹かれる研究のすべてについて言及することはできない。そのうちの二、三を紹介し、その他数編について簡単に触れることにする。上皮細胞間遊走における好中球の役割についての秀逸な論文が発表された。このレビューの内容は、ALIに深く関わるものである。

マウスを用いた実験で、エンドトキシンによるALIの治癒過程においてリンパ球が重要な役割を担っていることが新たに明らかになった。この研究グループはノックアウトマウスと養子細胞移植法の双方を用い、Tregs(CD4およびCD25を発現し、転写因子のforkhead box protein 3[FoxP3]が陽性のリンパ球)が、肺傷害の順調な治癒に不可欠であることを示した。論説では、この新しい分野における研究の進捗状況がうまくまとめられている。別の研究グループは、出血性ショック後腹膜炎敗血症モデルを用いてリンパ球の作用を調べ、IL-10を介した好中球の動員をリンパ球が制御していることを明らかにした。肺傷害の治癒過程に着目した研究では、マクロファージのNF-κB経路が肺の炎症の重症度および持続期間に深く関わっていることを裏付ける更なる知見が得られた。

基礎研究では、ALIの発症過程において血小板が重要な役割を果たしていることが確認されている。マウスを用いた研究で、酸を肺内へ注入した際に発生する好中球を介した肺傷害や、TRALIにおける抗体を介した肺傷害において血小板が決定的な役割を担っていることが明らかにされた。別の研究グループは卓抜な画像処理を用い、血小板が好中球との相互作用によって肺傷害およびその他の臓器傷害を引き起こすことを示した。ALI、血栓症および肺の炎症における血小板のはたらきについての網羅的な総説も発表されている。

敗血症による肺傷害や、その他の臨床的に問題となる臓器障害における凝固因子の作用に着目した研究が行われた。マウスおよびヒトの肺傷害における線維形成応答には、第Ⅹa因子の局所発現量の増加が関与していることが明らかにされた。これはALI発症後にはたらく重要な経路である可能性がある。また、第Ⅹa因子はPAR1(Proteinase-activated receptor 1;プロテアーゼ活性化受容体1)の主要な活性化因子である可能性が指摘されている。別の研究では、uPAR(ウロキナーゼ型プラスミノゲン活性化因子受容体)が好中球の動員において中心的な役割を果たすことに着目し、uPARの発現についての検討が行われた。その結果、エンドトキシン刺激によるuPARの発現には、ホスホグリセリン酸キナーゼおよびヘテロ核リボヌクレオタンパク質のチロシンリン酸化が介在していることが明らかになった。

Toll様受容体(TLR)が関与する非感染性刺激シグナル伝達についての研究が急速に進んでいる。その一つでは、オキシダントとTLRの相互作用が重要であることがマウスを用いたin vitroおよびin vivo研究で示されている。

エンドセリンB受容体がエンドセリン-1によって活性化されNOが産生されると、Na,K-ATPaseのダウンレギュレーションが起こり肺胞の水分除去能が低下することが明らかにされた。ブレオマイシンによるALIおよび肺線維症モデルを用いた研究では、インスリン様成長因子を阻害すると生存率が向上し、線維化が抑制されることが分かった。別の研究グループは、IL-6に肺傷害を軽減する作用があることを明らかにした。

その他にも、肺傷害の成因や新しい治療法の開発につながる可能性のある知見を示した研究がいくつも発表された。

教訓 血小板は好中球との相互作用によって肺傷害およびその他の臓器傷害を引き起こします。インスリン様成長因子を阻害するとALIの生存率が改善します。IL-6には、肺傷害を軽減する作用があります。
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