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麻酔文献レビュー2010年3月 [anesthesiology]

Anesthesia Literature Review Perioperative Medicine

Anesthesiology 2010年3月号より

Risks of Complications by Attending Physicians After Performing Nighttime Procedures
JAMA. 2009;302(14):1565-1572.

レジデントの疲労と医療過誤の関連については世間の注目が集まっているが、熟練医師の労働時間および睡眠と患者の安全との関連についての研究はほとんど行われていない。

ここに紹介した研究は指導医(外科医86名、産婦人科医134名)が実施した手術・手技についての後ろ向きコホート研究である。指導医は研究対象手術実施の前夜(夜12時から朝6時)に開始and/or終了した手術を実施するために在院していた。本研究では、睡眠時間が翌日に行われる手術の合併症発生リスクと関連するかどうかが検証された。同じ医師が前夜に手術を行わなかった場合に実施した、5種類までの類似の手術を対照手術としてマッチングした。

前夜にも手術を行った場合に行われた手術の件数は、外科919例、産科957例であった。対照手術は、それぞれ3552例、3945例であった。前夜実施群と対照群とで、全合併症発生率(5.4% vs 4.9%)および回避可能合併症の発生率(4.6% vs 4.7%)には有意差は認められなかった。合併症の種類についても二群間に違いはなかった。前夜実施群の手術では、実施者の睡眠時間が6時間未満であった場合には、6時間以上の睡眠が確保された場合よりも合併症発生率が高かった(6.2% vs 3.4%)。前夜実施群の手術が連続12時間以上の勤務時間の後に行われた場合は、12時間未満の場合よりも合併症発生率が有意ではないが高い傾向が見られた(6.5% vs 4.3%)。

解説
予定手術を行う指導医が前夜にも働いていた場合、睡眠時間が6時間未満であると6時間以上であったときよりも合併症発生率が高い(6.2% vs 3.4%)。レジデントや大半の麻酔科指導医に適用されているのと同じ勤務規則を、外科指導医にも適用すべきかどうかを明らかにするには同様の研究をさらに行う必要がある。

Collected world and single center experience with endovascular treatment of ruptured abdominal aortic aneurysms.
Ann Surg. 2009 Nov;250(5):818-24.

破裂腹部大動脈瘤(RAAAs)に対する動脈瘤血管内治療(EVAR;ステントグラフト内挿術)の実施可能性および有効性については、しっかりした報告例が蓄積されておらず、前向き研究のデータもないため、甲論乙駁が続いている。

本研究では、世界中の49施設からRAAAsに対するEVAR実施例についての情報収集を行った。解剖学的にEVARが可能であればRAAAsでも全症例にEVARを行っている13施設からは、重ねて最新の情報も得た。本研究の著者が所属する施設で行われた単一施設研究のデータも併せて検討した。

全体では、EVARが行われた1037名の30日後死亡率は21.2%であった。解剖学的にEVARが可能な症例ではRAAAsでも全例にEVARを実施している施設では、RAAAs症例の49.1% (28%-79%)に対しEVARが行われ、EVAR実施症例(680例)の30日後死亡率は19.1% (0%-32%)、開腹術実施例(763例)の30日後死亡率は36.3% (8%-53%)であった(P<0.0001)。EVAR症例のうち、腹腔動脈上バルーン閉塞により出血を制御したのは19.1%、腹部コンパートメント症候群に対し減圧術が行われたのは12.2%であった。

解説
破裂腹部大動脈瘤の患者は死亡率が高い。破裂腹部大動脈症例では開腹術と比べEVARの方が死亡率が低いことが本研究で明らかにされたことから、解剖学的にEVARが可能な症例ではEVARを選択する方が良好な結果が得られる可能性があると考えられる。

Effect of High Perioperative Oxygen Fraction on Surgical Site Infection and Pulmonary Complications After Abdominal Surgery:The PROXI Randomized Clinical Trial.
JAMA. 2009;302(14):1543-1550.

腹部手術後には、重篤な術後合併症である手術部位感染が発生することが珍しくない。周術期に酸素化を良好に維持すると、組織酸素分圧が適切に保たれ順調な創傷治癒が得られるというメリットがあると考えられている。しかし、術中および術直後に吸入気酸素分圧を高くすることについては、賛否両論がある。

PROXI試験は、デンマークに所在する14か所の病院で行われた無作為化二重盲検臨床試験である。緊急または予定開腹手術を受ける1400名の患者を対象とし、80%酸素投与の有効性と危険性についての評価が行われた。対象患者は80%酸素または30%酸素の群に無作為に割り当てられ、術後2時間割り当てられた濃度の酸素を投与された。

手術部位感染および肺合併症の発生率には群間に有意差を認めなかった。

SSI    80%酸素群19.1% 30%酸素群20.1%
結腸直腸術後合併症 80%酸素群23.7% 30%酸素群25.1%
無気肺  80%酸素群7.9% 30%酸素群7.1%
肺炎    80%酸素群6.0% 30%酸素群6.3%
呼吸不全 80%酸素群5.5% 30%酸素群4.4%
30日後死亡率 80%酸素群4.4% 30%酸素群2.9%

解説
開腹術後2時間の吸入気酸素濃度が80%である場合と30%である場合を比べたところ手術部位感染発生率には有意差はなかった。無気肺、肺炎および呼吸不全などの肺合併症についても有意差は認められなかった。手術部位感染を予防する目的で高い吸入気酸素濃度の術後酸素投与を標準的治療とすることの当否は、大半の術式においてまだ明らかにはされていない。

On-Pump versus Off-Pump Coronary-Artery Bypass Surgery.
New Engl J Med 2009; 361: 1827-37

人工心肺使用冠動脈バイパス術(on-pump CABG)を行うと、虚血による症状が改善し生存率が延長する。しかし、血行動態が不安定になるなどの術後合併症は、人工心肺非使用冠動脈バイパス術(off-pump CABG)の方が少ない可能性がある。

本研究は無作為化単盲検比較対照前向き試験であり、準緊急または予定の人工心肺使用または非使用CABGを受けた患者(2203名)について死亡率および合併症発生率の比較が行われた。

人工心肺使用CABG群(1099名)と比べ人工心肺非使用CABG群(1104名)の方が一年後複合転帰(死亡、血管再開通術の再施行もしくは非致死的心筋梗塞)が不良であった(on-pump 7.4% vs off-pump 9.9%)。術前に予定していたグラフト数よりも実際に手術が成功したグラフト数の方が少なかった患者の割合は人工心肺非使用CABG群の方が高かった(on-pump 11.1% vs off-pump 17.8%)。全体のグラフト開存率も人工心肺非使用CABG群の方が低かった(on-pump 87.8% vs off-pump 82.6%, P<0.01)。一年後の追跡調査でも、心合併症による死亡率は人工心肺非使用CABG群の方が高かった(on-pump 1.3% vs off-pump 2.7%)。30日後複合転帰(死亡または合併症発生)には有意差は認められなかった(on-pump 5.6% vs off-pump 7.0%; P=0.19)。神経学的転帰および主要医療資源の短期使用についても差はなかった。

解説
人工心肺非使用冠動脈バイパス術(off-pump CABG)と人工心肺使用冠動脈バイパス術(on-pump CABG)を比較したところ、患者の複合転帰(死亡、心筋梗塞または血管再開通術の再施行)はoff-pump群の方が不良で、一年後グラフト開存率もoff-pump群の方が低かった。以上のデータからは、off-pump CABGをルーチーンで選択するのは避けるべきであると言える。

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