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硬麻・脊麻による感染性合併症の予防・診断・管理~予防① [anesthesiology]

Practice Advisory for the Prevention, Diagnosis, and Management of Infectious Complications Associated with Neuraxial Techniques: A Report by the American Society of Anesthesiologists Task Force on Infectious Complications Associated with Neuraxial Techniques

Anesthesiology 2010年3月号より

科学的エビデンス
カテゴリーA:有力な文献あり。RCTで特定の臨床転帰について有意差が認められている。レベル1~3に分類。
カテゴリーB:可能性を示唆する文献あり。観測研究で有効または有害であることが示されている。レベル1~3に分類。
カテゴリーC:有効か有害か決着がついていない。レベル1~3に分類。
カテゴリーD:十分なエビデンスがない。

見解に基づくエビデンス
カテゴリーA:研究作業部会に関わった顧問の見解が一致している。
カテゴリーB:ASA会員から無作為に選ばれた麻酔科医の見解。広く肯定されている、肯定されている、賛否両論、否定されている、強く否定されている、の5段階に分類。
カテゴリーC:非公式見解。学会、インターネット、学会誌のレターや論説など。

Ⅰ. 硬膜外麻酔・脊髄クモ膜下麻酔による感染性合併症の予防

硬膜外麻酔・脊髄クモ膜下麻酔による感染性合併症の予防についての論点を以下に挙げる:

(1) 病歴聴取、理学所見および術前検査の実施
(2) 硬膜外麻酔・脊髄クモ膜下麻酔の適応と選択
(3) 抗菌薬予防投与
(4) 無菌操作の実施
(5) 消毒液の選択
(6) カテーテル挿入部位の無菌密閉ドレッシング材貼付
(7) 持続的硬膜外注入時の細菌フィルタの使用
(8) 硬膜外麻酔・脊髄クモ膜下麻酔用薬剤投与ラインの接続外しおよび再接続回数の制限
(9) カテーテル接続部位が偶発的に外れてしまった場合の管理
(10) カテーテル留置期間の短縮

(1) 病歴聴取、理学所見および術前検査の実施
硬膜外麻酔・脊髄クモ膜下麻酔に関係する病歴採取(例;過去の臨床記録を閲覧する)、理学所見または術前検査の意義を明らかにすることを目的とした比較対照試験は行われていない。複数の観測研究では、患者特性または臨床経過の特性(例;癌、糖尿病、免疫能低下)によっては、硬膜外麻酔・脊髄クモ膜下麻酔による感染の危険性が上昇する可能性が示唆されている(カテゴリーB2)。さらに、症例報告でも、既に感染がある、膵炎、消化管出血、薬剤またはアルコール乱用などに該当する患者では硬膜外麻酔・脊髄クモ膜下麻酔による感染が合併しやすい可能性があることが示されている(カテゴリーB3)。

本研究作業部会顧問およびASA会員の両者とも、硬膜外麻酔・脊髄クモ膜下麻酔実施に先立ち、病歴および理学的所見をとり、術前検査の評価を行うことを強力に支持している。病歴、理学的所見および検査結果が、硬膜外麻酔・脊髄クモ膜下麻酔による感染性合併症のリスクの高い患者を見極めるのに有用であるという説については、作業部会顧問は肯定、ASA会員は強く肯定という見解が示された。

(2) 硬膜外麻酔・脊髄クモ膜下麻酔の適応と選択
硬膜外麻酔または脊髄クモ膜下麻酔それぞれの感染性合併症発生リスクを明らかにするため、以下に示す比較を行った:(1) 硬膜外vs脊髄クモ膜下麻酔、(2) 持続注入またはカテーテル使用vs 穿刺後一回のみ注入、(3) 腰部硬膜外麻酔 vs 胸部硬膜外麻酔、(4) 腰部硬膜外麻酔 vs 仙骨硬膜外麻酔。

硬膜外麻酔または脊髄クモ膜下麻酔の特定の方法について、感染性合併症の発生率を比較した無作為化比較対照試験は見当たらなかった(カテゴリーD)。無作為化割り当てが行われていない比較試験一編では、腰部硬膜外穿刺と脊髄クモ膜下穿刺に用いられた針先の細菌汚染の比較が行われ、有意差はないという結果が報告されている(カテゴリーC2)。この研究を基に、持続注入またはカテーテル挿入と、穿刺後一回のみ注入の感染性合併症の発生率の違いを検討することはできない(カテゴリーD)。一編の症例対照研究で、腰部硬膜外麻酔と胸部硬膜外麻酔を比較し、カテーテル感染に差はないという結果が得られている(カテゴリーC3)。無作為化が行われていない比較研究三編で、腰部硬膜外麻酔と仙骨硬膜外麻酔におけるカテーテル先端の細菌定着の比較が行われ、有意差は認められなかった(カテゴリーC3)。

