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小児肺疾患最前線2009① [critical care]

Update in Pediatric Lung Disease 2009

American Journal of Respiratory and Critical Care Medicine 2010年4月1日号より

過去2年間の小児肺疾患に関する本誌のレビューはAndrew Bushが担当した。この2編のレビューでは、血管病変/肺高血圧症、肺傷害および胎児肺の発生と、小児肺疾患が成人期の肺疾患にどのように関与するかといったテーマに重きが置かれた。2009年には、分子および生理的調節因子から、前駆細胞を用いた治療法までの幅広い範囲にわたる研究結果や、肺の発生に影響を及ぼす環境要因についての新しい知見が報告された。今年のレビューでは、2009年の主だった研究の一部を紹介し、今後の新しい研究が進むべき有望な方向性を示すことにする。

肺胞形成、肺の発達、機能

ヒトの肺は当初は嚢状である。妊娠32週頃に、この嚢状肺から肺胞の形成が始まると考えられている。満期出生児の新生児期における肺胞数は、成人の20%程度しかない。最近の研究で重点的に取り上げられているテーマが三つあり、これらは肺胞形成、早期産、気管支肺形成異常(BPD)および乳児の肺関連転帰についての我々の考えに大きな影響を及ぼしている。その三つのテーマを以下に記す。(1)BPDがあると、肺胞数が少なく異常な微小肺血管構造を持つ成人肺ができあがる。この件についての詳細な論文が最近発表された。(2)肺胞形成は2~8歳になっても完了せず、一生を通じて新しい肺胞が形成され得る。(3)乳児期の肺機能が不良であると、青年期における肺機能も芳しくないと予測される。早期産はそれ自体だけで、長じてからの肺疾患罹患の危険因子であると考えられている。在胎30週未満で出生した場合に、肺疾患を引き起こす主要な原因が二つ挙げられる。炎症/感染と子宮/胎盤血管異常である。子宮内感染は肺の発生と血管の発生に影響を及ぼす強力な要因である。子宮内感染があると肺の成熟過程が誘発され、異常な肺胞形成が引き起こされる。子癇前症の原因となったり、胎児成長を妨げたりするような子宮胎盤血管異常があると、肺胞および肺血管の発生にも悪影響を及ぼす。早期産児では、出生後明らかな肺病変がない場合であっても肺に異常がある。BPDに伴う肺胞形成異常は、その極端なかたちであるだけなのかもしれない。

正常満期出生児でも肺機能が低下していると、10歳時における喘息および22歳時における閉塞性障害のリスクが高い。このリスクを踏まえると、早期産児の場合は、肺の発達異常も相まって肺機能の転帰は非常に不良であると思われる。出生時の肺機能と出生以降の肺の異常との関わりについて、2編の論文が最近発表された。Caudriらは、出生時低体重を呈した満期出生児は、2歳から6歳のあいだに呼吸器系症状を訴えることが多いということを明らかにした。幸い、7歳時には正常体重児との差異はなかった。Walterらが行った大規模症例対照研究では、超低出生体重児(<1.5 kg)および中等度低出生体重児(1.5–2.5 kg)は、青年期(18~27歳)に喘息、呼吸器感染症あるいは呼吸不全のため入院する例が多いことが明らかにされた。反対に、Narangらによる2編の報告はもっと楽観的である。その一つである160名の中等度早期産児(平均出生体重1.44 kg、平均在胎週数31.5週)を対象とした研究では、早期産児では呼吸器系症状は多いものの、21歳時に調べてみると正常対照群と遜色のない呼吸機能を示すことが分かった。もう一つの研究では、これと同じ早期産児コホートと正常対照群において、安静時、負荷時および負荷後再安静時の心肺機能を評価した。安静時における一酸化炭素拡散能と実効肺血流は対照群に比べ早期産児群の方がやや低いが、負荷時にはこの差がなくなる事が判明した。安静時の異常についてはうまく説明できないが、負荷時には早期産児群と正常群とのあいだに差がなくなることから、早期産児出身の青年における肺機能障害は微々たるものであることが分かった。

早期産児における長じてからの肺機能の転帰について、現在では数多くの研究が蓄積されている。肺の転帰に関与する要因は、出生時体重、在胎週数、出生後急性・慢性肺疾患(例えばARDSやBPD)および小児期の続発性肺関連疾患(例えばRSウイルス感染)である。しかし、早期産児における出生後の肺機能の発達が、満期出生児における出生後の肺の発達と同様の経過をたどるのだとすれば、早期産児の成人になってからの肺機能は不良であると予測される。早期産児は出生後、満期の時期に至っても、満期出生児よりも気道が狭小である。BPDの乳児は満期の時期に至っても肺機能が異常であることがあり、その場合、小児や成人における呼吸不全と同様の所見(呼吸回数増加、PaO2低下、PaCO2上昇)を呈する。早期産児が概ね問題のない肺の転帰をたどるには、幼少期は及ばずそれ以降までも肺胞と微小肺血管の形成が続かなければならない。

以前は、ヒトの肺胞は2~8歳までは数が増加し、それ以降は大きさが増すと考えられていた。ヒトの肺胞壁の肺胞毛細血管網は二重にはなっていないので、成人の肺では新たな肺胞形成は行われないと思われていた。しかしBurriは、成人肺の胸膜表面に新しく肺胞が形成される部位を発見した。また、Schittnyらは毛細血管網がヒトと同じく単層の肺胞壁を持つラット肺を用い巧みな鋳型標本を作成し画像処理を施すことによって、成体でも肺胞が形成され続けていることを示した。BPDのため肺の発生が停止してしまった乳児が生存するには、成人になっても肺胞がこのように成長または再生することが必須であると考えられる。なぜなら、出生時体重が1kg未満でBPDのある早期産児でも、成人になるまで生存した例では大半がほぼ正常な肺機能を呈することが経験的に知られているからである。成人後の肺胞増大を促進する治療を開発するには、「出生後の肺胞発達」を解明しなければならない。その第一歩が、肺の生検や形態計測を行うことなく肺の発達を評価する手法の開発である。Balinottiらは正常乳児の一酸化炭素拡散能(DLCO)と肺胞容量を測定し、2歳になるまで両者が同じように増大することを明らかにした。すなわち、DLCOと肺胞容量の比が一定であることが分かった。つまり、肺胞数の増加によって肺が発達することを突き止めたのである。この手法は、早期産児における肺の発達を評価する際にも有用であると考えられる。早期産児出身小児の肺機能は、新しく開発された3~7歳の正常児用のスパイロメトリー百分率チャートとの比較でも評価しうる。

教訓 ヒトの肺胞は2~8歳までは数が増加し、それ以降は大きさが増すとされていましたが、現在では成人でも新しく肺胞が形成され数が増えるのではないかと考えられています。
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