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麻酔文献レビュー2010年4月② [anesthesiology]

Anesthesia Literature Review Perioperative Medicine

Anesthesiology 2010年4月号より

Downwardly Mobile:The Accidental Cost of Being Uninsured
Arch Surg. 2009;144(11):1006-1011.

2007年の時点で、米国民のうち4570万人(15.3%)が無保険者であり、今後10年間のうちに無保険者がさらに1000万人増加すると予測されている。医療保険の内容や有無によって、スクリーニング検査、入院適応、治療内容および転帰が異なることが複数の研究で明らかにされている。成人無保険者は、医療保険に加入している成人と比べ死亡リスクが25%も高い。救急医療および出産に関する法律(Emergency Medical Treatment and Active Labor Act; EMTALA: 1986年成立の連邦法。メディケア患者を受け入れる病院では、救急患者および急な分娩症例を病状が安定するまで治療しなければならないという法律。)などの規制が実施され、医療保険の有無によって受けられる医療の質に差が生ずることのないように対策が講じられてはいるが、外傷患者の転帰(院内死亡率)も保険の有無によって異なる可能性がある。外傷患者における転帰の差を評価するため、National Trauma Data Bankに保管されている2002年から2006年までのデータを集めた。このデータは、米国に所在する900ヶ所以上の外傷治療センターに収容された270万人の患者についての情報である。

黒人およびヒスパニックの患者は白人患者よりも無保険である者が多かった(オッズ比3.29 vs 4.36)。同様に、女性よりも男性の方が無保険者が多かった。院内死亡を独立変量として解析したところ、調整前の結果では無保険者の方が有意に死亡率が高かった(オッズ比1.39; P<0.001)。性別、人種、年齢、ISS(injury severity score)、RTS(revised trauma score)および受傷機転についての調整を行ってもなお、無保険者の方が死亡率が有意に高かった(オッズ比1.80; P<0.001)。基礎疾患を持っている可能性の低い若年患者を対象としたサブグループ解析でも、無保険者の方が死亡率が有意に高かった(オッズ比1.89; O<0.001)。頭部外傷患者を対象としたサブグループ解析でも、無保険者の方が有意に死亡率が高く(オッズ比1.65; P<0.001)、基礎疾患が一つ以上ある患者のサブグループでも同様であった(オッズ比1.52; P<0.001)。

解説
貫通創または鈍的外傷を負った無保険患者のリスク調整後死亡率は、医療保険に加入している場合よりも高い。このような差が生ずる理由として考えられるのは、治療開始の遅れと治療内容の違いである。

Impact of Left Ventricular Assist Device Bridging on Posttransplant Outcomes
Ann Thorac Surg 2009;88:1457-1461

ドナー心臓の数は、需要が供給を上回っている。そのため、保存的治療では状態が十分に安定しない移植待機患者ではLVAD (左心補助装置)の使用や強心薬の経静脈投与などが、移植までの間をもたせるための治療法として選択されることがある。しかし、LVADの短期的および長期的な有効性については、肯定的データも否定的データも報告されている。

移植臓器供給全米ネットワーク(UNOS; United Network for Organ Sharing)のstatus 1(移植の医学的緊急度が最も高い)に該当する心移植待機患者のうち、1994年から2007年までの期間に移植までのつなぎの治療として植え込み型LVADが使用された患者(86名)と、強心薬の経静脈投与のみが行われた患者(173名)を対象とした遡及的調査を実施した。

基準時点の背景因子および移植前の血行動態は両群で同等であったが、LVAD群の方が移植時点において人工呼吸が行われている患者が占める割合が高かった(6.7% vs 4.6%; P<0.02)。LVAD群ではLVAD使用によって血行動態(心係数、肺血管抵抗、中心静脈圧およびPCWP)が有意に改善した。

移植後1年間の感染性合併症および拒絶反応の発生率はLVAD群と強心薬のみの群とで同等であった。しかし、移植後腎機能障害の発生率は、強心薬のみの群の方が高かった。

解説
末期心不全患者では、心移植までのつなぎの治療として強心薬の経静脈投与およびLVADが選択される。昔はLVAD植え込み患者の死亡率が高かった。しかし、新世代のLVADを使用すれば、短期および長期の移植後生存率および合併症発生率は、強心薬のみを使用した場合と遜色ない。
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