本作業部会顧問およびASA会員の両者とも、感染リスクがあることが分かっている患者では、硬膜外麻酔または脊髄クモ膜下麻酔実施の可否の決定は症例ごとに判断することを強く支持している。感染リスクのある患者では硬膜外麻酔または脊髄クモ膜下麻酔に代わる麻酔方法を考慮すべきであるという説については、作業部会顧問は肯定、ASA会員は強く肯定という見解が示された。さらに、本作業部会顧問およびASA会員の両者とも、硬膜外麻酔または脊髄クモ膜下麻酔のいずれの方法を選択するかを決める際に、患者の臨床経過を念頭に置くことを強く支持している。本作業部会顧問およびASA会員の両者ともが、硬膜外膿瘍があることが分かっている患者では脊髄クモ膜下麻酔を回避することを強く支持している。

(3) 抗菌薬予防投与
関連する文献が少ないため、硬膜外麻酔または脊髄クモ膜下麻酔による感染性合併症のリスクが、抗菌薬の予防投与によって低下するかどうかを正確に判断することはできない(カテゴリーD)。症例報告では、抗菌薬を予防投与しても感染性合併症が起こりうることが示されている(カテゴリーB3)。

菌血症が確定または疑われる患者に硬膜外麻酔または脊髄クモ膜下麻酔を行う際に、穿刺に先立ち抗菌薬を投与することを、本作業部会顧問およびASA会員の両者ともが強く支持している。

(4) 無菌操作の実施
硬膜外麻酔または脊髄クモ膜下麻酔による感染性合併症が、無菌操作(例;装身具を外す、手洗い、帽子とマスクの装着、無菌手袋の使用)によって減るかどうかを判断する材料となる文献は不足している(カテゴリーD)。観測研究では、無菌操作を行っても感染が起こりうることが示されている(カテゴリーB2)。症例報告でも同様である(カテゴリーB3)。

特定の消毒液の使用によって硬膜外麻酔または脊髄クモ膜下麻酔に関連する感染性合併症が減らせるか否かを報告する文献は不足している(カテゴリーD)。しかし、二編の無作為化比較対照試験では、硬膜外カテーテル留置時の皮膚消毒にポピドンヨードを使用したときよりも、クロルヘキシジンを使用したときの方が培養陽性率低いことが明らかにされている(カテゴリーA2)。ポピドンヨードだけの消毒液よりも、アルコールとポピドンヨードの混合溶液(DuraPrep)の方が、皮膚and/orカテーテルおよび針の細菌増殖を防ぐ効果が高いことが二編の無作為化比較対照試験で示されている(カテゴリーA2)。

硬膜外麻酔または脊髄クモ膜下麻酔実施時には、無菌操作(手洗い、無菌手袋の着用、帽子の着用、マスクを装着し口と鼻の両方を覆う、皮膚消毒に使用する器材は単回使用のものにする、無菌ドレープを用いる)を必ず行うことを、本作業部会顧問およびASA会員の両者ともが強く支持している。また、無菌操作には指輪などの装身具を外すことを含むべきであることを、本作業部会顧問およびASA会員の両者ともが肯定している。手術用ガウンの着用については、本作業部会顧問およびASA会員の双方から賛否両論の見解が示された。症例ごとにマスクを新しいものに交換することについては、作業部会顧問は肯定、ASA会員はどちらともいえない、という見解を示した。

教訓 準汚染手術後のSSI予防効果についても、ポピドンヨードよりクロルヘキシジンアルコールの方が有効性が高いことが示されています(NEJM 2010年1月7日号 Chlorhexidine–Alcohol versus Povidone–Iodine for Surgical-Site Antisepsis)。米国では皮膚消毒に用いるクロルヘキシジンの濃度は2%ですが、日本では0.5%以下の濃度で使うことに定められています。0.5%クロルヘキシジンアルコールでも同様の結果が得られるかどうかは分かりません。


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