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ALI&集中治療2009年の話題② [critical care]

Update on Acute Lung Injury and Critical Care Medicine 2009

Am J Respir Crit Care Med 2010年5月15日号より

遺伝とALI

様々な一塩基多型(SNP)がALIの臨床転帰に関わっていることが、数多くの研究で明らかにされている。このテーマについては、優れたレビューが発表された。このレビューでは、ALIに関係する候補遺伝子がまとめられている。そして、特定の集団において複製されている遺伝子を取り上げられ、いくつかの決まった経路に注目し、候補遺伝子がグループ分けされている。このレビューを掲載した編集部による示唆に富んだ解説も同時に発表された。

細胞外SOD(スーパーオキサイドジスムターゼ)は強力な活性酸素除去作用を持ち、過酸化物質による傷害から肺を守る重要な働きを担っている。感染によるALIを発症した異なる二つの患者群における遺伝的変異と連鎖不平衡の様態を明らかにするため、細胞外SODのプロモータと遺伝子の塩基配列を解析するという興味深い研究が発表された。その結果、細胞外SODがGCCTハプロタイプを呈する集団では、人工呼吸期間が短く死亡率も低いことが分かった。

肺炎患者およびALI患者では、血漿中および肺浮腫液中のプラスミノゲン活性化抑制因子-1(PAI-1)濃度が高いほど、死亡率が高いことが分かっている。PAI-1遺伝子の持つ4G/5G多型のうち4G対立遺伝子があると、PAI-1が増え、肺炎による入院の発生率も高いことが明らかにされている。重症肺炎による入院患者111名を対象とした研究で、PAI-1遺伝子4G/5G多型4G対立遺伝子があると、人工呼吸器非使用日数が少なく、死亡率が高いことが示された。小児ALI患者でもPAI-1血漿中濃度が高いほど、死亡率が高く人工呼吸器非使用日数が少ないという結果が得られている。別の研究では、プロテアーゼ阻害物質(elafin)の遺伝子多型が、ARDS発症リスクの上昇に関わっていることが報告された。この相関は、肺以外の要因によるARDSにおいて特に顕著であった。ARDS発症リスク上昇に関与するSNPのある患者では、elafin血漿中濃度が低い。好中球エラスターゼによる傷害に対する宿主の防御力低下とelafinの減少が関係している可能性がある。ALIの発症および重症度に影響を与える遺伝的要因(候補遺伝子、全ゲノム関連解析)に対する関心が急速に高まっている。

ALIの病因についてのヒトを対象とした研究

ALIおよび敗血症のタンパク質バイオマーカと病因や予後との関わりについての研究が、ここ10年あまりのあいだに盛んに行われるようになってきた。ALIの重症度および転帰に影響を及ぼす可能性のあるいくつかの経路が新たに明らかにされている。

デコイ受容体3 (DcR3;シグナルを伝えない囮の受容体)の多寡によって、生存者と非生存者を判別できることが分かった。 DcR3の血中濃度が、28日後死亡率、多臓器不全および人工呼吸器依存状態の遷延と独立して相関することも明らかになっている。TNF-αやIL-6を測定するよりも、DcR3血漿中濃度の方が高い診断精度を誇るが示されている。また、ARDS患者では他の炎症性肺疾患患者や健常者と比べ、BAL中の活性型20Sプロテアソーム(ユビキチン化されたタンパク質の分解を実行する巨大複合型プロテアーゼ)濃度が高いことが報告された。この研究の著者らは、ARDS症例における肺胞内プロテアソームは、肺胞上皮起源であると推測している。

基礎研究と臨床研究を組み合わせた斬新な試みによって、細胞外ヒストンが死亡および敗血症における重要なメディエイタとして作用することが明らかになった。マウスを用いた実験で、細胞外ヒストンは炎症性刺激に対する反応として放出され内皮障害、臓器不全および死亡につながることが分かった。活性化プロテインC (APC)には、ヒストンを開裂させることによって毒性を減弱させるという興味深い作用がある。

ALIの予後や病因診断におけるバイオマーカの有用性を評価する研究が行われ、ALI患者についての理解が進んだ。しかし、一つのバイオマーカだけでは、正確な予後診断には心許ないようである。複数の血中バイオマーカの予後診断精度を評価するため、ARDSネットワークに登録された患者549名について臨床転帰とバイオマーカの関係についての研究が行われた。臨床要因(APACHEⅢスコア、臓器不全の有無、年齢、肺傷害の原因、A-aDO2およびプラトー圧)による死亡予測ROC曲線のAUCは0.82であった。臨床予測因子と8種のバイオマーカを組み合わせるとAUCは0.85となった。臨床予測因子のみの場合よりAUCが有意に大きかった。もっとも予測精度の高いバイオマーカはIL-8とSP-Dであり、急性炎症と肺胞上皮傷害が肺傷害を惹起する主要な原因経路であるという説が裏付けられた。

ゲノム分類によりALI患者の診断及び治療の向上を目指そうとする新しい動きが生まれている。敗血症によりALIを発症した患者13名と、敗血症のみの患者20名を対象とした研究では、末梢血液検体を用いたマイクロアレイ解析が行われた。この研究の規模は小さいものの、ALIに関連する8種類の遺伝子発現プロファイルが発見された。また、内的妥当性を検討したところ、この遺伝子サインによって敗血症のみを発症している患者と敗血症にALIを併発している患者とを100%の精度で判別することができ、陽性的中率は100%であることが分かった。早期ALIと進行したALIのそれぞれについて、遺伝子発現プロファイルによる分類ができれば、病因および予後の評価に役立つ可能性がある。

近年、ALIの発症機序に、凝固促進または抗線溶経路が関与しているという説が大きな話題になっている。ARDS症例における肺浮腫液には、組織因子に富む微粒子が高濃度に含有されていて、その少なくとも一部は肺胞上皮由来であることが1編の研究で明らかにされている。したがって、ARDS患者のairspace内における組織因子による凝固促進活性の発生原因は、肺胞上皮由来の微粒子である可能性がある。この論文についての詳細な解説では、傷害肺のairspace内の微粒子には生物学的活性があり、これは壊死細胞片(debris)が存在することを意味するだけでなく、傷害された肺胞上皮細胞などの何種類かの細胞に由来するものと考えられるという点が強調されている。

教訓 肺炎患者およびALI患者では、血漿中および肺浮腫液中のPAI-1濃度が高いほど、死亡率が高いことが分かっています。PAI-1遺伝子の持つ4G/5G多型のうち4G対立遺伝子があると、PAI-1が増えます。重症肺炎患者では、PAI-1遺伝子4G/5G多型4G対立遺伝子があると、人工呼吸器非使用日数が少なく、死亡率が高いことが示されました。
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