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ALI&集中治療2009年の話題① [critical care]

Update on Acute Lung Injury and Critical Care Medicine 2009

Am J Respir Crit Care Med 2010年5月15日号より

このレビューでは、急性肺傷害(ALI)の疫学、臨床経過、病因および治療の解明に資する論文のうち2009年に発表されたものを概観する。集中治療領域のうち多臓器不全に関する論文についても触れる。ALIの疫学と遺伝的要因についての研究が展開されるにつれ、ALIの発症と転帰に影響を及ぼす環境および遺伝因子の同定を目指して行われる今後の研究に役立つ、いくつもの有望な分野が開拓されつつある。ALIの病因および治癒過程に血小板およびリンパ球が関与している可能性があることに関し、新たな知見が得られた。複数の動物実験および臨床研究によって、ALIの発症と進展の機序や、ALIの転帰を予測する生物学的および臨床的因子の有効性に関する新しい展望が示された。ALI、急性腎不全および敗血症性ショックに対する再生治療の前臨床試験が行われており、臓器不全を伴う重症患者の治療において再生治療が実用的価値を持つという新しい方向性が見え始めている。多施設無作為化試験で、高強度腎代替療法を行っても重症患者の死亡率は低強度の場合と代わらないという結果が示された。別の大規模無作為化試験では、重症患者において血糖値管理を厳格に行うと、従来法の場合と比べ死亡率が上昇することが明らかにされた。

本レビューで扱うテーマは広範囲にわたるため、特に誉れの高い論文しか取り上げることができなかったが、2009年に発表されたその他の文献についても一部触れている。本レビューでは、疫学、定義、遺伝、臨床経過、病因および新しい治療法に関する新しい知見を示した臨床および基礎研究に重点的に焦点を当てた。

ALIの疫学

人種や民族性がALIの死亡率に及ぼす影響は、全くと言っていいほど明らかにされていない。ARDSネットワークが行った試験に登録された患者を対象とした遡及的コホート研究が行われ、人工呼吸患者2362名のデータが検討された(白人1715名、アフリカ系米国人449名、ヒスパニック系米国人198名)。ALI患者のうち、アフリカ系およびヒスパニック系米国人の死亡率は、白人の死亡率より有意に高かった。アフリカ系米国人では、発症時の重症度が高いほど死亡率が高いという相関が認められたが、ヒスパニック系米国人ではこのような相関は見られなかった。この知見に触発され、ALIの死亡率に人種・民族性による乖離が生まれる機序や環境および遺伝要因を解明する研究が進むであろう。

ALI/ARDSの死亡率が低下しているか否かという問題を扱った論文が二編発表された。そのうち一編では過去の文献を検討し、1994までは死亡率の低下が認められるものの1994年以降は低下していないと断じている。数多くの文献が検討されているとはいえ、論文により対象患者がまちまちであるため、それを解釈してまとめるのは困難であった。著者ら自身が指摘している通り、軽度のALIから最重症のARDSまでにわたる症例が解析対象として含まれていた。もう一編の論文では、ARDSネットワーク参加施設で行われた臨床試験の対象となったALI患者の死亡率が検討された。1996年から2005年にかけてARDSネットワークが行った無作為化試験に登録された人工呼吸患者2451名のデータが解析された。1996年における死亡率は35%であり、その後は年を追うごとに低下し、2005年には26%まで下がった。一回換気量や重症度などの共変量と背景因子の調整を行っても、死亡率の経時的低下傾向は認められた(P=0.0002)。したがって、肺保護換気による死亡率低下効果を除いても、重症患者管理全体の進歩によってALI患者の死亡率が低下してきていると言える。

ALIの臨床的定義と早期診断

現行のALIまたはARDSの定義では、気管挿管と人工呼吸が必須条件である。しかし、大半の症例では、気管挿管および人工呼吸開始に先行してALIが発症している。人工呼吸が必要となるより先にALIの診断を下すことができれば早い段階から治療を開始することが可能となり、陽圧換気を要するまでに至らないように手を打つことができ、死亡率の改善にもつながるかもしれない。このテーマに道筋をつけるべく、胸部X線写真上で血管内容量過多もしくは心不全では説明のつかない両肺透過性低下が認められる救急患者100名を対象とした研究が行われた。この100名のうち、入院後ALIを発症したのは33名であった。臨床予測因子についての多変量解析を行ったところ、両側透過性低下があり当初から2L/min以上の酸素投与を要した場合のみがALI発症の予測因子として浮かび上がった。初期ALIという臨床診断が、実際にALIへと進展する症例を予測する際の感度は73%、特異度は79%であった。別の研究グループは、動脈血酸素飽和度と吸入気酸素濃度の比がある一定の値を下回り、胸部X線写真で両側浸潤影または両側肺水腫の所見が認められる患者を自動的に掬い上げる電子スクリーニングシステムの実例を紹介している。この方法によって、入院したその時点でALI発症に気づき、従来よりも早い段階で肺傷害のある患者を同定することができるようになったと報告されている。

教訓 A胸部X線写真上で血管内容量過多もしくは心不全では説明のつかない両肺透過性低下があるとともに来院時から2L/min以上の酸素投与を要することが、ALI発症の臨床予測因子であることが分かりました。


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